報告書にプラスワン――“メイキング”を記載せよ樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」

多数の報告書を作成しなければならないのはビジネスパーソンの習わし。しかし、テンプレート通りの報告書だけでいいのだろうか。

» 2009年07月23日 07時00分 公開
[樋口健夫,Business Media 誠]

 会社で仕事をしていると、必ず何らかの報告書を作ることになる。来期の受注見込みから始まって、営業の状況、客先の訪問歴、往訪メモ、内定の報告書、受注の報告書、納入に関する報告書、予算書、予備決算、トラブルに関する報告書、今期の決算、そして来期の受注見込み――となり、振り出しに戻る。

 多数の報告書が渦巻きしながらビジネスは進む。だが、そうしたビジネスの中には、報告書に書かれないままに放置されているたくさんのノウハウがあるのだ。

周辺エピソードも巻き込んで

 筆者が勤めていた商社の場合は、いつも海外で多数のプロジェクトが進行している。プラントの建設もあるし、金銭だけの投資事業もある。それらに、商社から代表する駐在員を送り込むわけだ。

 当然、世界中の駐在員が定期的にさまざまな報告書を提出する。筆者の経験から言えば、リスクを回避するためにも、フォームが決まっている形式的な報告書だけを提出しているのでは、あまりにも伝わらないことが多すぎる。先輩駐在員の何人かは、形式的な報告書以外にバックグラウンドや近況などを詳しく、そして軽いタッチで、時には読み物として書き続けて、毎週のように本社に送っていた。

 そこには仕事だけでなく、人の行き来や人脈、キーパーソンの性格などに加え、食事、生活、気候、個人的失敗とありとあらゆる現地のエピソードが書かれていた。

 当時は日本語ワープロもなかったので手書き手紙だったが、受け取った本社側の担当者は、むさぼり読むのが予想できた。手紙を通じて、プロジェクトの進ちょくが生き生きと日本側でも見えるのだった。あまりに面白いので、役員にまでコピーを回したら、役員が手紙の続きを“督促”したこともあったという。

 こうした、形式的な内容以外の周辺情報も書き込んだ報告書を筆者は“メイキング報告書”と呼んでいる。時には、報告書には書くことができない本音をメイキングとして織り込む。固い報告書とカジュアルなメイキングの報告書が一緒になると、行間に苦労や努力が垣間見えるのだ。映画のDVDを購入すると、撮影現場のメイキング映像が付いてくることがあるが、正しくあれだ。特別サービスなのである。

 長い海外駐在の中で感じたことは、ビジネスパーソンは仕事の実績が第一の評価だが、その中の1つに間違いなくメイキングの報告も含まれるということ。メイキング報告書は、実績をよりよく評価してもらうために役に立つのである。

報告書には案件の“一生”を

 筆者の場合、メールに当時まだ珍しかったデジカメ写真を添付。現場や客先の写真に加えて、営業に関係のある街の写真などもどんどん送った。客と現場で記念撮影したチェキの写真を別送したこともある。

 建設の周辺の写真を送ることで、本社にもっとも新しい情報と状況を知らせておけば、本社から初めて出張してくる若い担当者もリラックスできるのだ。

 もちろんメイキング報告書は、国内でも同じだ。部下のちょっとした体験や、顧客との折衝状態、顧客の人物判断がすごくユーモラスであったことで、筆者もその客にあいさつに行きたくなったこともある。

 巨大なプロジェクトから個別の消費者向けの製品まで、かかる金額も時間も異なるが、いつか始まり、いつか完了する。営業案件は売り上げだけが重要なのではない。その案件の“一生”をメイキングとして報告することもビジネスパーソンならでは楽しみ――なのかもしれない。

今回の教訓

 メイキングが面白い映画ってあるよね――。


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著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

 1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう〜」(技術評論社)も監修した。近著は「仕事ができる人のアイデアマラソン企画術」(ソニーマガジンズ)「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちらアイデアマラソン研究所はこちら


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