おじぎはしないほうがいい――動画で見るプロ講師のあいさつ術(前編)プロ講師に学ぶ、達人の技術を教えるためのトーク術(2/3 ページ)

» 2009年03月17日 09時00分 公開
[開米瑞浩,ITmedia]

 いきなり実技をやってくださいと無茶ぶりをされてしまった庄司さん。まずはこの映像をごらんください。

開米 はい、どうもありがとうございます。ちょーっと硬くなってますね、まあ無理ないですけど。

庄司 いやあ、緊張しますよ。

開米 あらためて人前で話そうとするとやっぱり硬くなるのはしょうがないですよ。もうこれは気にしないに限ります。漠然と「リラックスしよう」なんて考えるより、個別のポイントを練習しときましょう。

庄司 どのへんがポイントになりますか?

開米 今のあいさつトーク、ざっと見たところ1、2、3……7つのポイントがありますね。そのうち2つは問題ないんですけど、残る5つは改善した方がいいところです。

庄司 7つ! このたった30秒ぐらいで、あいさつだけで、7つ? ですか!!

開米 大丈夫です。1つ1つは大したことじゃないですから、練習すればすぐできるものが多いです。具体的には以下の7項目です。

  1. おじぎはしなくていい
  2. こんにちはの後で返事を待つ
  3. 両手を組まない
  4. アイコンタクトをしっかりとる
  5. 「させていただく」禁止
  6. 名前をゆっくり
  7. 身体をゆらさない

 それでは、1つずつ解説しますね。

オープニングトーク7つのポイント解説編

開米 まず1番、「おじぎはしなくていい」ですが、「教える」セミナーの講師をする場合、オープニングではおじぎをしないほうがいいんです。

庄司 おじぎをしない!? その方がいいんですか?

開米 はい、というのはどういうことかというと「これからセミナー始めますよ」というときには受講生は間違いなく緊張してます。その緊張をほぐしていかにリラックスした空気にもっていくかが勝負なんです。そんなときに深々としたおじぎをすると、リラックスというよりは「厳粛な空気」を作ってしまうんですよ。

庄司 厳粛……。

開米 そうなんです。例えばこれがお葬式の司会だったら厳粛でいいですよ。あるいは勲章授与とか、卒業式とか、そういう場面だったら「厳粛」「おごそか」にするべきですので、いきなり深々おじぎでいいんですけど、リラックスしてほしいときには講師のほうからリラックスするべきなんです。

庄司 な、なるほど……。

開米 というわけで初めのおじぎはいりません。これなんか、やらなきゃいいだけですから、知ってればすぐできますよね?

庄司 そうですね、すぐできますね。

開米 というわけで1つクリア。

開米 では2番目、「こんにちはの後で返事を待つ」ですが、要するにこういう形に持っていきたいんですよ。

 つまり、「こんにちは!」とあいさつをしたら、それに返事が返ってくるのを待ってほしいんです。そのために、「こんにちは!」の後で一瞬、1〜2秒ぐらいの「間」が必要です。

庄司 なるほど、すぐにしゃべり続けてしまうと、返事を返すタイミングがなくなっちゃうわけですね。

開米 そうなんですよ。こういう間を入れることで1対多でも双方向のコミュニケーションになりますから、このへんは狙って間をとるようにしてください。

庄司 分かりました! で、(X)というのは何ですか?

開米 呼びかけて、返事をもらったら、その返事が聞こえましたよ、というサインを入れておきたいんですよね。どんな言葉がいいと思います?

庄司 聞こえましたのサインですか、えーと、聞こえましたよってそのまま言うわけにも行かないし……「ありがとうございます」かな?

開米 そう、それで大丈夫です。実際やってみるとこれで会話のキャッチボールが成立するので、その後の話につなげやすくなります。これも、すぐできそうですよね?

庄司 できます。

開米 これで2つめクリア。

開米 それでは3つめ、「両手を組まない」に行きましょう。

庄司 ああ、それねえ、聞いたことあるんですけどねえ。

開米 あ、聞いたことあります?

庄司 プレゼンのときに身体の前で両手を組んじゃいけないんですよね?

開米 そうなんですよ。特に欧米人の前ではやっちゃいけないそうです。なんでも、キリスト教文化の中では「アダムとイブがイチジクの葉で前を隠しているポーズ」を意味してしまうそうで(笑)

庄司 あちゃー!

開米 これ実は庄司さんと同じ元リクルートのプレゼン名人さんに聞いたんですよね

庄司 そうなんですか! あちゃー!

開米 ちなみに私は2007年の夏にあるイベントを見に群馬県に行ったことがあります。そのイベントでは、ステージの上に10人ちょっとの人が並んで、代わる代わるスピーチをしてました。ところが面白かったのは、手を前で組まずにいたのはその10数人のうちのたった一人だけだったんですよ。

庄司 たった1人ですか

開米 そのたった1人が誰だったと思います? 小泉純一郎元首相でした。

庄司 へえー! 小泉さん!!

開米 小泉さんはあれは完全に分かってて意識的にやっている動きでしたね。でもこれ難しいんです。知ってるだけじゃなかなかできないんです。

庄司 そうですよね、手を組まないようにするとどうもこう、両手が落ち着かなくって。

開米 そうでしょう? 分かります。手がぶらぶらしてるのが不安なんですよね。

庄司 そうなんですよ。組んでないとどうもそわそわしてしまって気になってしかたがない。

開米 「講師」をすること自体に慣れてないから、その気持ちの緊張感が身体のほうに出てくるんですよね。人間、緊張すると身体がガチガチに硬くなるか、あるいはゆらゆらと揺れたりブルブル震えたりします。それが特に身体の末端部、つまり手に出てくるので、その震えを押さえるために手を組みたくなるんです。

庄司 うーん難しいなあ、これは……

開米 でですね、これは一応「手を組まない」というのがセオリーではあるんですが……

庄司 分かりました、頑張ってみます

開米 いや、頑張らなくていいです。手を組んでもいいです。

庄司 え? どうしてですか?

開米 というのは、手を組むというのは「気持ちの緊張を押さえるための身体の防衛反応」なので、本質的には「緊張」のほうが解決しないとダメなんです。「手を組む」という外側のカタチだけ直しても、その分どこか別なところにゆがみが出るだけです。例えば手が震えたり、焦りが出てきたり、そんな感じになっちゃいますから。

庄司 ああ、なんだか分かる気がします。

開米 だから、手ぶらが気になるようだったら、組んじゃっていいですよ。ただし「できれば組まないほうがいい」というセオリーだけ頭のどっかに入れといてくれれば、そうすれば緊張が解けてきた頃には組まずにやれるようになりますから。それに庄司さんの場合、相手はほとんど日本人だけで、欧米人いませんよね? だったら、「手を組む」ことにあまり神経質にならなくても大丈夫。

庄司 なるほど、分かりました! なんか気が楽になりました(笑)

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