マンダをラして発想支援――iMandalartで「脳を編集する」マンダラートがiPhoneに

あるテーマから連想を広げる「マンダラート」。9つのマスに考えを書き込むことで、アイデアの切り口を広げる手法だ。このマンダラートのiPhone版が登場する。

» 2009年07月27日 19時00分 公開
[鷹木創,Business Media 誠]
iPhone版のマンダラート、「iMandalart」

 あるテーマから連想を広げる「マンダラート」。9つのマス(セル)の中央にテーマを書き込み、その右側のマスから反時計回りに連想を書き込むことで、アイデアの切り口を広げる手法だ。アイデアがまったく浮かばない時に、1人でも半ば強制的にアイデアを生み出せる方法である。

 このマンダラートがiPhoneアプリ「iMandalart」として登場する。7月26日、東京・銀座アップルストアで、マンダラートを考案したヒロアートディレクションズの今泉浩晃代表取締役や、iMandalartを開発したHDMTの木下誠代表取締役、テクニカルライターの大谷和利氏らがアピールした。


左から今泉さん、大谷さん、木下さん

マンダをラする

 サンスクリット語でマンダは「本質」のこと。ラは「満たす」「成熟させる」「持つ」という意味である。「そういう本質的なものを持っているものがマンダラ。これをメモやアイデア支援に応用したのがマンダラートだ」と大谷さん。

 9つのセルに、思いついたことをマンダラに書き込んでいくことで、考えがまとまる。ポイントは、考えて埋めるのではなく、思いついたことをさっと書き込むことなのだ。

 古くはノートなどに書き込んで実践していたマンダラートだが、デジタル化も進められている。最初のデジタル化はMacintosh上で動作するHyperCardを利用したもの。次いで、PDAのNewton MessagePad上でも動作するアプリケーションによって、「外にも持ち出せるようになった」(大谷さん)。持ち出せると言えば、PalmソニーのPalmTopなどの携帯端末にも移植されたが、商業的に広がりがあるものではなかったという。




Palm版ユーザーにも、新規ユーザーにも

Get、Manda、La、Artといったアイコンを表示するようになった

 iPhone版の「iMandalart」では、分かりやすいようにアイコンを新規にデザインし、グラフィカルなインタフェースを用意した。アプリを立ち上げるとGet、Manda、La、Artといったアイコンを表示し、Getアイコンをシングルタップすると早速マンダラートを入力できるようになっている。

 「ユーザーインタフェースをいかに分かりやすくするか。Palmユーザーは分かると思うが、初めての人は何がなんだか分からないはず。Getって何? Mandaって何? ってね。心理的なハードルを下げたいから、アイコン化はこちらから提案した。ここだけの話、今泉さんにすごく反論されたけど、議論を重ねて今の形に収まった」(木下さん)

 「文字なしのアイコンで分かるのかなあと思っていたんだが、よくよく考えるとアイコンだけのほうがイメージが広がる」と今泉さん。「(木下さんに)『今泉さんはユーザーに優しくない』と言われた。確かにiPhone版はデバイスとして安定して広がるはず。すると、新しくマンダラートに触れるユーザーが増えていくだろう。なので、翌日にはアイコンで行こう、ということになった」と経緯を話した。

 なお、これまでのPalm版との違いは、

  • リスト表示だったのがマンダラ表示になった
  • セルの移動ができるようになった。すべてのマンダラで可能
  • テキストの編集に、ボールド(太字)、イタリック(斜体)を適用できるほか、アンダーラインも入られる
  • 音声とイメージの取り込みも可能

 などだ。

 最大8ページ、64項目までセルを追加したり、セルを長押しすることでコピー&ペーストしたりできる。ちなみに、Mandaでは年間や週間といった期間や目標などのテーマごとのマンダラートを管理できる。Laではショートカットを設定可能。Artは書き込むためのガイドラインを用意した。


(左)Getを開くとマンダラートが。(右)各セルに入力したところ

(左)コピペだけでなく、ボールド、イタリック、アンダーラインなどの文字修飾も可能だ。(右)画像や音声も取り込める

 開発を担当したHMDTの木下さんは、「iPhoneアプリをいろいろ作りたいと思っていた。発想支援は必要だと考えていたが、メモ帳やマインドマップではないほかのアプリを検討していた」という。そんな時に今泉さんからのメールが届く。HyperCard版も使っていたという木下さんは「そうか、マンダラートがあったじゃないか」と即決した。

 プログラムを仮り組みして、9つのセルにタップして文字を書き込めるようになったのは開発から1カ月後。「マンダラートは歴史の長いソフトで、熱心なユーザーもいる。Palmユーザーにもがっかりさせないこと。これは大きなプレッシャーだった。それからiPhone版から始める新規ユーザーにも使いやすいようにするのも大変だった」

 ただし、いくつかの機能は今後のバージョンアップで実装することになりそうだ。例えば、データの書き出しと取り込み。「重要な機能と考えている。近い将来、必ず実装する」(木下さん)。また、検索機能も「最初のバージョンには含まれない。だが内部的には機能しているので、近いバージョンで実装できると思う」。手書き機能についても実装を見送った。「本当にいるのかどうか検討中。お絵かきソフトのようなものは今後も考えなきゃ行けないと思う」(今泉さん)

 「全部盛り込んでしまうといつ出るのか分からないので、ひとまず出す」と今泉さん。「フィックスさせないで、テイク1、テイク2と出せるのがiPhoneアプリのいいところ。要求を出しすぎて(木下さんに)嫌われたりしてね」と木下さんを苦笑いさせた。

 価格とリリース時期は未定。「リリースは近日中」とのことだが、木下さんは「これからアップルの審査」という。今泉さんによると、「恐らくApp Storeでのカテゴリーは『仕事効率化』になるはず」。価格は「検討中。皆さんを失望させない価格帯で」(今泉さん)と述べた。

Life is Random, Don't fix

 今泉さんは「我々はこれまで、最終的なアウトプットに、自分の考えをフィックスさせることを求めていた」という。例えば印刷物。推敲(すいこう)に推敲を重ねた印刷物は、印刷し終わった後にミスがあってもなかなか直せない。「だから我々の頭のなかにもフィックスさせなければならないという意識があったのではないか」

 しかし、フィックスとは固まること。「動物も死んだら止まる。動き続けることに意味がある。Don't fixだ」という。人間は知識や経験をベースに動いているが、インターネットを通じて自分のまわりの情報が爆発的に増えている現代、大量の情報に対応できない人も多い。というのも、考えをいちいちフィックスさせているからだ――というわけだ。新しい情報に接して間違いに気付いたら、これまでの考えを修正するのも当然なのである。

 「こうした情報の編集に適しているのが、マンダラートだ」という。「我々は、考えろと言うが何もなければ考えられない。やりたいことも、考えてみると知識がベースになっている。知っているから、触ったことがあるから、やってみたいと考える。考えられるから編集できるのだ」


 「はシームレスで、立派なことも考えるけど、馬鹿なことも考える。我々はいろいろなことを知っているけれども自由に引き出せない。人生は脳が決めている。脳をうまくサポートするツール、それがマンダラートだ」

 この日のテーマは「Life is Random」。今泉氏は「小さいつぶやきを入力していく、マンダラートはTwitterに似ている」ともコメントした。ランダムなつぶやきだからこそ人生は編集が必要なのかもしれない。

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