タイムカードは導入しない――創造的選択インタビュー全文公開(中編)達人のクリエイティブ・チョイス(3/4 ページ)

» 2009年07月23日 20時00分 公開
[鷹木創,Business Media 誠]

タイムカードは導入しない

堀内 普通の大きな会社はどうやってるんですかね?

柳澤 うーん、できないでしょ、大きな会社は(笑)

細谷 何でできないんでしょうね?

柳澤 効率を重視しているからですよ。過去に失敗したことをもう一度しようとしない。僕らはやる。過去にその制度はさんざん試したんだけど、新しく入ってきた人たちのために、もう一回やるんですよ。失敗しないと分からない。

堀内 例えばどんなこと?

柳澤 例えば遅刻をなくそうという時。タイムカードを導入しようというとそれで終っちゃう。それを制度として入れた時点で、「遅刻をなくす」という思考が停止するので、制度化していません。タイムカードを導入しないで、遅刻をしないためにどうするか、いちいち新人に考えさせる。ある程度上に行っちゃうと遅刻も何も関係ないじゃないですか。上の人が上の視点で考えるからタイムカードを導入しようという話になって、作られた仕組みの中に人が入ってくる世界になる。増えれば増えるほど、過去の経験があるからルール化するし、効率はいいけど人の作った仕組みの中に入ってくることになるから、自分が会社を作っている感じには絶対にならない。効率化を止めれば、合理化を止めれば、自分で作った気持ちになると思いますよ(笑)

堀内 そうですよね。普通は、こういう問題にはこういう手段を、といって決めうちというかルール化をして、それを守る。もう1回解き直すわけだ、問題を。

柳澤 すごいバカバカしいですけどね(笑)

細谷 今思い出したんですけど、『コア・コンピタンス経営』という本があるじゃないですか。あの中で猿を部屋に閉じ込めるという話、ご存じですか?

堀内 どんな話でしたっけ?

細谷 1つの部屋に猿を4匹閉じ込めるんです。天井にバナナを出して、そこに登り棒みたいなのを設置して猿が登れるようにするんです。4匹の猿は登っていくんですけど、もう少しでバナナに手が届くところで水がワアーと出てくる。そうすると、ダメだったということで猿は下りてくる。4匹ともそれをやって、ダメだっていう状況になるわけですね。で、誰も登らなくなる。そこで1匹猿を外に出して、新しい猿を連れてくるんです。その猿は登ろうとするんです。だけど、残りの3匹はオマエ止めろって言って、その猿を止めるんですね。それを4回繰り返すと、誰も何が起こるか分からないのに誰も登らないんです。それがまさに大企業であり、ナレッジ。柳澤さんの話は、まさにもう1回全員水を浴びせさせるという話ですよね。

柳澤 そうそう、水は止まっているかもしれないしね。

堀内 ある種の伝統みたいなものですよね。

柳澤 本来は最初に経営理念があって、そこから事業内容が生まれてくる。事業内容と合理化が合うか、という話だと思います。例えばパートのおばちゃんを2000人集めてそこからの派遣事業で食ってくというのであれば、合理化に突き進めばいいし、9時5時の中でどうやってモチベーションを上げていくかを突き詰めていったほうがいい。僕らの場合、混沌とした中で新しいものを生み出すことが重要なので、個人のモチベーションを上げたほうがいい。

吉川 合理化ってされてるんですか?

柳澤 うーん個別のプロジェクトごとには、やっていますけどね。でも合理化とか効率化とかの言葉をそんなに重視していない組織。そういう言葉は、あんまり出ない、ほとんど出ないですね(笑)

吉川 理が違う。合理って理に合わせるだから、その理自体がほかの会社と全然違うから、そういう意味ではすごい合理的。

柳澤 そうですね、元々の一般的な理ではない、ということですよね。

堀内 合目的的というか。

柳澤 面白さには合理的かもしれない(笑)。効率とかあんまり関係ないですね。無駄なことばかりしてますからね。

吉川 やっぱりこの本(『クリエイティブ・チョイス』)で書かれている、目的に落とすというのが仕事的にも会社的にも大事。当り前だけどすぐ忘れる。

堀内 書いていても忘れる。容易に忘れますからね。意図的に仕掛けを作っておかないと。朝に仕事のToDoリストを作る時間を設けるとか。(仕事に)入り込んじゃうと思い出せないので、何かトリガーをかけないと。誰かに突っついてもらうとか。

柳澤 そこもバランスで、経営理念、リッツカールトンで言うとクレドみたいなものがあるじゃないですか。毎日復唱する人っていうのは目的意識が強くなるけど、その分枠が固まってしまう。そこから外れにくいというか柔軟じゃなくなる。毎日毎日だと洗脳されて強くなるんだけど枠も強くなる。僕らは年に2回ぐらいの合宿でいい。理念の長さも短めに。その辺もバランスというか、人の性質と事業内容によって違ってくるのかなと。

堀内 カヤックの経営理念、5カ条とか、あれも動かしてるんですか?

柳澤 ああ、動かしてますよ。最近7つになりましたしね。理念も変えなきゃダメだと思います。松下の理念なんか今読んでもちっとも分からない。もうそんな意味の分からない表現にしたって誰の心にも響かないんだから。今にあった表現に変えないと伝わらないんですよ。

堀内 この間聞いた話で、ある会社が読み合わせ会みたいにして、幹部が集まってその「解釈」を話し合っている。もはや聖書ですよ。

柳澤 それはそれでやらないよりはやったほうがいいと思いますけど(苦笑)。

堀内 それが絶対になっちゃって、時代とか環境とかの変化を無視して、何が何でもってなっちゃうと、ちょっと本末転倒かなと。

吉川 でもそういうのが向いてる組織があると思いますよ。目的だと思いますよ。

堀内 そうかもしれませんね、製造業だったんですけど。

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