後傾? 前傾? 作業にあったワーキングチェアを考えるオカムラ「いすの博物館」

デスクトップPCとノートPCで作業の姿勢が異なります――。岡村製作所の「いすの博物館」で作業にあったワーキングチェアを考えてみた。

» 2009年02月19日 19時25分 公開
[鷹木創ITmedia]

 デスクトップPCで長時間作業をしていると、いつのまにかイスから体がずり下がり、だらしない格好で仕事をしていることはないだろうか。画面が大きいデスクトップPCの場合、ディスプレイと体がある程度離れても作業が可能なため、楽な姿勢になりがち。実は、そんな姿勢が「デスクトップPCでの作業に向いているのです」(岡村製作所シーティング研究室の浅田晴之主任研究員)という。

デスクトップPCはおよそ110度――最適リクライニング角

 岡村製作所では、作業に応じて7段階のリクライニングの角度を想定。座ってもほとんど垂直な状態の0型(90度)からスタートし、I型(93度)、II型(100度)、III型(105度)、IV型(110度)、V型(115度)、VI型(127度)と背もたれの傾く度合いが強まる。ほとんど垂直な0型は机の上にひじをつきながらなの前傾作業に適する。ペンで書類に書いたり、小さいノートPCに向き合って作業したりする場合だ。若干後傾度を増すI型、II型にしてもやはり前傾作業向きだという。

右から0型、I型、II型
右からIII型、IV型、V型

 ディスプレイと体が離れても作業できるデスクトップPCに適しているのは、垂直からやや後傾、およそ110度ぐらいの傾きだという。先ほどの類型ではIV型に当たる。110度よりも傾きが増えると利用者の頭部を支えるヘッドレストが必須。ヘッドレストのレストは「休憩」の意味、リクライニングもそもそも休憩に利用されている機能だが、実は現代のPC作業では、深くリクライニングすることで作業の効率が上がるのである。

 ただ、「だらしない格好であっても仕事ができるんだからいいじゃん!」と思っている人は気をつけよう。さらに傾きを増すV型やVI型だと「完全に休憩モードに入ってしまう」(浅田さん)から傾け過ぎは要注意だ。

リクライニングすればいいの?

 また、作業の効率を上げるためのリクライニングは、どんなイスでも傾ければいいというものではない。通常、リクライニングすると視線は上を向く。PCの作業であれば、この視線をデスクの上に合わせなければならないはずだ。

 岡村製作所が開発していた従来のイスも、多くは休憩のためのリクライニングを想定していた。例えば、1958年に発売した「2218型」は背もたれだけが付け根の部分から傾く「背ロッキング」、1987年の「X-1シリーズ」では、ひざ下を支点に座面と背もたれが前後に傾く「ニーチルトロッキングメカ」、1992年の「FC-9シリーズ」では、足首(くるぶし)を支点に傾く「アンクルチルトリクライニング」を採用した。これらはいずれもリラックスのためのリクライニングだという。

 一方、リクライニングしても視線がデスク上にとどまる機構も開発。背もたれの独特な形状と伸縮性のあるメッシュシェルを採用した「アクティブバッグ」とアンクルチルトリクライニングを組み合わせたもので、リクライニングしても視線の方向を保つという。この機構は、2000年に発売した「ERCIO(エルシオ)」以降のワーキングチェアに搭載している。

 

「姿勢は使うツールによる」

 なお、岡村製作所が2月12日にオープンした「いすの博物館」では、利用者に応じた背もたれの傾き具合や座面の大きさなどを計測する「エルゴノミック・シーティング・シミュレータ」を試せる。ちなみに筆者の場合、背もたれ角度は104度(垂直から+14度)、座面角度は3度、座面の奥行きは459ミリ、座面高は461ミリ――が最適という結果に。圧力範囲を見ると、座骨を中心に均等に行き渡っている状況である。

エルゴノミック・シーティング・シミュレータ。圧力範囲を見ると、座骨を中心に均等に行き渡っている。筆者の場合、背もたれ角度は104度、座面角度は3度、座面の奥行きは459ミリ、座面高は461ミリ――が最適という結果に

 もちろん、この数値を家具屋さんに持って行って、自分だけのオリジナルなワーキングチェアを作るのもありだが、さすがにオーダーメイドのイスは価格の面で不安がある。この100年に一度の大不況の折、もっと簡単に自分なりのイスを発見できないものか。

 ポイントは調整だ。最近では結構手軽に座面高やひじ置きの高さなどを調整できる高機能なワーキングチェアが購入できるようになっている。ただ購入するだけでなく、自分なりに調整しよう。浅田さんによると、以下の順番で調整するといい。

順番 調整個所 備考
1 しっかり深く座る 背もたれの下部に腰がつくぐらい
2 座面高を調整 高すぎると太ももの裏を圧迫するので注意
3 座面の前後を調整 できないイスもある。できれば深く座っても足が地面に付くように調整
4 ランバーサポートを調整 腰を支える位置に
5 リクライニングの角度を調整 視線の方向に気をつけて
6 机の高さを調整 こちらもできれば

 若干繰り返すが、理想の状況はこうだ。

  1. ひざ裏部分に圧迫がない
  2. 足を多少前後に動かしても、足裏全体が床から離れない
  3. 座面の奥まで深く腰掛けて、背もたれに十分当てる
  4. 腰の部分がしっかり支持されている
  5. 自然な呼吸が保て、背骨が立ったときに自然なS字形を描く
  6. 首や腹筋など、身体に余計な力が入らない
  7. 前腕やひじが支持されており、自然な状態になっている

 「太ももの裏に圧迫を感じる」「おしりの位置が落ち着かない」というような不快感を取り除くように調整する。自分自身の感覚に合わせることが重要だ。6の机の高さまでを調整できる環境にある人はまれかもしれないが、「机の高さにイスを合わせるのではなく、人が座るイスに机も合わせたい」(浅田さん)。また、PC作業をするのであれば、ひじ置きの高さも調整したいところ。こちらは机の高さに合わせるのが基本で、ひじ置きが高すぎると肩がこってしまうという。

 「姿勢は使うツールによる」というのは浅田さん。いすの博物館で、あなたの作業にあったワーキングチェアが見つかるかもしれない。

低座・後傾スタイルで有名な岡村製作所の「クルーズ&アトラス」。あのサイボウズ・ラボでも導入している

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ