女の子の服、なぞって破る――「妄撮 for iPhone」が誕生するまでiPhoneアプリビジネス最前線

画面を指でなぞって洋服を破き、オリジナルのグラビア写真を作れるアプリ「妄撮 for iPhone」。開発の背景には、「写真集を単にデジタル化するだけでは意味がない」という強い思いがあった。

» 2010年03月03日 08時00分 公開
[小林清剛(聞き手),Business Media 誠]

連載「iPhoneアプリビジネス最前線」

 iPhone/iPod touch向けアプリケーション配信サービス「App Store」は現在、アプリケーション総数15万超、ダウンロード回数は累計30億回を突破し、その市場は加速度的に広がりを見せている。これまでの携帯電話向けアプリやコンテンツは国内がメインだったが、iPhoneアプリは全世界が対象だ。

 連載「iPhoneアプリビジネス最前線」では、戦いの舞台を世界に移した開発者やビジネスプランナーたちがどのような発想で、どのような仕事の仕方をしているかに迫る。聞き手は、iPhoneアプリ向けの広告配信サービスなどを手がけるノボットの小林清剛社長。


 「妄想」を「撮影」する、という男子禁断の夢を実現した人気写真集「妄撮」。そのiPhoneアプリ版である「妄撮 for iPhone」が先月リリースされた。リリース後5日間で総合ランキング2位、エンターテインメントランキング1位を記録。中国や香港、台湾でも軒並みトップ3にランクインするなど快進撃は止まらない。

米Appleは2月中旬、水着画像などを含む成人向けアプリをApp Storeから大量削除した。妄撮 for iPhoneもこの時期に削除され、3月3日現在でも購入できない状態が続いている。

 そこで今回は、「妄撮」のプロデューサーである小林司氏に「妄撮 for iPhone」の開発の経緯からアプリに込めた思いについて聞いてみた。

「写真集を単にデジタル化しただけ」では意味がない

ノボット小林清剛(以下、ノボット) 講談社にはさまざまなコンテンツがありますが、なぜ「妄撮」をデジタル化しようと考えたのでしょうか。また、デバイスにiPhoneを選んだ理由は?

講談社 第四編集局 新企画出版部の小林司副部長。妄撮のプロデューサーを務める

講談社小林司(以下、講談社) 2006年に妄撮が始まってからずっと、カメラマンのTommyさんとデジタルでやりたいとは話していました。妄撮を選んだのは、(自分で破るという)企画自体がデジタルでないと実現できないものだったから。写真集をサイズダウンしていけば、デジタルで表現できるだろうと。

 写真集がただ単にアプリになったと言われないためにも、紙媒体では不可能な「自由なところを破る」というコンセプトをどうしても実現させる必要がありました。「自由なところを破る」という要素を入れることでユーザーにクリエイトしてもらえる。それを現段階で実現できるデバイスがiPhoneだったんです。

 今までの(携帯電話の)キャリアでは、破るという気持ちよさをダイレクトに表現するのが難しく、また、デジタルのグラビア写真集などが「紙媒体の下」という位置付けになってしまっている状況で、デジタルでやる以上は紙媒体を超えるものでなくてはいけないと思っていました。

ノボット やはり一番こだわられたのは、“破る”という部分ですか。

講談社 これはもう、僕よりもカメラマンのTommyさんですね。すごいこだわりでした(笑)。

 破る気持ちよさは一番表現したかった部分。使ってくれている人がどれだけ気持ちよく破れるかが重要です。音もそうですけど、破る触感をリアルに表現したいと思いました。指で画面をなぞったときに破れ方が滑らかすぎてもだめですし、かといって遅すぎてもつまらない。なので、指のスピードに「ほんの少し遅れて」破れていくようにしたんです。これはすべて、企画・開発を担当した製作チーム「VASILY」の頑張りです。これによって、多少なりとも本当の紙を破いているような感覚を味わってもらえたのではと思います。

 “破る”という初期衝動をデジタルで表現していくことにもこだわりました。100人いれば100通りのグラビアができると思います。この“破る”という感覚の楽しさをこのアプリで楽しんでほしいですね。

 アプリ第1弾は、iPhoneアプリで表現できる感覚的な部分、「気持ちよさ」を大事にしたかったので、いろいろな機能はつけず、まずシンプルに「自由に破れる」=「自分でグラビアを作れる」ということを追求したかったのです。

ノボット Webサイトでは、全世界のアプリユーザーの破った距離を測定する「みんなの妄想、月まで届け」という企画もありますが(笑)。

講談社 男のくだらないようなエロへのこだわりって、いつもロマンと結びついていると思うんです(笑)。それを結びつけて表現したかった。

 エッチなことを想像したり、妄想したりするというのは男の子のパワーの源だと思うんですね。おそらく女の子から見たら一生懸命に破っている姿なんかばかばかしく見えるのかもしれませんが、「世界の裏側でも破っている人がいて……」とか考えたら、その破っているときの情熱だったり、姿ってなんか尊いものだと思うんです。それこそロマンだなと。そしてロマンと言えば月だなと(笑)。ということで、こんな企画になりました。

 38万キロと果てしない距離ですけど、シリーズを通して達成するんだったら、このくらい無謀な目標のほうがいい。これほど大きな数字だったら、達成しただけでニュースに値するだろうと。男の子の無謀なことへ挑戦したいという本能的な部分も、このアプリを通して実現できればと思っています。

「ワンソース・マルチユース」でやっていけるコンテンツを作る

ノボット そもそも、「妄撮」が生まれたきっかけを教えてください。

講談社 妄撮の原点となったのが、2006年秋創刊の『キング』という雑誌の創刊2号目で行った「女の子特集」なんです。この企画を始める時に、現在も妄撮のカメラマンを担当しているTommyさんと会わせていただいたんです。

 当時、Tommyさんはニューヨークでファッション関係のカメラマンとして活躍されていて、「今後は日本で活動する」というところでした。その時に、ニューヨークで撮影していた“破る”という手法のファッション写真を見て、すぐに「これだっ!!」と思いました。そして、早速、女の子特集でこの“破る”コンセプトをグラビアに落とし込んだのが始まりです。

ノボット 「妄撮」というタイトルはどうやって決められたのですか?

講談社 1回目が好評で、連載化するにあたって、当時の編集長から「名前があった方がいい」と言われたんです。当初、編集部や関係者の中では「ビリビリ」という名前がついていたんですが、それよりもインパクトのある名前のほうがいいと思いまして。でも、考えてはみたけれどなかなか思いつかない。ギリギリで思いついたのが「妄撮」でした。ベタな名前なんですが、あまり格好よくしたくないと思ったんです。

 一世を風靡(ふうび)した篠山紀信さんの「激写」からインスピレーションを受けて、「妄想」を「撮影する」で「妄撮」。妄想というのは今の男の子の気分ですし、コンセプトを完全に表現していて、インパクトがあるかなと。そして何より、読者への広まりも早く、『キング』の中でも一番の人気コンテンツとなりました。残念なことに『キング』自体は2年で休刊することになりましたが、幸運なことに妄撮は残ることができ、こうやって現在iPhoneアプリまで出せたことに感謝しています。

雑誌の読者モデル(読モ)が被写体の『読モーサツ』や、貼ってはがして何度でも楽しめる『妄撮シールブック』など、バリエーションも充実

ノボット 今や人気コンテンツの妄撮ですが、作るにあたって気をつけている点などはありますか?

講談社 最初はAmazon.co.jpで火がついて、その後口コミで広がっていきました。講談社にはヤングマガジンやFRIDAYなど既存のグラビアの王道のような雑誌がありますので、それらとは違う、新しく見えるように気をつけました。

 妄撮はファッションのカメラマンであるTommyさんが撮っているところも特徴。エロ過ぎず、女の子から見てもモデルの女の子がカワイイ、カッコイイと思ってもらえるような仕上がりになるよう気をつけています。

 グラビアのように「見せにいく」のではなく、「見に来てもらう」ようなもの。枚数勝負ではなく、一つの作品として作り上げていくことが大事。その中で、あまりエロすぎないことで、読者に想像の余地を残すようにしているんですね。これがタレントさんや女優さんの名前に頼らず、コンセプトで勝負できるコンテンツを作り上げていくのに必要不可欠な部分だと感じています。

 妄撮は、既存のジャンルにはしっくり収まらない分、さまざまなところで表現の場をいただいています。私は妄撮のことを「エンターテイメントソース」だと考えていて、「ワンソース・マルチユース」でやっていけるコンテンツだと感じています。


 現在は米Appleの規制を受け、App Storeから削除されている妄撮 for iPhoneだが、インタビュー時には次期バージョンである“チャプター2”の構想についても話を聞けた。それによると、チャプター2からは「米国でも売れる」ということを意識し、登場する女の子の人数アップや、操作性の向上など機能追加を行う予定であるという。まずはApp Storeへの再登録が叶うことを期待して、今後の展開を楽しみに待つこととしよう。

聞き手 小林清剛(こばやし・きよたか)

1981年東京都生まれ。ノボット代表取締役社長。学生時代から起業し食料品の輸入販売・インターネット通販事業を開始して、コーヒー豆・器具を約3000品販売する日本最大級のコーヒー通販サイトを運営。同時に、人材、教育、エンターテイメントなど十数社の事業立上げに参画。2009年4月に株式会社ノボットを設立して、現在は国内外のスマートフォン用アプリへのアドネットワーク事業、アプリの企画・開発、およびプロモーション事業を展開している。


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