iPhoneアプリはポスト・イットで作る!? 「QuadCamera」「ToyCamera」深津さんひとりで作るネットサービス(2/2 ページ)

» 2009年03月13日 16時25分 公開
[田口元,ITmedia]
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アイデア募集から開発ノウハウまですべて公開

 2008年に日本でiPhoneが発売されると、深津さんはすぐに買い求めた。iPhoneの端末自体に加え、特にApp Storeを素晴らしいと思った。App Storeでは、iPhoneやiPod touch用のアプリケーションを誰でも世界に向けて販売することができる。このサービスがあれば、個人でも世界中の人に使ってもらえるアプリが作れる……。そう思うといてもたってもいられなくなった。まずはiPhoneのスペックを確認し、ブログ上での評判などを調べ上げた。

 「調べてみるとiPhoneはカメラがしょぼい、というレビューが目立ったのです。そこでApp Storeのカメラカテゴリーのアプリを20個〜30個ほどダウンロードして全部試してみました」。いろいろ試してみたが、深津さんは「どれも静的というか、画一的なものばかり」と感じた。Flashで培ったノウハウを活用すれば、使いやすくて心地いい「カメラ」が作れるはず……。そう考えた深津さんはおしゃれな写真が手軽に撮れる「ToyCamera」の開発に取り掛かった。

 初めてiPhoneアプリを作るので、Objective-Cの言語習得に苦労した。またApp Storeにアプリを申請するための書類をそろえるのも大変だった。「ちょうどApp Storeが始まる時期だったので、検索してもなにも情報がなかったのです。手探りしつつ、なんとか最初の申請を終えることができました」。こうした苦労の甲斐(かい)があって、日本のApp Storeではしばらくランキングトップに君臨することができた。

 また、「ToyCamera」で得た利益は、実験的な試みのために費やそうと決めていた。そこで、はてなでポイントを購入し、人力検索機能で広くiPhoneアプリ販売のノウハウを集めるのに使った。「1月12日にiPhoneアプリを出すのですが、海外でのプレスリリース先を探しています」――こうした問いに対する回答を、総額1万ポイントで募ったのだ。はてなに公開したこの質問にはさまざまな情報が寄せられた。ただ、一部にはこうした彼の行為を「お金をかけてまで集めた情報をオープンにしてしまうのは、あまり合理的ではないのではないか」という批判もあった。彼がせっかくお金を払って集めた情報が誰でも得られるからだ。

 しかし、深津さんは「情報をオープンにしているのはボランティアではない。自分が使った費用以上の効果を見込んで計画的に行っている」と主張し、自身のブログでもその合理性を説明している。

 そう思い至った背景には深津さん自身の経験がある。「以前、FlashのActionScriptがバージョンアップしたとき、あまりにも情報がなくて苦労した経験があるのです。この時、自分が得た情報をオープンにしてみんなで共有し、みんなで得をする方が、自分1人だけが得するよりいいと思ったからです」

 自身のブログでもiPhoneアプリ開発で培ったノウハウを積極的に公開している。「iPhoneアプリって結局儲かるの?」や「海外でiPhoneアプリのDL数を200%増する方法」といったエントリーでは、販売数などの生々しいデータや、アプリを開発/販売した人ならではのノウハウを惜しげもなく公開している。

操作の確認はiPhoneの画面サイズの付せんで

 iPhoneアプリ開発で深津さんが便利に使っているのが付せん。50×75ミリサイズのものがiPhoneの画面サイズにピッタリ合う。この付せんをiPhoneに貼り付け、画面設計を行うという。ボタンの大きさなど、快適に操作するにはどのぐらいがよいか、実際に触りながら確かめられるからだ。


直接iPhone画面に貼り付けた付せんにデザインを書いて、操作感覚などを確認していく

 「最初は自分で画面大の紙を切り抜いていたのですが、ちょうどいい大きさのポスト・イットがあったのです。今、この付せんにアプリ開発に便利なグリッド線を入れたノベルティを作ろうとしているのですが、精度を高くすると値段が高くなっちゃって……。ちょっと迷っています」。深津さんは笑いながらそう教えてくれた。

 将来は個人でおもしろいものや便利なものを作って生活していければいい、と深津さんは願っている。「App Storeのような仕組みがあれば、自分の作品を気に入ってくれる人が世界中に数万人いれば生きていけると思うのです。個人だとしても世界中の人に何かを発信することができる、ということがインターネットの本質だと思っています」

持ち歩いているMacBook Pro

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