あのメール、まだ返ってこないなあ――不安を“シグナル”として利用するあなたの不安、見積もります

「メールがすぐに返ってこないと不安になる」という人は多いと思います。これは、認知心理学で言うところの「反応の非有効性」という考え方で説明できます。

» 2009年09月17日 13時00分 公開
[佐々木正悟,Business Media 誠]

 顔を合わせてのコミュニケーションや、お互いに時間を合わせて通話する電話と比べると、メールは一般的には時間を選ばないコミュニケーション手段とされています。しかし最近は、以下のような不安を抱えている人も多くいるようです。

ビジネスパーソンの不安ポイント

 メールやTwitterなどでメッセージを送っても、すぐに反応や返事がないとすごく不安になります。普段は1日に何十通もメールをやり取りする日もありますし、そんなことをいちいち気にしていたらやっていけないということは頭では分かっているのですが……。この不安を解消できる何かいい方法はないでしょうか?


 「ビジネスメールは即レスが基本でしょ」と考えている人の中には、こうした不安を抱えている人は多いでしょう。メールを送った側からすると、この不安は当然です。

 認知心理学で言うところの「不安発生の条件」には、一次的過剰刺激、認知的不協和、反応の非有効性の3つが挙げられます。メールの返信がないことへの不安は、この中では「反応の非有効性」と言えます。これはいかにも専門用語的ですが、かみ砕いて解説すれば分かりやすい話です。

 反応の非有効性とは、何かよくない事態が起こっている状態に置かれたとき、この問題を解決したり、あるいは避けたりすることがほとんどできそうもないという見通しの暗さのことを言います。

 今回の例で言うと、質問者は実は「メールが返ってこない」ということ自体に不安を感じているのではないのです。問題なのは、メールが返ってこないせいで何か重要な事態を打開できる可能性が低くなっているからです。返事があってもなくても、自分を取り巻く状況に何の違いももたらさないようなメールなら、不安になることもありません。

 この場合に覚えておいてほしいのは、「反応の非有効性」は主観的な評価だということです。つまり、考え方1つで不安を軽減することもできるということです。

 メールの場合、「返ってこない」と言っても、それは「まだ返ってこない」だけのことで、相手は「今書いている最中」なのかもしれません。あるいは、「重要な連絡に関することだから、慎重になったり不安を感じたりするのは当然なんだ」と割り切ることで、不安を軽減することも可能です。これは、自分が不安になっている原因が目に見える形になるからです。意識的にほかの作業に没頭することで、積極的に忘れてしまうという手も悪くありません。

 自分の「反応」(行動)が有効でなかったかもしれない、というシグナルが「不安」です。だとすれば最善なのは、先方に問い合わせたり、メールが返ってこなかった場合でも被害を最小限に食い止められるような、有効な手段を講じること。不安とは、単に人を暗い気分にさせるものではなく、シグナルとして「利用すべきもの」なのです。

筆者:佐々木正悟

 心理学ジャーナリスト。専門は認知心理学。1973年北海道生まれ。1997年獨協大学卒業後、ドコモサービスに派遣社員として入社。2001年アヴィラ大学心理学科に留学。同大学卒業後、2004年ネバダ州立大学リノ校・実験心理科博士課程に移籍。2005年に帰国。著書に、『スピードハックス』『チームハックス』のほか『ブレインハックス』、『一瞬で「やる気」がでる脳のつくり方』、『やる気ハックス』などがある。「シゴタノ!−仕事を楽しくする研究日誌」にて「心理ハック」を連載中。ブログ「ライフハックス心理学」主宰。


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