「紙とペンの間にはエロスがある」――文具マニアが日本製品の美を語った郷好文の“うふふ”マーケティング(1/2 ページ)

昨年暮れ、モノマガジン系雑誌の文具座談会に出向いた筆者。参加した手帳評論家や文具王の熱い語りに圧倒され、日本の文具製品のすばらしさを再認識した。

» 2010年01月07日 08時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

マーケティング・リサーチ、新規事業の開発、海外駐在を経て、1999年〜2008年までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略など多数のプロジェクトに参画。2009年9月、株式会社ことばを設立。12月、異能のコンサルティング集団 アンサー・コンサルティングLLPの設立とともに参画。コンサルタント・エッセイストの仕事に加えて、クリエイター支援・創作品販売の「utte(うって)」事業、ギャラリー&スペース「アートマルシェ神田」の運営に携わる。著書に『顧客視点の成長シナリオ』(ファーストプレス)など、印刷業界誌『プリバリ[印]』で「マーケティング価値校」を連載中。中小企業診断士。ブログ「マーケティング・ブレイン


 「いやあ、文具って本当にいいものですね」

 彼らの溺愛ぶりに心を打たれて、ついひと昔前の映画評論家のようなセリフをつぶやいた。

 昨年暮れ、モノマガジン系雑誌の座談会に出向いた。テーマはチープでグッドな文具モノ。著名な手帳評論家、時間管理・整理術の一人者、そして文具王が、時代を超えた文具の魅力をしゃぶり尽くし、読者にどーんとおすすめする企画だ。

 手帳やペン、システム手帳リフィル、メモ帳、テープカッターなどのノミネート文具にはミクロレベルのこだわり、人間工学に基づくカタチや使用感覚、「なるほど!」と膝を打つアイデアが詰まっている。シロウト文具フェチの私はプロたちの視点や語りを楽しませてもらった。

リフィルとペンのテクノロジー

 手帳評論家おすすめのエヌ・プラニングのシステム手帳リフィル「横罫ノート」は、お得で高品質な補充用リフィル。万年筆で書いても裏抜けしない紙質ながら、200枚で350円という低価格。精密な6ミリ罫線上にバシバシとメモ書きできるし、細かい文字でびっしり埋めることもできる。

 私も使ったことがある。下の画像は「94年1月17日」に書かれた私の私物メモ。16年前のメモだが、まだしっかり残っている。

16年前のメモ

 さらに評論家は日本能率協会マネジメントセンターの「能率手帳 普及版」を取り出し、その細やかな心づかいを指摘した。

 左が予定表、右が自由記入なのは能率手帳の定番デザイン。よ〜く見ると、右ページに翌朝7時までの予定が書ける“午前時間ドット”がある。「ワークライフバランスがなかった時代の名残り」と一同笑いあった。さらに週間カレンダーのページの右隅に次月のカレンダーがひっそりと表示されるのだが、これは月の最後の週だけで、ほかの週にはないという心づかい。こんな工夫の積み重ねが、発売60周年のブランドを支えている。

丸で囲っているのが“午前時間ドット”

 システム手帳や能率手帳には、極細のゲルインク・ペンが似合う。文具王は、持参した三菱鉛筆の200円ボールペンの極細のペン先に秘められた「滑らかに」「滑らず」「摩擦に強い」特性をとうとうと語ってくれた。

 「定規にペンを当てて、ばあ〜っと線を引く。これを道路を走るクルマとすると、そのスピードはF1並みなんです。そのフリクション(摩擦)にゼロコンマ何ミリのボールが耐える。筆圧が強い人はペン先にぐっと力を込めて書きますが、それを計算すると670トンもの重量がかかることになる。これは大きなビルの1本の柱にかかる重量と同じなんです。しかも、そのゼロコンマのボールの表面には、凹凸のスパイクがミクロン加工されて、紙をしっかりグリップしてインクを出す。こんなテクノロジーがわずか200円なんてすごいですよ」

 それでも消費者からはクレームがあるという。

 「あと2ミリくらいインクが残っているのに、なぜ最後まで使えないのですか?」

 その気持ち分かる(笑)。でも、高速走行や大型ビルの重量に耐えていることも分かってほしいというのが、文具メーカーの社員でもある文具王の思いだ。

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