学歴がなくても報われる――オーストラリアで知った、まじめに働くことの意義樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」

わたしはオーストラリアを第二の母国と思っている。好きな理由はフェアであること。学歴がなく、英語が話せなくても、きちんと働けばちゃんと報われた。

» 2010年01月15日 10時00分 公開
[樋口健夫,Business Media 誠]

 留学から45年たった今も、わたしはオーストラリアを第二の母国と思っている。オーストラリアが好きな理由は、フェアであるということ。働いたらきちんと報われる、そういう社会だった。

 留学していた当時(1967年〜68年)は、イタリア人の移民が多かったように思う。彼らのほとんどが若く、学歴もなく、英語も話せなかった。こんな条件ではなかなか仕事にありつけないものだ。

 しかしオーストラリアは違った。例えば、ゴミ収集の仕事。車の後ろにぶら下がって、缶のゴミをどんどん入れていくという、結構ハードな仕事だ。

 オーストラリアは家と家の間隔が広く、その間を車がかなりの速度で走っていく。ゴミのところに来ると、車の後ろの踏み台からさっと飛び降りて、ゴミを片付け、それが終わるとまた踏み台に飛び乗って、次の収集所へ向かった。

 わたしが住んでいたのはシドニーの郊外でも見られた光景だ。上半身裸で、テニスの短パン、スポーツシューズを履いた2人のイタリア人が、車の後ろに2人ぶら下がっていたのを覚えている。

 このような肉体労働は、給料がよかったらしい。移民してきたイタリア人の多くが、このような英語を話す必要のない仕事をして、お金をためていたという。数年間貯金すれば、小さな八百屋ぐらいは持てるようになった。

 彼らはその間に夜間の英語学校に通っていた。英語をきちんと覚えたら、今度はイタリアレストランで働けるようになる。こうして、イタリア移民たちは、徐々にオーストラリアに同化していった。

 前回も触れたが、オーストラリアに到着して間もないころ、わたしは下宿の主人に近所のデパートのスーパーマーケット部門の仕事を紹介してもらった。そこで3週間ほど働いていたのだが、下宿の主人がデパートに「大学生だからもっと知的な仕事を与えてくれ」と文句をいったらしい。おいしい食べ物ももらえたし、同僚も親切だったので、わたしは十分満足していたのに……。

 スーパーからおもちゃ売り場に移った。おもちゃ売り場で、商社の社長に出会い、彼の会社で仕事をするようになった。給料はどんどん良くなっていき、まじめに働き続れば、着実に生活が良くなっていく。

 留学してから1年後には中古車を購入し、その半年後には知人にジャガーのマークVIIを譲ってもらうといった具合だ。イギリスの濃い緑色で、本当に美しい車だった。わたしは、いまだにあの車を超える車に出会っていない。

 大学紛争で急きょ帰国したのだが、それがなければオーストラリアの大学を卒業して、オーストラリアの女性と結婚して、今ごろはシドニー湾をクルージングしながら、釣りを楽しんでいたのではないか、と想像している。

今回の教訓

 「オーストラリアの女性と結婚」――。ヨメさんに怒られます。


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著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

 1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう〜」(技術評論社)も監修した。近著は「仕事ができる人のアイデアマラソン企画術」(ソニーマガジンズ)「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちらアイデアマラソン研究所はこちら



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