頼めばジェネリック薬を処方してくれますか?現役医師がズバリ回答

同じ薬ならなるべく安いジェネリック薬を処方してもらいたい。ただ病院側でもメーカーが決まっていそうで、どうも言い出しづらいんですが……。そんな患者さんの声に、仁科桜子医師がお答えします。

» 2009年03月05日 13時53分 公開
[仁科桜子(企画:ソフトバンククリエイティブ),ITmedia]

 お元気ですか? 外科系女医の仁科桜子(にしな・さくらこ)です。前回は病状説明のし方についてお答えしちゃいました。さて今回の質問は?

質問6:ジェネリック薬って、頼めば処方してもらえるんですか?

出費を抑えたいので、医師にはなるべくジェネリック薬を処方してもらいたいのが本音です。ただ医師側では決まったメーカーがありそうで、安い薬はどうも頼みづらいんですが……。


 や、どうもご質問をありがとうございます。実はこういったお悩み、実際の医療現場でも、わりと患者さんに直接聞かれることが多いんですよ。ちょっと昔は「ジェネリック」という言葉すら一般的には知られていなかったのですが、最近は医療費削減にもつながるためか、よく耳にするようになりました。テレビCMなんかの影響もあるんですかね。

ジェネリック薬とは、特許の切れた後発医薬品

 ご存知の人も多いかもしれませんが、念のため説明しておきますね。薬は普通、製薬会社が新しい薬を開発して、さまざまな臨床試験なんかをして、長年かけてようやく発売にこぎつけるわけです。これを「先発医薬品」といいます。

 最初は開発した会社だけがこの薬を売れるんだけど、だいたい20〜25年くらいの特許期間が過ぎるとほかの会社も「解禁」となり、同じものを作っていいことになるんです。この、真似して作られた薬が「後発医薬品=ジェネリック医薬品」です。

 ちなみにギョーカイ用語では「ゾロ」といいます。後発医薬品メーカーからゾロゾロと発売されることから、こう呼ぶようになったそうです。ぶっちゃけ覚えても得することは何もないと思いますが……。医療業界にも変な業界用語がたくさんあり、現場ではまるで万国共通みたいに当たり前のように使われていて、医師になりたての頃は何がなんだかさっぱり分からなかった記憶があります。

 患者さんから見たら、「同じような薬なのにメーカーによって値段が異なるなんて、おかしいじゃん。何を基準にして選ぶのよ」と困っていらっしゃる人も多いのではないかと思います。

 なんで同じ薬が違う値段になるのかという話からすると、そもそも薬の開発には膨大なお金と時間がかかります。場合によっては、数十年間、数百億円もかけて、ようやく開発するわけです。となると、当然だけど、そのかかった費用も加味して薬価が設定されないと開発した製薬会社が損をしてしまいます。

 一方、ジェネリック医薬品は、もともとある薬を一定期間を経てから後発で真似して作るものですから、開発費などの膨大な経費が要らないわけです。だから、そのぶん薬価も安く設定できます。だから、ほぼ同じ薬なのに値段が異なるものが登場するわけなんです。

 つまり、高嶺(たかね)の花の女性を口説こうとする場合、最初にアプローチする人は、攻略法が分からないのでお金をかけて暗中模索するしかない。でも後からアプローチする人は先行者を模倣すればよく、いいとこ取りができるわけですね。

 たまに飲む風邪薬なんかだと、多少値段が違ってもそれほど気にならないかもしれませんが、慢性的な病気などに対して長期に飲み続ける薬の場合、金額の差も服用期間に比例してそれだけ大きくなります。こうなると、同じ作用の薬なら、そりゃあ安いほうがいいですよね。不況の時期だと、医療費の多寡は大きな問題でしょう。

1社だけか複数か――病院によって薬のメーカー数はバラバラ

 よく言われるのが、「効果が近い薬がいろんなメーカーから出ているのなら、医師がどの薬を患者に出すかは、製薬会社との癒着(ゆちゃく)の度合いで決まるのでは?」ということですね。これに関して言えば、基本的に医師が製薬会社と癒着して金をもらっていたら、今ごろ、その人はお縄になっている可能性が高いわけっすよ。だって、それは賄賂(わいろ)だもの。

 とはいっても、ここだけの話、病院ごとに「うちの病院ではこの薬にしてね」という暗黙の指令が来ることがないとまではいいません。ただ、それはお金をもらっているからではなく、すべての薬を1つの会社が優先してしまうのは問題なので、「この薬はA社を優先に、その代わりこっちの薬はB社を優先にしましょう」という、やんわりとした取り決めのようなものが何となく存在するという程度。

 ただ、そうは言っても、こういった話は私のような末端で働く一勤務医には未知の領域でもあるんですよね。だって、これを決めるのは病院の偉い人たちなんだもの。極端な話、たくさんのメーカーから出ている薬でも、ある病院には1つのブランドしか納入されていないということが多々あります

 こうなると末端の医師は選択の余地なんてないです。どの薬を選ぶかはピラミッドのもっと高いところですでに決まっているんだから、ピラミッドの下のほうで石を運んでいるような立場の私にゃ、何ともいえない。そのあたりの上層部の舞台裏は正直分からないけど、フェアにやっているだろうと信じてはいます。

 効果が保障されていれば、どの薬を出しても一般の医師側からしたら、正直あまり関係ないわけです(どうでもいいという意味じゃなくてね)。つまり、患者さんが「私はA社の薬が安くていいからこっちにしてちょうだい」と言っても、医師としてはまったく悪い気持ちはしないのです。だって自分には利害はないんだから。

 ですから、患者さんの側でも、ジェネリックに関して、医師に対して気軽に質問したり、要望を出しても問題ないと思いますよ。


 次回の質問「どう入手する? 病院にないジェネリック薬」に続く――。

本日の処方せん

  • ジェネリック医薬品とは、最初に開発された先発医薬品の特許期間経過後に作られた後発医薬品のこと。
  • 開発費がかからない分、ジェネリック医薬品は安く価格設定できる。
  • 病院で使う薬は、決まった一メーカーのものに偏っている場合、薬の種類によってメーカーを決めている場合などさまざまある。
  • 患者がジェネリックの要望を医師に伝えても差し支えない。

仁科桜子(ドクトル・ピノコ)プロフィール

女医。 医大生時代には体育会に属しつつ、某社キャンペーンガールや大手塾講師など数々のバイトをこなす日々を過ごす。 現在は、酒と体力だけには自信アリの外科系ドクターとして病院勤務。

ドクトル・ピノコ名義で「週刊ビジスタニュース」などにコラムを執筆している。2009年1月、仁科桜子(にしな・さくらこ)名義で『病院はもうご臨終です』(ソフトバンク新書)を発売した。


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