スポーツの試合で激高した私は、甥の信頼口座から大きな引き出しをしてしまったことに気づいた。償いをしたいと思ってあれこれ考えたが、その時は1つのことしか頭に浮かばず、それを実行した。
何が正しいか知りながらそれをしないのは、最大の臆病である。
――孔子
私たち兄弟は子供の頃大のスポーツが好きで、何でも競争したものだった。その血はずっと体の中を流れているようで、数年前ある試合で応援にのめり込む余り、まだ10代の甥のカムに八つ当たりしてしまった。あの時のことを思い出すと、今でも恥ずかしさがこみ上げてくる。
ユタ州で最も注目度の高い、ブリガム・ヤング大学とユタ大学のバスケットボールの試合の日のことだった。両校は宿命のライバルで、過去の成績に関係なく試合はいつも白熱する。私の妹の夫はユタ大学の出身だったため、彼とその息子のカムはユタの大ファンだった。ところが、この2人以外は全員ヤング大を応援していたため、我々大家族の気分を害しないよう、カムは派手な応援をしないように言われていた。
カムはずっと気持ちを控えていたが、試合の山場でレフリーが、極めて疑わしいながらユタに有利な判定をするとカムは即座に立ち上がり、両手を振り回しながら声援を送った。彼が席に座ったとき、私はついカッとなり、水の入ったボトルをつかむとカムの頭からぶちまけてしまった。笑顔だったカムは驚き、さらに悲しそうな表情を浮かべた。私にそんなことをされるとは思ってもいなかったのだ。
大人気ないことをしてしまったと思った私は、すぐに自分の行為を恥ずかしく思い、とても後悔した。カムの信頼口座から、大きな引き出しをしてしまったことに気づいた。その償いをしたいと思ってあれこれ考えたが、その時は1つのことしか頭に浮かばず、それを実行した。何度も謝ってからソフトドリンクを買ってやり、それを私の顔にかけろと言ったのだ。カムは当惑した表情を浮かべ、それを断った。
夢中になっていたから仕方ないよと言って、私を許してくれた。だが、私は自分が許せなかった。それからの2カ月間、私は毎週のようにカムに電話した。そして、その都度こう言ったものだ。「頭から水をかけてしまって、本当に申し訳なく思っている。それを分かってほしいんだ。どうか許してくれ」
次にブリガム・ヤングとユタが対戦したとき、私はカムと私の妹のチケットを買ってやった。今度の試合会場はユタ大学だったが、私は叫び声を上げて応援するのを必死にこらえた。私はカムにユタ大学のマークの入ったユニフォームと、彼が食べられるだけのスナック菓子を買ってやった。そして、再び言った。「もう一度謝らせてほしい、カム。あんなことをして、本当にすまなかった」と。その子はついに答えてくれた。「分かったよ。もういいから。勘弁してあげるよ。忘れよう」
面白いことに、この一件を通じて私とカムとの関係は以前よりも強まった。私が何度も謝り、償おうとしたことで、私が彼のことを、また2人の関係を大切に思っているということが彼に伝わったのだ。おまけに、この経験で私は感情を抑えることができるようになった。試合に熱中し、自分が好きなチームを熱心に応援することは今も変わりないが、カッとなることはなくなったのだ。
(『スピード・オブ・トラスト』240〜241ページより抜粋)
開催概要 | |
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日程 | 2010年2月18日(木)〜2月19日(金) |
時間 | 9時〜17時(2日間とも) |
料金 | 10万1850円 |
会場 | フランクリン・コヴィー・ジャパン セミナールーム(東京都千代田区麹町) |
「どんな状況であれ、信頼ほど即効性が期待できるものはないと断言できる。そして、世間の思い込みに反し、信頼は自分でなんとかできるものなのだ」――。
『7つの習慣』で著名なコヴィー博士の息子、スティーブン・M・R・コヴィーが、ビジネスにおける“信頼の力”を体系化したのが本書『スピード・オブ・トラスト』。
企業の不祥事や社内の権力争い、人間関係の崩壊などが問題視される昨今、新しいリーダーに求められる能力とは何なのか。私たちが行うあらゆる活動の質に働きかける信頼の力を、本書中の“名言”を抜粋しながら解説します。
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