フリーミアム戦略を図解思考してみる――4つのケース最強フレームワーカーへの道

クリス・アンダーソン著の『フリー』というビジネス書がベストセラーになっている。この書籍の中で「フリーミアム」というビジネスモデルの話が出てくるが、何でもかんでも無料のビジネスにするかのように思えてくるが、実際はどうなのだろうか。図解思考で考えてみた。

» 2010年03月01日 15時20分 公開
[永田豊志,Business Media 誠]
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 「フリーミアム」という言葉をご存じだろうか? この言葉を知らなくても、クリス・アンダーソン著の『フリー』というビジネス書ベストセラーになっているのは知っている人も多いだろう。どの書店に行っても、この青い表紙がうずたかく平台に積まれているのを見ることができる。

 著者のクリス・アンダーソンは米ワイアード誌編集長で、かつて「ロングテール」というWeb2.0的なる新コンセプトを打ち出した人物。従来のリアル店舗においては在庫や展示スペースが限られるため、売れ線だけ品ぞろえしたほうが販売効率はよかった。しかし、バーチャルな世界ではそうした物理的な制約条件がないため、少量でも多品種をそろえたほうがよい。Amazon.comでは、年に数冊しか売れないような本であっても合計すると全体の売り上げの半分近くを占めた。売れ筋順に販売数を並べると、そのグラフが「長い尻尾(ロングテール)」に見えることから、この呼称がついたのである。

クリス・アンダーソンが提唱した「ロングテール理論」。売れ筋以外の商品が無数にあれば、その累計売上が全体の中で大きなシェアを生むというもの。その曲線を「長い尻尾」に見立てて、ロングテールと呼ばれた

 このクリス・アンダーソンが、今回の「フリー」で唱えるビジネス新戦略は「無料からお金を生み出す新戦略」。例えば、ネット上では多くのサービスが無料だ。そして、その運営費は第三者である企業からの広告費でまかなわれている場合が多い。あるいは、基本的なサービスは無料だが、高機能版は有料だったり、個人用は無料だが法人利用のみ有料だったり、一部ユーザーが全体のコストを負担したり――するような場合もある。

 こうした新しいビジネスモデルは、「フリーミアム」とも呼ばれている。これは、「フリー(無料)」と「プレミアム(割増料金)」の合成語だ。つまり大多数は無料だが、一部の利用者が別の形で割増料金は払うという構造だ。

 こうしたフリーなビジネスは、表面だけを見ているとよく分からない。サービス提供者側からすると、なんだかすべてのサービスが世界的にデフレしているような、妙な焦燥感すら覚える(ユーザーにとってはありがたい話だが)。そこで、今回は、拙著『頭がよくなる図解思考の技術』で紹介した図解通訳を使い、これらのフリーミアムなビジネスモデルを図解通訳し、理解を深めてもらおうと思う。

図解通訳についての詳しい方法は、誠 Biz.IDの記事もご覧ください

商品限定型

(図1)企業の商品やサービス(例えば機能の制限された基本版)をユーザーは無料で使わせてもらうが、別の商品(例えば特別な機能がついたプレミアム版など)は、有料で使う。特定の有料商品の利益が、ほかの無料商品分を稼ぐというビジネスモデルだ

 まず、最初のビジネスモデルは商品限定型。一方の商品は無料だが、ほかの商品は有料で提供するというものだ。

 例えば、無料サンプルと有料の正規パッケージ、プリンタ(ハード)はただ同然でもインク(メンテナンス)で稼ぐプリンタメーカー、カジノで遊ぶ客はフリードリンク、2本買うと1本無料になる免税店のチョコレートなど、よくあるパターンだ。これを図解通訳すると、右の図1のような形になる。


三社間市場

(図2)ポイントは、企業A(例えばGoogle)の商品やサービス(例えば検索サービス)をユーザーは無料で使わせてもらうが、企業B(例えば検索連動広告に出稿している広告主)は、企業Aに対して広告費を払うため、企業Aは採算がとれる点。一方で、企業Bはユーザーが企業Bの商品を有料で購入することで、費用対効果を得る

 次に、三社間市場に目を向けてみよう。例えばGoogleの売上の99%は広告によるもの。Googleに限らず、現在の無料情報サイトのほとんどがこのモデルを使っている。

 残念ながらユーザー課金(有料購読)でうまくいっているコンテンツサービスは皆無に等しい。

 このように商品やサービスは無料だが、企業の広告費で稼ぐモデルはどう描けばよいだろうか? これを図解通訳すると、図2のような形になる。


ユーザー限定型

(図3)当然ながら、法人ユーザーの数は個人ユーザーより圧倒的に少ない。個人ユーザーに対してはブランドの知名度を高め、法人ユーザーに高額で買ってもらうというモデルだ。少数の特定ユーザーは、無料ユーザーの分まで割増料金を支払っていることがポイントだ

 次に、ユーザー限定型を考えてみよう。よくあるパターンは「個人で使う分には無料だが、企業が商業利用する場合は、別途ライセンス契約しなければならない」というもの。

 この場合は、企業ユーザーが払うライセンス料が、実質的に個人ユーザーが本来払わなければならないライセンス料をカバーしていると言える。これを図解通訳すると、図3のような形になる。


金銭が動かないケース

(図4)ユーザーは商品を無料で受け取り、それを話題にするだけ。企業(団体)は、その商品の評判が高まり、ほかのユーザーが商品を有料で買ってくれたり、その活動が社会的意義が大きい場合は、寄付をつのるなどして事業を維持することができる

 最後に、まったく金銭が動かないケースを考えてみる。例えば企業がアルファブロガーに商品サンプルを送って、その感想をブログで発信してもらうというケースや、Wikipediaのように情報提供サービスは無料で、ユーザーはまったく何の義務も生じないが、ほかの有志や慈善家による寄付などで成立しているケース。

 つまり企業や団体は、その社会的貢献を広くアピールすることが重要になってくる。これを図解通訳すると、図4のような形になる。



 無料の商品やサービスが乱立すると、有料のサービス事業者は不安におののくかもしれない。あるいは、インターネットが超デフレ社会を生んでいると嘆く経営者がいるかもしれない。しかしこのように図解にすれば、そんなフリーミアムな企業でも、ちゃっかりお金はいただいているということがよく分かる。しかも、無料サービスを提供している企業は、そうでない企業より、よっぽど利益を上げているのだ。

 フリーミアムは時代が求める1つのビジネスモデル。こうしたパラダイムの変化をしっかりとらえて、自分のビジネスに生かす工夫をしていきたいものである。

著者紹介 永田豊志(ながた・とよし)

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 知的生産研究家、新規事業プロデューサー。ショーケース・ティービー取締役COO。

 リクルートで新規事業開発を担当し、グループ会社のメディアファクトリーでは漫画やアニメ関連のコンテンツビジネスを立ち上げる。その後、デジタル業界に興味を持ち、デスクトップパブリッシングやコンピュータグラフィックスの専門誌創刊や、CGキャラクターの版権管理ビジネスなどを構築。2005年より企業のeマーケティング改善事業に特化した新会社、ショーケース・ティービーを共同設立。現在は、取締役最高執行責任者として新しいWebサービスの開発や経営に携わっている。

 近著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』『革新的なアイデアがザクザク生まれる発想フレームワーク55』(いずれもソフトバンククリエイティブ刊)、『頭がよくなる「図解思考」の技術』(中経出版刊)がある。

連絡先: nagata@showcase-tv.com

Webサイト: www.showcase-tv.com

Twitterアカウント:@nagatameister


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