上記の3つのポイントは、数年前に受けたある依頼がもとになっています。ある建設会社のプロジェクトリーダーが、「発注者、設計事務所、建設会社で進めているプロジェクトがなかなか前に進まない」という相談をしてきたのです。
工場建設という大がかりな仕事ですので、少しの遅れが工期や予算に大きく跳ね返ります。既にプロジェクトがスタートしてから数カ月が経過していて、本来であれば次の工程に入っていなければならない時期になっていました。にもかかわらず、最初の役割分担のレベルで足踏み状態になっているというのです。
話を聞いてみると、かかわる会社のそれぞれの思いが微妙にズレていることや、プロジェクトにかかわる人が多いことが、問題を複雑にしていることが分かりました。
その状況を突破するために、その建設会社のプロジェクトリーダーは、わたしたちに「チームビルディング」のサポートを依頼しました。
チームビルディングは和製英語で、直接的な表現で辞書に載っていないので、分解して、再定義してみたいと思います。
チーム=ある目的のために協力して行動するグループ(大辞泉)
Build=組み立てる、形成する、作り上げる、築きあげる、確立する(プログレッシブ英和辞書)
すなわち「ある目的のために協力して行動するグループを組み立てる」という意味になります。それを、前述のプロジェクトリーダーの求める意味を踏まえて定義すると、「同じ目的を目指すチームに再構築する」となります。そのイメージをもとに仕事に取り組みました。
その後プロジェクトリーダーと数人の関係者と打ち合わせを進め、チームビルディングを行うために、プロジェクトメンバー全員で1泊2日の合宿スタイルの話し合いをしました。その合宿を通じ、プロジェクトが進まない理由が次のことだと分かったのです。
工場建設を発注した企業のプロジェクトメンバーは大変優秀で、会社からも一目置かれている人たちでした。通常であれば、多少の課題は乗り越えて、仕事を成功させていく力を持っています。その人たちが、なかなかプロジェクトを前向きにとらえられない要因は、意外にも個人的な悩みからでした。それが分かったのは、休憩時間のメンバーとのちょっとした会話からでした。
家を買ったばかりなのに、新しい工場が建つと、そちらの近くへ引っ越しをしなければならなくなる。自分としては新しい環境で、自分の仕事に喜びを感じる部分もあるが、家族を説得することや、家の近くに住む両親のことを考えると気が重い。このプロジェクトのメンバーは、まだ割り切ることができるかもしれないが、メンバー以外の、今の工場で働いている人たちの多くが、同じような問題を抱えている。それを思うと、新しい工場の建設に前向きになれないんだよね。
この話を聞いて、初めてこのプロジェクトが進まない明確な理由がつかめた気がしました。プロジェクトメンバーや、今の工場で働く人にとっての“意義”や“価値”が見いだせなければ、どうしても後ろ向きな気持ちになります。受け身的に、言われたことだけをやっていた方が気が楽ですから。
そのような気持ちを抱えたまま、意欲高く、前向きにチャレンジするのは無理な話です。工場が出来上がった後の、自分達にとってのメリットを議論してもらいました。工場が出来上がることが、
中長期的な視点から考えてもらいました。さらに、社長が工場建設をどう思っているのか、プロジェクトメンバーにどのような期待をしているのかも確認する必要があります。その上で、いつまでに、誰が、何をすればよいのか、役割分担とスケジュールを明確にしました。そのチームビルディングの場は、そこまでを決め、終了したのです。
その後、その建設会社のプロジェクトリーダーから、「あの後順調に進み、工期通り仕事を終えられたので、助かりました」との連絡がありました。チームビルディングの場を設けたことが、前に進まない状況の突破口となったことを知ったのです。
停滞してしまっている理由は、ほかにもあるかもしれません。同じような状況になった時、ちょっとだけ立ち止まって、「本音を言える場を設ける」「メンバーにとってのメリットを明確にする」「プロジェクトのルールを再確認する」という3つのポイントを確認してみてくださいね。
大手生命保険会社、人材育成コンサルティング会社の仕事を通じ、組織におけるリーダー育成力(中堅層 30代〜40代)が低下しているという問題意識から、2006年Six Stars Consultingを設立、代表取締役に就任。現在と将来のリーダーを育成するための、企業内研修の体系構築、プログラム開発から運営までを提供する。
社名であるSix Starsは、仕事をする上での信条として、サービスの最高品質5つ星を越える=お客様の期待を越える仕事をし続けようとの想いから名付けた。リーダーを育成することで、組織力が強化され、好循環が生まれるような仕組みを含めた提案が評価されている。
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