分からないことは1つに絞る――アポロ13号に学ぶ「思考の刺激法」プロ講師に学ぶ、達人の技術を教えるためのトーク術(1/3 ページ)

「自分が考えて答えを見つけなければ3人の仲間が死ぬ」そんな状況に追い込まれたアポロ13号の関係者達は、そのミッションを見事に成功させました。彼らが置かれた状況の中から、「受講者自身が考える」研修を作るためのヒントをさぐってみましょう。

» 2010年01月20日 12時00分 公開
[開米瑞浩,Business Media 誠]

 1970年4月11日に、3回目の月面着陸探査のため打ち上げられたアポロ13号は、2日後の13日に酸素タンクが大爆発するという事故を起こし、月面着陸はおろか、地球への帰還と乗員の生命維持が困難な状況に追い込まれます。しかしこの状況下で地上の管制センターの関係者とアポロ13号乗組員は冷静に「考え」て打開策を発見し、無事地球への帰還を実現させました。

 航空宇宙開発史上「輝かしい失敗」として知られるこの事件ですが、このとき彼らはなぜ「考える」ことができたのでしょうか? それを知ることは、研修の場で受講者に「考える」体験をさせたい講師、企業人材育成担当者にとっても有益であるはずです。そこで少しこの事例を参考にしてみましょう。

 すると、「アポロ13号の関係者たちが『考える』ことができた理由」を、大まかに3つ挙げる事ができます。ただし、あらかじめ書いておきますが、どれも特別なことではありません。誰もが「そりゃそうだよな」と思うような当たり前のことばかりです。でもまずはその「当たり前」を認識しておきましょう。

その1:困っていた

 まず1つは、「困っていた」ということです。だから、彼らは「考え」ざるを得なかった。

 地球を30万キロ以上離れた宇宙空間で爆発事故により船内の機材が破損した状況下、打開策を見つけられなければ3人の乗組員の命はありません。これは、「考えよう」という動機としてはこれ以上ないほど特大級のものです。

 もちろん、こんな特大級の動機が生まれることはそうそうありませんし、研修受講者に期待することは無理でしょう。しかし、「困った状況がある」ことを想定して話をすることはできるはずです。

 望ましいのは、例えば過去に自社またはその関係先で実際に起きた事件を引き合いに出して、

 その時当社は「A」という困難な状況下にありました。

 なにか打開策を見つけないと「B」という望まざる結末を招きます。

 あなたはここで何をしますか?

 という組み立てで、「さあ、考えてください」と思考を促すことです。

 ここで「A」は「全体状況を要約」した表現で、アポロ13号の例では「爆発事故による船体機能の一部喪失」のようにまとめられます。

 一方、「B」は「それだけは回避したい象徴的事態」を一点で、ピンポイントで表現します。例えば「乗組員3名の死亡」です。

 A、B、それぞれに該当する事項を、「受講者に考えさせたい研修」の場できちんと説明しているかどうか、まずはそれをチェックしてみましょう。

 なお、「困難な状況」−「望まざる結末」はネガティブコンビネーションですが、「チャンスが訪れていた」−「ぜひとも達成したい結末」というポジティブコンビにすることも可能です。要は、

  • 「全体状況」−「回避または実現したい未来」

 をワンセットで確認しておくわけです。

その2:要求事項が明確だった

 アポロ13号の事件では、考えることで実現させたい「要求事項」が明確でした。それは乗組員3名を無事帰還させることであり、そのために船の軌道を適切に制御する必要があり、電力を確保する必要があり、呼吸できる空気を維持する必要がありました。

 この要求事項をロジックツリーに展開すると、例えば次ページの図1のようになります。

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