日記はなぜ続かないのか――仕事日記を目指して樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」

筆者は20年以上アイデアマラソンを含む日記を書き続けているが、日記を書いている社会人はどのくらいいるだろうか。ただ、仕事に忙しい人ほど日記は続かない。その続かない理由を考えてみた。

» 2009年02月26日 13時40分 公開
[樋口健夫,ITmedia]

 小学6年生の80人ほどに「日記を書いている人は?」と聞いたら、約15人ほどが手を挙げた。一方、高校3年生の100人ほどに同じ質問をしたら4人だけだった。日記にブログを含めたら分からないが、少なくとも紙の日記に限れば、書いている社会人はもっと減りそうだ。

 筆者自身はすでに20年以上、アイデアマラソンとして発想を書き入れている同じ紙のノートに日記を書き続けている。商社マンの現役時代に、営業で毎日外回り、顧客回りをするのに、交通費の精算を2週間ほどずつまとめて請求書を出すのに、日記が必要だった。その時の習慣から、日記を継続するようになった。事実だけでなく、感動したり、驚いたり、何か特別のことがあれば、必ず一言コメントを書き留めている。ただ、日記を継続することは本当に難しいと思う。継続できない理由を考えてみたい。

書くことを忘れてしまう

 日記を書く習慣がない人は、日記を書くことを単純に忘れて寝てしまう。次の日の朝は、忙しく朝食を食べて、日記の入った書斎の引き出しを開けることもなく、出勤してしまう。

 せっかく1カ月ほど日記が続いていたのに、国内の2日間ほどの出張で出かけたら、出張2日前から日記が止まってしまった。こうなると、引き出しに入った日記を見るのも胸がズキズキ痛む。筆者自身、分厚い日記を引き出しの奥の方に押し込んでしまった思い出がある。

 忘れないようにするのが一番だが、その方法については来週以降の連載でご紹介したい。

記憶は頼りにならない

 日記が続かない原因は、書くべきことを忘れてしまうからだ。日記はその日に書くべきなのだが、忙しいとついつい先送りしがち。でも次の日の昼を過ぎると、前日の記憶はほとんど消えるか、あいまいになる。夕方になれば、よほどの衝撃的なことでない限りほぼ消える。例えば、2日前の昼食を思い出せるだろうか? 昨日の朝何を食べたか思い出せるだろうか?

 次の日に日記を書くとなると、これはもう思考内容やその日の反省などを書くことは不可能だ。数日後に書いた日記の内容は簡単単純にならざるを得ず、記述は表層的で、言うなれば骨だけとなり、おすましスープしか出ない。塩味も付いていない日記となり、まったく面白くない。日記の記述内容に意味がないのである。書いた本人ですら二度と読みたくないものだ。

 それを無理して、ウンウンうなって前日の行動を思い出すべく頭をひねる。時間をかけると、ようやくどこに行ったかだけを思い出した。それを書き終わるのに相当な時間。これは、の記憶回復トレーニングにはなるが、あまり創造性とは関係がない地味な活動だ。前日の行動を思い出すのに半時間を過ごし、ようやく思い出して、何を食べたかを記述しても、それが何になるのだろうか、こんな下らないことをなぜ続けるのかと自問すると、途端に日記は止まってしまう。

“箱入り娘”だから

 日記が続かない人にはこんな人もいる。日記帳を自分の家に置いて、書斎の引き出ししまっている人だ。誰にも見られないようにしているという気持ちは分かるが、いつでも身近に置いていつでもどこでも書けるようにした方がいい。

 丈夫で重厚な表紙の日記も引き出しを開けてもらえなかったら、何の意味もない。ただ、そんな重厚な日記は重すぎていつでもどこでも持ち歩くのが難しいだろう。立派な装丁の日記は重いだけでなく、表と背表紙に「なんとか日記」と金箔が打たれていて、それを電車の座席で広げることは筆者でも難しい。できればコンパクトでいつでもどこでも取り出せて書き込めるような日記帳が望ましい。


 日記が続かない理由を考えてみたが、日記はその日の夕方にでもすぐ書くだけで、内容がはるかに充実する。遅くても寝る前に書けば過半の記憶は割に簡単に思い出せるのだ。思いの入った日記は、「日記アイデアマラソン」として、筆者が提唱するアイデアマラソンとしても活用できるのである。

 従って、

  1. 忘れないように書くこと(方法は来週解説する)
  2. その日に書く
  3. いつでもどこでも書けるようにする

 とすればよいのではないか。もう1つ、仕事の中心に日記を据えてはどうだろうか。仕事が忙しい人は、1日をほとんど仕事のことや仕事関係の体験で過ごしている。疲れてもいるだろうが、仕事では色々と考えてそれなりに充実した日々を過ごしている人も多いはず。考えることも多いだろうし、それらを生き生きと描写して日記に書き留めることができれば、将来必ず役に立つ。こうした見方から、新しい日記の姿が見えてくる。それを来週から何回かで提言してみたい。

今回の教訓

 日記が覚えてくれる――。


著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

 1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「できる人のノート術」(PHP文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう〜」(技術評論社)も監修した。「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちらアイデアマラソン研究所はこちら


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