“マシュマロ”を食べる前に問題を明確にせよ売れるコンサルティング・セールスへの5つの道

一流のコンサルタントは「ソリューションから離れる」術を心得ている。ソリューションを提案するタイミングは、解決すべき問題や達成したい成果を冷静に検討したあとだ。

» 2009年06月29日 17時00分 公開
[マハン・カルサー, ランディ・イリッグ, (訳)フランクリン・コヴィー・ジャパン,Business Media 誠]

連載「売れるコンサルティング・セールスへの5つの道」とは

 連載「売れるコンサルティング・セールスへの5つの道」は、フランクリン・コヴィー・ジャパンの書籍『ヘルピング・クライアンツ・サクシード』から抜粋したものです。営業マンと顧客の関係をどうすれば、長期間に渡る良好な関係を築けるか――そんな疑問に答える連載です。


 コンサルタントはよく、いきなりソリューションの売り込みにかかろうとする。自分たちのソリューションは用途が幅広く、誰にでも歓迎されると思い込んでいるせいだ。だが、ソリューションが価値を持つとしたら、懸念される問題を解決したり、高く評価されるような結果を生み出したりできることが前提となる。ソリューションとは、何かを解決するためのものだ。

基本的前提その3:課題なくしてソリューションはあり得ない

 解決すべき問題のないクライアントにソリューションを提案しても意味がない。この当たり前のことを理解すると、クライアントに対する我々の行動すべてが決まってくる。

 コンサルタントはクライアントを前に、「御社の問題に対するソリューションは……」と熱弁をふるいたがる。そうした言い方について少し考えてみよう。その根底にはどんな思い込みが潜んでいるだろうか。

「この問題に対するソリューションは……」

 一般的なところを並べてみよう。

  • 問題が錯覚ではなく実在し、消えてもいない。また、その問題を解決できるソリューションが存在する
  • 問題は一つだけ存在する。問題が複数あるわけではなく、数種類の問題が絡み合ってもいない。そして、ソリューションも1つだけ存在する
  • スタッフはこの問題を懸念し、ソリューションを求めている
  • その問題はほかの問題より重大である
  • その問題の大きさを測定できる
  • ソリューションの有効性を見きわめられる
  • その問題は誰の目にも同じように映っている
  • ソリューションを実行すれば問題が全面的に解決されると思われる
  • ソリューションのコストはその問題に起因する損失より少ない
  • ソリューションがほかの問題や深刻な事態を誘発することはない
  • ソリューションは長期的に有効と予想される
  • ソリューションは状況が変化しても通用する
  • ソリューションをその問題に応用することは可能であり、そうなるものとみられる
  • 資源を十分投入してその問題に取り組む意思と能力を持つ人がいる

 「このニーズに対するソリューションは……」という言い方についても同じような思い込みが考えられる。

 セールスの仕方は、ソリューションの無料サンプルになる。前で述べたような思い込みについてチェックもせずにソリューションの話をはじめるとしたら、批判的思考スキルが劣っていることをわざわざ相手に知らせるようなものだ。ところが、そういうコンサルタントが実に多い。何を解決したいのかろくに理解しないでソリューションの話に入るやり方はクライアントの信頼を失い、的確なソリューションを生み出すうえで障害となる。

 ソリューションは、懸念されている問題を解決したり、高く評価される結果を生み出したりするものでなければならない。

コンサルタントとクライアントが望むものは同じ

 コンサルタントとクライアントが向き合うと、話は大概ソリューションの方向に進む。我々コンサルタントは、ソリューションの話が好きだ。我々にとって心地よい話題だからである。

 我々はソリューションを理解し、その知識もある。またソリューションは常に身の回りにあり、それなりにすばらしいものだ。では、クライアントのほうはどうだろうか。資金をいくらか投入すれば、たちどころにすべてが解決されるような効薬があると彼らは思っている。解決すべき課題の洗い出し、問題の存在を裏づける証拠の発見、成功を測定する指標の開発、影響の広がりの検討、障害の識別と克服といった重要な準備作業よりも話しやすいのだろう。おまけに、話題がソリューションである間は、一切を相手に任せ、自分たちは椅子にふんぞり返って高みの見物を決め込むこともできる。

ソリューションから離れる

 一流のコンサルタントは「ソリューションから離れる」術を心得ている。ソリューションを提案するタイミングは、解決すべき問題や達成したい成果を冷静に検討したあとだ。体系的に質問し、重要な思い込みについて有意義な回答を得る。和やかに会話し、時間を有効に使う。これが効果的になされると、クライアントは自分たちの置かれた状況について理解を深めることになる。


 自分のソリューションから離れる方法については「切り出し」の章で、またクライアントが提案するソリューションから離れる方法については「具体化」の章でそれぞれ説明するつもりだ。ソリューションはお互いにとってお気に入りの話題であるため、これから離れようと思ったら、コンサルタントは相当な自制心とコミュニケーション・スキルを求められる。

マシュマロを食べずにいられるか

 ダニエル・ゴールマン博士は著書『EQ:こころの知能指数』(講談社刊)の中で、ある注目すべき調査について記している。1960年代、スタンフォード大学のキャンパスに立つ幼稚園でウォルター・ミッセルが行ったものだ。ミッセルは4歳くらいの子どもたちをある部屋に連れて行き、テーブルの上にマシュマロを一つ置くと、子どもたちにこう告げた。このマシュマロを食べてもいいが、私がちょっと用事を済ませて戻ってくるまで待っていたら、マシュマロを2つ持ってきてあげる、と。子どもたちにしてみれば、我慢して待つだけの価値のある話だった。

 彼はそう言って部屋を出て行き、そのあとの子どもたちの様子を密かに撮影した。すると、何人かはとても我慢しきれないらしく、さっそくマシュマロをつかんで口に放り込んだ。別の何人かは一口かじり、一口かじりしているうちに、まもなくマシュマロを平らげてしまった。

 そのほか、グッとこらえて部屋の中を歩き回っている子も何人かいた。マシュマロをじっと見つめたり、匂いをかいだり、なめたりはしたものの、食べはしなかった。更に、どうにもやるせない気持ちを昼寝でやり過ごそうとする子どももいた。

 ミッセルはこの子どもたちを、その後15年間にわたって追跡調査した。すると、我慢強さと自制心を発揮してマシュマロを食べずにいた園児たちのほうが、大人になって進んだ道に関係なく、情緒面でも知性面でも立派な人間に成長したことが確認された。

 企業のセールス・パーソンやコンサルタントにも同様のことがいえる。クライアントは必要な1つのソリューションだけを話題にすることがある。でも、そのソリューション(=大人にとってのマシュマロ)について話したい衝動を抑え、それが解決しようとする問題を効果的な質問によって浮き彫りにすることができたコンサルタントは、成功がグンと近づくのだ。

ソリューションから離れよう!

 我々コンサルタントは、ソリューションと聞くとすぐ飛びつきたがるものだが、それを我慢すると成功率が高まる。ソリューションから離れることが大切なのだ。

 次回は「取引を成約に結び付ける“ORDER”モデルとは」をお送りします。お楽しみに。

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開催日程 8月20日(木)9時〜17時
対象者 管理職、プロジェクトリーダー、成果を望むビジネスパーソン
会場 椿山荘(東京都文京区関口2-10-8)
受講料 2万9400円〜4万2000円(昼食付き)※参加人数、研修導入状況により異なります
定員 300名
申し込み方法 WebサイトまたはFAX 03-3264-7407 にて
支払方法 銀行振込
問い合わせ先 TEL 03-3264-7417 フランクリン・コヴィー・ジャパン株式会社 セールス・プランニング・チーム(月〜金 9時〜17時)

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