計画マン、四輪自転車の改造を目指す樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」

ZEM Europe製の四輪自転車「ZEM」の購入を考えたが、決定的な問題があった。長い上り坂ではいくら変速機を付けても走行しようがない。そこでわたしはZEMの改造を思いついた。

» 2009年11月19日 08時30分 公開
[樋口健夫,Business Media 誠]

 2004年に商社を退職して、アイデアマラソン発想法を普及させようとアイデアマラソン研究所を設立した時、研究所の目標の1つとして、四輪自転車(4 Wheel Cycle、あるいはQuadricycle)の改造を計画し始めた。

 米国やヨーロッパなどでは、さまざまな四輪自転車や三輪自転車が作られている。その中でやはり量産しているZEM Europe製の「ZEM(Zero Emission Machine)」の購入を考えた。これは、2002年11月の東京ビッグサイトで開かれた「東京国際自転車展」にも出展していた。

 ZEMには、2人乗りと4人乗りがある。本当は4人乗りが欲しかったが、現在の日本では4人乗りの自転車は、公道を走ることは難しいだろうと考えた。東京都の道路交通規則第10条(軽車両の乗車又は積載の制限)には、


  • 三輪の自転車(2以上の幼児用座席を設けているものを除く)に、その乗車装置に応じた人員までを乗車させるとき。
  • 二輪又は三輪の自転車以外の軽車両には、その乗車装置に応じた人員を超えて乗車させないこと。

 とあり、どうやら2人乗りの四輪自転車は公道を走ることができそうだ。

photo

 このZEMは、現在ハウステンボスの構内でもレンタルして乗れるようになっている。真ん中の赤いフレームが美しい、スイスデザインだ。日本では、ほかに何台か輸入されていると聞いた。ヨーロッパと米国にはかなりの数が出ているようだ。

 2人乗りは、2人でペダルをこげるようになっているが、平地なら1人でも走れる。左右の車輪に変速ギアが付いていて、こぐトルクの強い方に力が掛かるが、人力なので左右の力の入れ方が異なると、どちら側でもこぐ力を必要となる。そんなアナログなところが面白い。

 ハウステンボスで、ヨメサンと2人で自転車の前後に乗ってみて、バイクの2人乗りとは、全く違う感じがすることに気が付いた。横に2人で並んで乗る自転車は、話し合いと触れ合いの世界があって素晴らしい。自動車や列車と異なり、速度もゆっくりで、景色の変化もゆるやかだ。

 自転車の速度に合わせて、会話が始まった。横に缶コーヒーでも置けば、ゆったりとコーヒーを飲みながら走れるだろう。後ろの荷台も広く、高齢者が買い物に出かけたり、ゆったりと自宅の近くを走ったりするのに最適。何もガソリンエンジンを搭載する必要なんかない。これぞ、わたしが38年前に考えた世界に近いと思った。

 もちろんこの四輪自転車を、車が渋滞しているところで走らせる必要はない。走るところを選べば、間違いなく役に立つのだ。最大の理由は倒れないこと。例えば、母親が二輪自転車に小さな子供を2人も乗せ、転倒して子供が死傷するケースがある。そんな悲劇を防げるのが大きい。

 ただZEMには決定的な問題があった。軽い上り坂には2人のこぐ力を合わせれば乗り越えることはできるが、長い上り坂ではいくら変速機を付けても走行しようがない。しかも日本は坂道がやたらと多いのだ。平坦なところだけしか使えないのは問題だ。この問題を解決しないと、ZEMは日本では使い道がないというわけである。

 それならZEMに電動アシストを装着しようと考えた。ZEMを購入する前に、ZEMに装着できる電動アシストのユニットだけを入手できるかを調べ始めてみた。

photo

 電動アシストを付けるなら、最新鋭の回生モーターを付けたい。上る坂が多いということは、下る坂も多いわけで、下りや平坦時には、重力と惰性で走るパワーを発電エネルギーに変換したいと思った。その装置を製造しているのが明電舎だった。この技術を地下鉄で利用している。

 電動アシストに使う機材のめどもついたが現実的な壁はまだ立ちはだかっていた。ZEMをまだ入手していないのだから、電動アシストのギアを装着できるかも分からず、ZEMの機械的な改造をわたしひとりでできるはずもなかったからだ。ましてや、ZEMの市場価格はかなり高い。

 三輪自転車の電動アシストをヤマハが発売しているが、もちろん1人乗りである。2人乗りで、四輪自転車で、電動アシスト化を目指すことが目標となった。しかし商社出身のわたしは技術者ではない。先端技術に関心が強いだけのわたしが改造することは難しい。どうすればよいか、さすがのわたしも迷い始めた。

今回の教訓

 夢は夢のままなのか――。


関連キーワード

アイデア(発想) | 自転車 | アイデアマラソン | 電動自転車 | 研究機関 | 改造 | 東京ビッグサイト | 子供 | コーヒー | 目標 | 出版 | ベトナム | 就任・着任 | バイク | 缶コーヒー | 自動車 | デザイン | 名古屋 | 地下鉄 | ヤマハ

著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

 1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう〜」(技術評論社)も監修した。近著は「仕事ができる人のアイデアマラソン企画術」(ソニーマガジンズ)「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちらアイデアマラソン研究所はこちら



Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ