飲み会なき時代を生きる――『不安な経済/漂流する個人』藤沢烈の3秒で読めるブックレビュー

フラット化し、一見自由が進むかに見えた世界。その一方、既存コミュニティは崩壊し、きずなを作る飲み会のような場も減少した。コミュニティから放り出された個人は、不安を抱えたまま生きざるを得なくなったと『不安な経済/漂流する個人』の著者であるリチャード・セネットは言う。

» 2010年02月19日 12時45分 公開
[藤沢烈,Business Media 誠]
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 フラット化し、一見自由が進むかに見えた世界。しかし、自由は同時に不安を抱きながら生きることを強いることに……。ロンドン在住の社会学者リチャード・セネットは、そんな現代社会を『不安な経済/漂流する個人』批判社会主義でも個人主義でもない、第三の方向性を指し示した。

不安へと向かう社会

 結束度は強いが個人は抑圧されがちなのが20世紀社会(図表左上)。軍隊・工場に象徴され、官僚をトップにおいた合理的なピラミッド社会であった。その完成形は日本だろう。終身雇用年功序列によって社内の結束を高め、高い工場生産性を保ちながら世界経済を席巻した。

 20世紀も後半に進むと、図表の右側、すなわち自由の方向へと進む。市場と個人に重きがおかれ、情報技術の進展とともに既存コミュニティは崩壊していった。流動性が高まるゆえに、個人の帰属心(ロイヤリティ)は低下。飲み会のようなスタッフ同士のきずなを作るインフォーマルな場も減少。組織もフラット化して中間層がいなくなったから、組織への知識を持つ人物も減ってしまう。コミュニティから放り出された個人は、不安を抱えたまま生きざるを得なくなったと著者は言う。

個人を支える時代

 こうした社会の変化への対策は3つあるという。

  • 物語:英国や米国では労働組合が中心となり、職業紹介・年金保険、そして議論の場などコミュニティ機能を提供。企業を離れても労働者が物語を維持できる役割を担った。
  • 有用性:金銭とは別の形で、公益に関わる仕事や家庭を支える仕事に対して高い地位(ステータス)を与えるべき。
  • 職人技:組織への帰属でも単なる私欲でもない、何ごとかを「正しく」行うことへのコミットメント=職人技を重んじるべき。

 21世紀は個人が主役になるのは間違いない。国でも企業でも家族でもなく、個人の尊厳を高め、個人の物語を支える新しい仕組みが必要になるのだろう。

著者紹介 藤沢烈(ふじさわ・れつ)

 RCF代表取締役。一橋大学卒業後、バー経営、マッキンゼーを経て独立。「100年続く事業を創る」をテーマに講演・コンサルティング活動に従事。創業前の若者に1億円投資するスキームを企画運営し、話題を呼ぶ。「雇われ経営参謀」として500人以上の経営・企業相談を受けてきた。ブログに毎日書評を掲載し、現在1200冊超。


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