なぜユーザーは「お金を払いたがる」のか――どうなる無料ビジネスの「陣取り合戦」FREEMIUM HACKS!!

基本的なサービスは無料で提供し、追加機能で課金する「フリーミアム戦略」。フリーミアムと相性がいい「最大化戦略」や、お金を“払いたがる”ユーザー心理とはどのようなものなのだろうか。

» 2009年11月25日 19時30分 公開
[杉本吏,Business Media 誠]
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 クリス・アンダーソン氏の新刊『フリー <無料>からお金を生みだす新戦略』の出版を記念して、11月20日に開催されたトークイベント「FREEMIUM HACKS!!(フリーミアムを攻略せよ)」。

 イベントリポートの前編では、セカイカメラの開発で知られる頓智・(とんちどっと)COOの佐藤僚氏、無料動画編集ソフトを提供するLoiLo取締役の杉山竜太郎氏、リクルートの「R25」創刊にも携わったライブドア執行役員・メディア事業部長の田端信太郎氏らが、各社の“フリーミアム戦略”を解説した。

 後編では「なぜ“無料”なのか」という部分を掘り下げ、フリーミアム戦略と相性がいいという「最大化戦略」や、「それでもお金を払いたがる」ユーザー心理について、パネリストたちの発言をお届けする。

フリーミアムと相性がいい「最大化戦略」

頓知・でCOOを、トレンドアクセスで社長を務める佐藤僚氏

 頓智・の佐藤氏は、「無料で提供すれば、より大きな規模を取れるから、より効率のいい事業ができるはず。これがフリーミアムと相性がよく、最も基本的な“最大化戦略”だ」と説明する。

 頓知・でのCOOとは別に社長を務めるトレンドアクセスでは、IT関連の新製品情報や業界動向を伝える無料紙「東京IT新聞」を発刊しており、発行部数は現在6万6000部。「無料なら読者の獲得は容易と考えていたが、難しい部分もある」という。紙媒体では、流通費や印刷費などの限界費用(新たに1部刷るために必要な費用)が高いためだ。

 「(フリーペーパーである)R25は発行部数が60万部くらいですけど、これを成り立たせるためには電通を使ってじゃんじゃん広告を取らなきゃいけない。インターネットを使えば、そうした限界費用はほとんどゼロだから、フリーミアム戦略には遥かにマッチングすると思う」(佐藤氏)

ライブドアの田端信太郎氏

 ライブドアの田端氏も、「無料だからこそ」取れる最大化戦略の有効性を強調する。「マーケティングの4P(Product/Price/Place/Promotion)で言うと、Priceがフリーになることで、Placeが圧倒的に広がる。例えば有料のゴルフ情報誌だったら普通は売店にしか置けないが、フリーペーパーなら練習場にも置ける。ホームレスの人が配る『ビッグイシュー』も配布するPlaceを広げた」(ビッグイシューは、定価300円の雑誌をホームレスである販売者が路上で売り、160円が彼らの収入になるという販売モデルを採用している)

 「フリーミアム戦略を取るなら(ユーザーの)母数を上げていくしかない。ネットは『スケールがある』がまず当然の世界になっている」。前編でも「無料だからこそ、かえって最高品質になり得る」という逆説を伝えたが、田端氏は「これは戦略ですらない、当たり前のこと」だと断言。「フリー以外にユーザーを増やしていくやり方って何があるのか」と力を込めた。


なぜユーザーは「お金を払いたがる」のか

LoiLoの杉山竜太郎氏

 Googleが提供するWebサービスをはじめとして、無料でほとんどのことができてしまう時代。それでもあえて有料プランを選択するユーザーの心理とは、どんなものなのだろうか。

 「お金を払っているということが、利用者としてのクレジットになる」と言うのは田端氏。例えばブログだ。有料のブログサービスを使っていることがある種、周囲へのシグナルになるという。「神社の千社札のようなイメージ」である。

 LoiLoの杉山氏は「ユーザーは“信頼度”にお金を払いたがる」と指摘する。「例えば、動画編集ソフト『Super LoiLoScope』の無料体験版をインストールしたが、PCが低スペックで快適に動かなかったという人がいる。そういう人の中には、『それじゃ有料版なら動くだろう』と思って買ってしまう人もいる。これは、信頼度にお金を払いたいという思いの表れではないか」

「エバンジェリスト」をどうやって増やす?

 「メディアとして、普通のユーザーからお金を取らないというのはもう当たり前になっている。単に受け手として存在しているユーザーではなく、ディストリビューターになってくれるユーザーをどう増やすかが重要だ」(田端氏)

 「Appleの話でいえば、初期のMacユーザーのような人たちのこと。いわゆるエバンジェリストと呼ばれるような。彼らは他人にも『Mac使ったほうがいいよ!』と勧めてくれるんだけど、ほとんど宗教に近い部分もある(笑)」(小林弘人氏)

 ただ、そうしたユーザーを獲得するための具体的な方法については「まだ答えがない世界」(佐藤氏)「どうやって盛り上げればいいかは分からない」(田端氏)ということのようだ。

フリーの「陣取り合戦」は終わったのか

 ネット上ではフリーという概念がすでに当たり前になっていて、“陣取り合戦”はほとんど終わっているのではないか――。トークイベントのラスト。イベント参加者からの質疑応答の時間に、こんな質問が出た。

 「『フリー』を読んであらためて思ったが、ネット上ではフリーという概念が当たり前になっていて、“陣取り合戦”はほとんど終わっているのではないか。今後フリーで何かを出そうとしたら、すでにそこにはフリーのプレイヤーがいるのでは? だとしたらどうすればいいのか」。発言したのは、ブログ広告ネットワークの運営で知られるアジャイルメディア・ネットワークの徳力基彦社長だ。

 この質問に佐藤氏は「その通りだと思う。実際に、なぜこんなに無料版の機能を上げなければならないかというと、そこに競合がいるからだ」と回答。「それでも、まだ競合がいない領域はある。昔よりは難しくなったけれど、その領域をいち早く見つけてビジネスをやるだけ。だから自分には、今やっているビジネス以外の選択肢は想像できない」とまとめた。

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