「面白い動画を作ることと同様に、それをいかに見せるのかということが重要だ」――グーグルのYouTube営業部長を務める牧野友衛氏はそう強調する。新聞にも雑誌にもできない、“YouTubeありき”のマーケティング手法とは――。
「米国では、YouTubeはGoogleに次ぐ2番手の“検索サイト”と言える」――そうコメントしたのは、グーグルでYouTube営業部長を務める牧野友衛氏だ。日々アップロードされる膨大な量のデータの中から、ユーザーは自分の興味のある動画にたどり着くために検索を繰り返す。
これからの動画マーケティングを考える「ビジネス動画活用セミナー」で、日本を代表する動画プラットフォーム各社は何を語ったのか。ニワンゴの杉本誠司社長に続いて登場した牧野氏は、「面白い動画を作ることと同様に、それをいかに見せるのかということが重要だ」と再三に渡って強調した。
現在、YouTubeには2000年分の動画がアップロードされ、1分当たり20時間というペースで増え続けている。「これだけ大量の動画の中から、ユーザーにどうアプローチするか。それを考えることこそが“広告”」だと牧野氏は言う。
企業がYouTubeに動画広告をアップロードする場合にはいくつかの方法がある。1つは「テレビCM用に作ったクリエイティブ(=動画)をそのまま使う」やり方だ。「Webに出すのだから、テレビCMとは異なるオリジナルの動画を作らなければと考える企業は多い。しかし米国などを見ると、視聴数の多い広告の3分の1ほどはテレビCMをそのまま使ったものだ」(牧野氏)
一方で、コストを掛けてでもYouTube専用の広告動画を作る企業もある。NTTドコモ、ソフトバンク、トヨタ自動車などがその一例だ。トヨタのコンパクトカー「iQ」の広告は、もともとYouTube動画として作られ、そこから火が付いてテレビCMに“逆輸入”されるという流れをたどった。YouTube用の動画を作る場合は、動画共有サイト上で人気のある個人クリエイターに制作を依頼するといった手法も効果的だという。
動画を用意したら、次はその“見せ方”を考える。読者の中にも「あ、これ見た!」という人が多そうなのがロッテのガム「Fit's」の販促で展開したダンスコンテストだ。投稿数は約2000件を超え、再生回数は1400万件、再生時間は11万時間を記録したという。
YouTube内に企業の公式チャンネルを作成する「ブランドチャンネル」もよく利用されている。「動画で十分に製品やサービスを説明できるのなら、わざわざ自社サイトに誘導する必要はないのではないか。(ブランドチャンネルは)YouTubeの中に自社のマイクロサイトを持っているようなイメージだ」
Webのインタラクティブ性を生かし、動画アップロード者と視聴者が動画でコメントを返し合う機能「動画レスポンス」や、動画内に別の動画へのリンクを埋め込める「アノテーション」機能も利用している企業が多いという。牧野氏は、ニュース番組のような1本のまとめ動画に、複数の動画をリンクして誘導をかけたパナソニックの事例を紹介した。
「ブランドチャンネル」や「アノテーション」ほどに知られてはいないが、大量の動画をアップロードしている企業向けのユニークな機能が「ビデオモザイク」だ。各ビデオのサムネイルを基にして大きな1枚絵を作れる機能で、独Volkswagenのブランドチャンネルを見れば、どんなものか一目で分かるだろう。
米国ではこうした事例に加え、検索結果ページにマッチングした広告を表示するGoogle Adwordsと同じ仕組みで動画を表示できる機能や、YouTubeモバイルへの広告配信も開始しているという。
牧野氏はロッテのFit'sの広告展開を説明する中で、「YouTubeをキャンペーン全体に渡って使ってもらった」とコメントした。
ユーザーが手軽に作品を投稿できたのも、お手本となるCMを時間を選ばず視聴できたのも、他ユーザーの投稿作品を見ながらコミュニケーションを図れたのも、動画共有サービスならではのメリット。コスト面を含めて考えれば、新聞や雑誌では決して不可能な、言わば「YouTubeありき」のマーケティング手法だったと言えるだろう。
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