かつての共同経営者であり、友人でもある人物に裏切られた彼は、それでも相手を許した。だが、自分が経験から得た教訓を無駄にすることはなかった。
相手かまわず信頼するのは、誰も信頼しないのと同様に過ちである。
――ラテン語の格言
私が知っている、ある会社のケースを紹介しよう。
そこの会長と社長は一見、高い信頼関係があるようだった。ところが会長はある日、社長が組織内でミニ・クーデターを企んでいることを知った。社長は会社を、会長(彼も創業者の1人だった)や取締役会が考えているのとは違う方向に持って行こうとして、社内のリーダーを何人か集めていたのだ。
その結果、2人の信頼関係は完全に崩れ去った。これは特に会長にとって耐え難いことだった。なぜなら、裏切られたという思いがあったからだ。会長は社長を追放し、会社の再編を行った。仕事上、社長と会長は袂を分かつこととなったのである。
しかし、2人の間にはそれまで築き上げてきた友情があることから、彼らは個人的信頼の回復に努力した。何カ月間も話し合う過程で真摯に謝罪し、涙を流す場面さえあった。そして、ついにわだかまりが解け、2人は再び良好な関係を取り戻したのだった。
ある日、元の社長が別の事業計画を持って会長を訪ねた。本題に入ろうとしたとき、会長は心を込めて言った。「君の思いやりには心から感謝したい。君とは個人的に、あるいは家族同士で付き合っていきたいと思う。市の委員会でも一緒にやりたい。君が委員長をしてくれれば私は委員でいいし、君が委員を望むのであれば私が委員長をやる。だが、ことビジネスに関しては君とは組まないことにするよ」
つまり、会長は「賢い信頼」を行使したのだ。反抗的な態度をとらなかった。反感をずっと引きずったりもしなかった。かつての共同経営者であり、友人でもある人物を許し、信頼関係を修復するためにできる限りのことをした。だが、自分が経験から得た教訓を無駄にすることはなかった。全面的に信頼するわけにはいかないと感じた時点で、彼は一線を画したのである。
(『スピード・オブ・トラスト』431〜433ページより抜粋)
開催概要 | |
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日程 | 2010年2月18日(木)〜2月19日(金) |
時間 | 9時〜17時(2日間とも) |
料金 | 10万1850円 |
会場 | フランクリン・コヴィー・ジャパン セミナールーム(東京都千代田区麹町) |
「どんな状況であれ、信頼ほど即効性が期待できるものはないと断言できる。そして、世間の思い込みに反し、信頼は自分でなんとかできるものなのだ」――。
『7つの習慣』で著名なコヴィー博士の息子、スティーブン・M・R・コヴィーが、ビジネスにおける“信頼の力”を体系化したのが本書『スピード・オブ・トラスト』。
企業の不祥事や社内の権力争い、人間関係の崩壊などが問題視される昨今、新しいリーダーに求められる能力とは何なのか。私たちが行うあらゆる活動の質に働きかける信頼の力を、本書中の“名言”を抜粋しながら解説します。
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