優れた発明家たちの思考手順を再現する「9Windows」アイデア・スイッチ(2/2 ページ)

» 2009年08月11日 09時30分 公開
[石井力重,Business Media 誠]
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確実に新製品を発想する方法「9windows」

 ここで紹介するのは、TRIZ理論の9windowsという手法です。これは、優れた事業家、発明家たちの思考方法を研究し作り上げられた手法です。さまざまな人の優れた思考パターンをシンプルなステップにし、それを追いかけることで、かなり高い確度で発想できる方法です。ステップは多いのですが、ひとつひとつは単純です。発想のための材料をつくっていく作業を通して、最後には、自分でも予想していなかったアイデアを出すことができます。

 具体的には、以下のようにして、5年後の新製品のアイデアを発想します。

ステップ 実行内容
ステップ1 新製品を発想しようとしている対象物の現在の姿を書きます。現時点で、自分たちがその製品を開発していなくても結構です。他社、ライバルたちの製品でも大丈夫です。
ステップ2 その製品の構成要素を書きます。具体的には、構成部品、材料、要素技術です。
ステップ3 その製品を取り巻く社会環境を書きます。具体的には、使う人(ユーザー)、社会インフラ、その製品を取り巻く環境です。
ステップ4 その製品の10年前の姿を書きます。昔の情報が少ない場合は、ベテランの方に知恵を貸してもらうか、Wikipediaなどを使って情報を集めます。
ステップ5 10年前の製品の構成要素を書きます。同じくベテランの方の情報やWikipediaなどを活用します。
ステップ6 10年前の製品を取り巻く社会環境を書きます。同じくベテランの方の情報やWikipediaなどを活用します。
ステップ7 5年後の製品の構成要素を発想し書きます。「今後5年間の構成要素の進化の程度」は「過去10年の進化の程度」と同程度である、という法則性を目安にして、「5年後の製品の構成要素」などを発想します。
ステップ8 5年後の製品を取り巻く社会環境を発想し書きます。ステップ7と同様の考え方で、「5年後の製品を取り巻く社会環境」を発想します。
ステップ9 「5年後の製品の構成要素」と「5年後の製品を取り巻く社会環境」を組み合わせたらどんな製品がつくれるだろうかと考えて、製品アイデアを出し、書きます。発想というより、設計に近い行為です。

photo

 この発想ステップは9windows(9画面法)と呼ばれています。それを分かりやすくデザインしたものが上の図です(※)。これを大きくコピーして、1〜9まで順に埋めていくことで、効果的に発想ができます。

 ステップ1で、製品が抽象的なカテゴリー名の場合は、併記する形で、1〜3つほど、具体名もつけておくと考えやすくなります。

 この手法のキーポイントは、技術システムの進化の傾向「過去10年分の変化≒将来5年分の変化」を使う点です。そして、それを製品に直接適用するのではなく、製品の内部と外部のより本質的な物事に適用することで、発想の質を高めています。

 ステップ7と同8の部分に良い予想データを用いると、発想する新製品の質が非常に高くなります。特にステップ8には「未来年表」を用いると良いでしょう。

 「構成要素」と「社会環境」が分かりにくいときは、考えているものの「内側にあるもの」と「外側にあるもの」とをいいかえてみると良いでしょう。

※詳しくは『アイデア・スイッチ 次々と発想を生み出す装置』の179ページでご確認ください。

練習問題

 あなたの会社で、掃除機の新商品を企画することになりました。5年後の新製品を目指し、アイデアを社内公募しています。来週までに、アイデアを3つほど出すことにしました。



ステップ 実行内容
ステップ1 対象物の現在の姿を書く。
・掃除機(メーカーサイトなどで具体的情報を得る)
ステップ2 その製品の構成要素をあげる。
・静かで高い吸引力モーター
・ティッシュでフィルター代用
・サイクロン、排気循環
・吸水掃除タイプ
・吸引パワー自動制御
・自走式
ステップ3 その製品を取り巻く社会環境をあげる
・エコ、廃棄コスト
・花粉症、アレルギー
・高齢化(ユーザーの体力低下)
ステップ4 その製品の10年前の姿を書く
・10年前の掃除機(「掃除機 歴史」などで検索すると具体的情報が得られる)
ステップ5 10年前の製品の構成要素を書く
・高い集塵力
・コードレス
・紙パック、フィルター
・スポンジフィルターで排気をろ過
ステップ6 10年前の製品を取り巻く社会環境を書く
・エコが提唱されつつも、使い捨てカメラなどがまだ台頭
・環境ホルモン
・パソコン、携帯電話(精密電気製品)の普及
ステップ7 ステップ2とステップ5の変化量から、5年後の製品の構成要素を発想する。
・吸引機構の高出力、低騒音化→高エネルギー効率の吸引機構へ
・(ステップ2、同5にはないが)小型電池の普及→高エネルギー効率化と相まって、充電式が台頭
・フィルターの省資源化→吸引したものでフィルターを形成する機構の登場
・吸引物粉砕の抑制技術の発展→吸引物の高粒子化(凝集化)技術
・自走式の登場→簡単な片づけの機能(定位置搬送)
ステップ8 ステップ3とステップ6の変化量から、5年後の製品を取り巻く社会環境を発想する
・社会のエコ化→メーカーの部品引き取りを前提にした構造に
・高齢化→さらに高齢化(視力、聴力、腕力の低下)
・関心がもたれている汚れの粒径が増大(環境ホルモン→花粉症)→さらに粒径の大きな汚れに関心が集まる→(高齢化も相まって)排泄物の居室内清掃
ステップ9 「5年後の製品の構成要素」と「5年後の製品を取り巻く社会環境」を組み合わせたらどんな製品をつくれるだろうかと考えて、製品アイデアを出す
・排泄物を吸い取り、スチーム殺菌・消臭できる掃除機
・フィルター生成機能つきの掃除機
・(掃除機の概念を外れるが)空気の汚れを検出して自分で移動する自走式空気清浄機
・(掃除機の概念を外れるが)衣類についた汗やにおい物質を吸い取る吸引型の洗濯機

 このように発想していきます。

 なお、ステップ7、同8を構想する段階でもアイデアがかなり出るので、そのアイデアも書きとめておきます。

 この発想手順だと、なぜそれを提案するのかが非常にクリアなため、アイデアを人に説明しやすくなります。また、シートに記入していきながらなので、それを人に見せた場合、思考をトレースしながら、別の発想を考えつくことも多く、人からさらにアイデアを引き出すことが容易になります。

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