「創造的な選択」のめざすもの――4つのポイントクリエイティブ・チョイス

「君のこの経理処理はちょっと“創造的”すぎやしないか!?」「ありがとうございます!」「勝手にルールを作るな」――ということにならないためにも「創造的」ということについて考えたいと思います。これまで「なんとなく」だった選択に自分の意志を反映していける。その積み重ねが、自他ともに認める「創造的な選択」につながっていくのではないか。これが本連載の仮説です。4つのポイントで説明しましょう。

» 2009年04月21日 10時20分 公開
[堀内浩二,Business Media 誠]

連載「クリエイティブ・チョイス」について

 問題を「イエスかノーか」に絞り込んでしまってませんか?――。新連載「クリエイティブ・チョイス」は、選択肢以外の「第三の解」を創り出し、仕事や人生の選択において、満足度を高めることを考えます。4月23日発売の書籍『クリエイティブ・チョイス』から抜粋したもので、今回も序章からです。


上司 君のこの経理処理はちょっと「創造的」すぎやしないか!?

部下 ありがとうございます!

上司 ……。「勝手にルールを作るな」という意味で言ったんだ!

 言葉をあいまいにしたまま話を進めて、あとで皆さんをがっかりさせたくありません。「創造的」といった魅力的な言葉の場合はなおさらです。そこで、本連載でかぎかっこをつけている「創造的な選択」が目指すものを最初に定義しておきたいと思います。

 「選択」とは、ある目的を果たすために手段を選ぶことです。手段のよし悪しは、目的にかなっているかどうかで決まります。つまり「手段を選択するということは、目的を選択することでもある」のです(河野哲也著『暴走する科学』光文社、2008年)。目的と手段の関係について筆者と似た発想に基づいた考察がありました。例えば「東京から大阪までどうやって行く?」という問いにはいろいろな選択肢がありますが、どれを選ぶかは目的しだいです。速さなら電車か飛行機、安さならバスでしょう。

 本連載がめざすのは「安さなら『青春18きっぷ』のほうが、いやいっそヒッチハイクのほうが……」などと、選択肢をたくさん出せるようになることだけではありません。「新しいアイディアというのは、新しい場所に置かれた古いアイディアなんだ」(デイル・ドーテン著『仕事は楽しいかね?』野津智子訳、きこ書房、2001年)という言葉があります。本連載では、アイディアを置く新しい場所、つまり目的を問い直すところからはじめます。暗黙のうちに定義している目的を「再定義」する、といってもいいでしょう。

 目的を再定義すると手段も再定義されます。東京から大阪まで移動する目的がAさんに会うためであれば、問いは「大阪のAさんに会うには?」と再定義できます。すると、名古屋で落ち合うのもAさんに東京に来てもらうのも、新たな選択肢の一つになります。

 ある男性は、東京での仕事を辞めて地元(とびきりの田舎です)に帰ることにしました。表面的にはありきたりな選択です。けれども当人にとっては、ずっと「ありえない」選択でした。地元に帰らなければならない事情があったわけでも、都会に飽きたわけでもなかった。ただ、長い目で見て自分を最高に活かし得る環境はどこかと真剣に問うたとき、地元に帰ることが選択肢にのぼってきたのです。ちなみに現在は地域振興の仕事に携わっています。

 目的が変われば、とるべき手段も変わります。ある手段を選択した結果が目的を変えてしまうこともあります。そしてわれわれは日々いやおうなしに選択を重ねています。選択というダイナミックなプロセスを目に見えるように整理できれば、これまで「なんとなく」だった選択に自分の意志を反映していける。その積み重ねが、自他ともに認める「創造的な選択」につながっていくのではないか。これが本連載の仮説です。本連載がめざす「創造的な選択」のあり方をまとめてみましょう。

自主的な選択

 「そもそも何が目的か?」「何が選択肢になり得るか?」から自分で考え、選択していくことをめざします。だれかが「正解」を教えてくれることや、自分の代わりに選択してくれることを期待しません。

目的にかなった選択

 人間が持つ心理的な偏りや、組織や社会と共有している常識を一度脇に置いて、目的にまっすぐ向かえる選択をめざします。だれもがAかBかと考えがちな状況でCという目新しい選択肢を思いつけることは重要です。ただ、そこでCを選ぶことがつねに「創造的な選択」ではありません。もっとも目的にかなう選択肢がAであれば、Aが「創造的な選択」です。

機を逃さない選択

 多くの出来事はわれわれのコントロールできないタイミングで降りかかってきます。その機を逃さない選択をめざします。「何もしない」という選択であっても、「時間切れで見逃した」のではなく、「自信を持って見送った」といえるような選択をめざします。

後悔の少ない選択

 結果をコントロールできない以上、選択のよし悪しは結果の成否では測れません。選択にいたるプロセスを重視し、後悔の少ない選択をめざします。

 また「創造的な選択」は、ある1回きりの選択ではありません。大きな選択を分割したり、前の選択の結果に応じて次の選択を変えていくことを含めて、小さな選択の積み重ねからなる一連のプロセスという意味合いを込めています。

今日のクリエイティブ・チョイス「まとめ」

 われわれはつい新しい手段を探しがちですが、手段のよし悪しを決めるのは目的です。「クリエイティブ・チョイス」とは、目的と手段の関係を再定義するプロセスともいえます。

著者紹介:堀内浩二(ほりうち・こうじ)

株式会社アーキット代表。「個が立つ社会」をキーワードに、個人の意志決定力を強化する研修・教育事業に注力している。外資系コンサルティング企業(現アクセンチュア)でシリコンバレー勤務を経験。工学修士(早稲田大学理工学研究科)。著書に『「リスト化」仕事術』『リストのチカラ』の文庫化/ゴマブックス)がある。グロービス経営大学院客員准教授などを兼任。


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