いま掃除しかできないんだったら、掃除をやるしかない――創造的選択インタビュー全文公開(前編)達人のクリエイティブ・チョイス(4/6 ページ)

» 2009年07月22日 21時00分 公開
[鷹木創,Business Media 誠]

我がことを突き抜けると、皆のことになる

博報堂の吉川さん

吉川 (注:堀内に目で促されて)どうやって絡みましょうか(一堂、笑)。どうしようと思って、しばらく何もしゃべらずにいたんですけど。何を言えばいいんでしょうねえ。何かねえ。どうやって入り込もうかなあと。

 僕も細谷さんと同じように感じたことをいうと、この本は「That's 堀内さん」という感じがしますよね。すごく堀内さんという感じがする。

 堀内さんの家に行くと、こういう問答を子供とやってるじゃないですか。こういうトンチみたいなことをやってますよね。こういう問いかけがあふれているご家庭ですよね。

堀内 こんな凝った問答はあまりないと思うんですけど……。

吉川 こういう感じですよ。堀内さん家に行くと、必ずお子さんとこういう会話をされていて、娘さんが一生懸命答えている。それを僕とカミサンが見て、「堀内家はIQ高いね」と眺めている。

 あと、非常に論理的なんだけど、静かな熱さに裏打ちされている感じが、非常に堀内さんらしい。最後にお手紙を出す(注:本の巻末にある手紙のこと)とか。とにかく共感できると。僕は堀内さんを横でずっと見てきたので、ちょっと冷静じゃないと思うんですけど。アメリカから帰ってきた時から僕は見てるから。今回本を読んで「それほどすごい決断だったのか」と。でもそんな風に見えない人なんですよ。やっぱり堀内さんは静かに熱いんだと。それがポシャった時も、全然悩んでいるように見えないんですよ。

今でも覚えてますけど、ベンチャーの送別会でこんなでっかい花束持ってる堀内さんが、深夜のタクシーの列に入ってきた。同じように並んでいた僕に「このタクシー代はチャージできますか」って聞いてきたんで、近所だから一緒に乗って帰ったんです(笑)。それぐらい堀内さんは超然とされていて、いろんなことが起こっても全然冷静に対応していく感じを持っていたんですけど、それは静かな熱さに裏打ちされていたんだなあということを確認できて、イチ堀内ファンとしてよかったなと。

細谷 堀内さん、いつごろからそういう境地になったんですか。

吉川 僕もそれがなにげに興味ある。

堀内 ど、どんな境地か分からないんですけど。

吉川 うーん、常に慌てないですよね。

堀内 鈍感なのかもしれないですけど、そういう意味では……。

吉川 慌てずに冷静な選択肢を選んでいくというまさにこの本の感じがするんです。

堀内 ベンチャーに転職した段階でやっぱり、ベンチャーだからつぶれるかもしれないというリスクは感じるじゃないですか。ですから、つぶれる前から貯金しておこうとか、シミュレーションはせざるを得ない。ですよね。そんなことがあって、つぶれちゃった時も、半年、一年、就職活動というか起業活動する余裕が幸いあったので、多分慌てずに済んだのかなあ。

吉川 その後も、いっしょに立ち上げた方ともお会いしてるし、その後、その方がいなくなったのも見てるし、なんかドキュメント堀内浩二って感じ。ほとんど横で見てて。

 現在は多分いい意味で安定してるのではないかと思うんですけど。立場とかお仕事とか。アメリカで働いていたころから、そういう現在までの堀内さんの人生の選択がここに載っている、そういう感覚がしましたけどね。それを堀内さんが整理されて、他の人に伝えている。要するに、個人の体験が異常に普遍性を持っているというケースだと思いますよ。個別解なんだけど、これは汎用解であるって言う。

 で、さっきの直感の話じゃないけど、アイデアって個別解だと思うんですよ。思いつきだから。だけど、直感でいいね! ってことは汎用性を持っているってことだとおもうんです。「これは来そうだ」という共感が広がっていくことだから。そういうすごくいいケースだなと思いました。

 だからこそ、リアリティがあるし、パズル的なことと実際の生活は離れがちですよねっていうのをうまく重ねた感じがするのは、実際の体験や苦労された時の、ご自分の選択の手順とか逡巡とかが多分僕らに分かりやすい形でまとめられているから、なのかなと思う。

細谷 確かにそういう本ってなかなかないかも。経験を一般化するのはなかなか難しいですよね。

吉川 だから、これきっと感動小説風にも書けると思うんだけど、これをこう書いちゃうのが堀内さん。だけど堀内さんしか書けない。だからこそ汎用性を持っているのではないでしょうか。本にも書いてあるけど、「我がことを突き抜けると、皆のことになる」っていうのは、まさに、個別解なんだけど汎用解になっていくということなのかなと思うんです。

堀内 ありがとうございます。なんかお呼びして良かったなあ。すごいほめ上手なんだからまったく。

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