机や壁がノートになる!?――“顧客視点”を教えてくれた落書きノートブック郷好文の“うふふ”マーケティング(2/2 ページ)

» 2009年07月30日 07時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]
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落書き帳が問いかけてくる

 Rakugaki-choをぱらぱらとめくると、こいつらが問いかけてくる。

 「自由に落書きをした“あの頃”の発想力、保っていますか?」

 「紙を折り、切り、貼ってつちかった創造性、まだ枯れていませんか?」

 「今日ノートに書いたことで、自分を見つめ直していますか?」

 う〜ん、Rakugaki-choはノートであってノートでないような気がする。そもそもノートって何なのだろう? もう1つ手元にある海外製の落書き帳「WALLS NOTEBOOK」を紹介しつつ、落書き帳の秘密に迫ろう。

 WALLS NOTEBOOKとはその名の通り、“壁のノートブック”。全ページがニューヨークの街中の壁を撮影した写真で「壁に落書きしよう!」がコンセプト。デザイナー兼写真家のSHERWOOD FORLEEさん撮影によるもので、数々の壁の表情に米国のリアリティが宿っている。 

WALLS NOTEBOOK

 腕を組んで座るオヤジの横の壁のページには、商品開発のメモが似合うだろうか。ワッフル運搬の車体の側面には、ネーミングやキャッチコピーなどのアイデアを書き連ねようか。そんな壁が見開きで“70壁(140ページ)”以上続く革新的なコンセプト。Amazon.co.jpで約1300円で販売中。


 このノートは数カ月前に別媒体で“衝撃の落書き帳”として紹介したのだが、衝撃を受けたのはほかならぬ筆者自身だった。

 撮影などのお役目を終えて、さあ使おうかと思って、ページをめくっていてハタと筆が止まった。このノートが語りかけてくるメッセージでココロが痛くなって、猛烈に自分が嫌いになってしまったのだ。とても書けない、書けるようになるまで使うまいと誓った。

落書きを許す自分がいるだろうか?

 このノートの写真はすべてFORLEEさんの「作品」である。と同時に落書きさせるノートブックでもある。彼は自分の作品に「落書きしていいよ」と言ってくれている。写真の被写体の壁や窓やドアやクルマもオヤジも、落書きされるのを受け入れている。「ほら書けよ」と手を広げているのだ。

 そこでフト気づいた。このノートの思想とは正反対に、私は「落書きされたくない」人間なのだと。誰かに“落書き”されるのを許していない、ひとりよがりで、開いていない心を持っている、と。

 例えばこの連載だが、自分にとっては“作品”であり、読者であろうと誰であろうと“落書き”されたくないという想いがあった。良い文章を書こうとするあまり、読ませる文章にならなかった回もある。それは間違っていた。本当の文章とは読者に落書きされるのを許すもの。

 卑しくもマーケティングをやり、読者を持つ記事を書く我が身には致命的なことだが、真の意味で顧客視点・読者目線を持ちえていなかった。共感を得るツボから外れていた。落書きノートブックからそんな気付きがあった。

落書きには人の本性が表れる

 そもそも落書きには人の本性が現れるものだ。トイレや高架下の落書きが実例である。エッチなこと、誹謗中傷、生々しい欲望、漢字の間違い(笑)。落書き帳には「人の本性を暴く効用」がある。

 ノート文具の本質的な価値とは「自分改革」にある。使い込むうちに仕事スキルを上達させ、学業の向上をはかり、文章を改善する効用である。さらに不出来な自分、欠点のある自分に気付き、それを受け容れて良い方向に改善する、「改善できるさ、きっと」と語りかけてくれる効用がある。自分改革こそ、ノートに限らず文具の本質的なニーズなのだと思う。

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