読むなら書こう、書くなら読もう――ビジネスパーソンに「執筆のススメ」樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」

筆者は「執筆のススメ」を提案したい。というのも、ビジネスはドラマだからだ。さまざまなビジネスの実像を筆者は読んでみたいのである。

» 2009年05月14日 08時30分 公開
[樋口健夫,Business Media 誠]

 誠 Biz.IDの読者たちは、仕事だけに取り組んでいるわけではないだろう。自分の人生に対しても、仕事と同じように真剣に取り組んでいるのではないだろうか。きっとさまざまなビジネス書を読み、自己啓発しているはずだ。

 そこで筆者は「執筆のススメ」を提案したい。エッセイを書くことで始めてもよい。ビジネス書を執筆することを計画してもよい。商社マンだった筆者の場合、1985年以来、約48冊の本を出版した。海外での20年勤務という特殊な環境であり、さまざまな貴重で奇妙な体験をたくさんしていたことも事実だ。

 だが、読者の数だけ体験があるとすれば、それぞれにエッセイや旅行記、ノウハウなどを書けるのではないだろうか――。そんな思いから、自分の本を出版することの面白さを何回かに渡って説明したいと思う。

 ビジネスはドラマだ。単に商品やサービスと金の動きだけでは絶対にない。人と人との交渉であり交わりである。数千億のプロジェクトから戸別販売、電話販売のビジネスまで、まだまだ知られていない人間のドラマがある。

 あるいはビジネスマンが、ビジネスから離れたところの小説を書いてもおかしくない。もしかしたら小説を書いて、気分転換が図れるかも。「いつかは自分も本を出したい」と思っている人であれば、その準備を今開始してもいいはずだ。

 なお「執筆なんてとてもできない」「筆者は書くのが下手だ」といった弱音は、初めから言うことを固く禁ずる。

読む本がなければ、書こう

 現役時代は一貫してプロジェクトの営業であったが、海外での営業の基本は待つことだった。アフリカでも中近東でも待たされた。政府関連企業の幹部に面談しようとすれば、まずはアポイントを取るために1時間ほど待たされ、約束の日時をもらって出直し、その時間に再度行っても、2〜3時間はざらに待たされた。もちろん相手は決してヒマではない。超多忙なのだ。

 帰ることも自由だが、そうなると仕事はまず進まない。仕方がないので、待つ。待っている間、坐禅を組むわけではない。仕方がないので、本を読んで読んだ。精神をまともにしておく大切な方法だった。

 日本に出張すると帰りの荷物の大半は本だった。ありとあらゆる種類の本を、むさぼり読んだ。かなり堅い本も読んだ。待っている間に、本を読み終わるといけないので、次に読む本もカバンに入れて、「スタンバイブック」と称していた。

 ある日、砂漠の中の工事現場に3日間出張した。周辺の500キロ四方で、日本人は筆者1人。娯楽はもちろん酒も何もないところだ。

 夕食後、ベッドに横たわって、カバンに入れた本を取り出して読み始めたら、持ってきたのは、2冊ともすでに読んだ本だった。この瞬間、絶望感を感じた。「このまま砂漠で3日間も過ごすなんて……。どうしよう」筆者は考え込んだ。

 カバンの中を探したが、ノートだけしかなかった。その時に思いついた発想が、人生を変えた。「読む本がなければ、本を書こう」――正にこれこそ、パラダイムシフトの瞬間だった。

30歳、商社マン・ライターの出発点は「砂漠」

 どんな本になるのかも何を書くかも、まったく決めていなかった。ただ何もしないで、砂漠の中のホテルでじっとしているのだけはやめようと思った。何を書こうか? 書くなら楽しいことがいい。

 結局、砂漠について書くことにした。砂漠の国に駐在して、筆者も家族も砂漠が大好きだったことは、大きな救いだった。砂漠といっても砂でさらさらしているわけではなく、固くて平たんな「土漠」だった。

 どんなに真夏の砂漠でも午後3時を過ぎると、一陣の冷涼な風が吹き、それからはどんどん涼しくなる。さっきまでの殺人的な暑さは、夕方までには収まって、肌寒いほどだ。週に2回から3回は日本からのお客を招待して、砂漠に出かけたものである。

 そこではお定まりのバーベキュー。米国産の巨大なステーキを何枚も食べた。明るい内には化石拾い。地平線の彼方までサンゴやアンモナイトやさまざまな貝の化石がたくさんあった。サソリ狩り、大トカゲおっかけ、砂漠にできるキノコ探し、年に2回だけの降雨の後に咲くアイリスの谷、砂漠でキャッチボール(ボールを取りそこなうと延々と転げていく)、満天の星をもっと見るために、日本から天体望遠鏡を持ち込んだ。子供たちの肝試し、ベドウィン(砂漠の遊牧民)のテントを入手して、大みそかに砂漠でテントを張って、自家発電機で日本から持ち込んだ電気こたつに入って、新年にカレーを食べたこともある。

 筆者はノートを取り出して、そうした楽しい思い出の1つ1つを書き始めた。これが当時30歳の商社マン・ライターの出発点だった。


 読者の皆さんもオンオフ関係なく感じたことを書いてみてはいかがだろうか。本を読むなら、感じたことや体験を書き始めよう。読み過ぎ、読むだけに徹しているのはバランスが取れない。読んでばかりいたら、耳の穴から情報がこぼれ出る。これからは紙に書くなり、ブログに上程するなり、知的出入りをバランス取ることが大切だ。

今回の教訓

 出て行く一方のおいら――。


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著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

 1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう〜」(技術評論社)も監修した。近著は「仕事ができる人のアイデアマラソン企画術」(ソニーマガジンズ)「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちらアイデアマラソン研究所はこちら


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