「ひじ置きはステータスだった」「リクライニングが作業姿勢に」――。岡村製作所の「いすの博物館」でワーキングチェアの変遷を見てきた。
現代ビジネスパーソンから切っても切れないデスクワーク。デスクワークというぐらいだから、ワーキングチェアは欠かせない。机があれば当然イスも必要だ。戦後日本のワーキングチェアをリードしてきた岡村製作所が2月12日、同社のワーキングチェアの歴史をまとめた「いすの博物館」をオープンした。Biz.IDではさっそく各種チェアに座りに行ってきたのでご紹介しよう。
まず最初は、1950年、日本に駐留していた米軍の注文で作ったというスチール製の「2201型」。当時、国内ではスチール製の家具がほとんど普及しておらず、スチール家具といえば米国からの輸入ばかりだったが、1950年の朝鮮戦争をきっかけに米軍による特需で国内調達となったという。岡村製作所では米軍の仕様書に合わせ2201型を製作したのである。
回転機構、座面の高さ調整、背もたれのロッキング機能、固定式のひじ置きなど、現在のワーキングチェアに見られるような機能をすでに備えていた。2201型はその後、米軍だけでなく国内企業にも納入することになったが、「米軍では現場の事務員が利用していたようだが、座面が大きかったり、ひじ置きがあったりしたせいか、国内では幹部用のいすとして使われていたようだ」(いすの博物館の星野朝治館長)という。
1953年、事務作業の標準的なタイプのチェアとして、2201型をより安価にしたのが「2213-B型」。ひじ置きがなくなり、背もたれのロッキング機能も鉄の板がたわむだけのものになった。脚も金属板を成形して作るのではなく、パイプを曲げて作っている。同じくひじ置きなし、パイプ脚のタイプでは、タイピスト用の「2204型」も登場した。当時は技能職だったタイピストの生産性を向上させるため、背もたれの上下機能などを標準搭載しているという。
1958年になると、「現在でも販売している」という超ロングセラー「2218型」が登場した。人間工学を取り入れ、日本人の体格に合わせて設計したという。「今でも自治体の役所や警察署などで広く利用されています」(星野館長)。もしかしたら座ったことのある人もいるかもしれない。
2218型にひじ置きを付けて座面を広げたのが「2220型」である。島型対向レイアウトのエンドに座る係長や課長クラスのイスになる。この2220型をひと回り大きくしたのが「2226型」。部長クラス以上の幹部向けのイスとして販売した。ひじ置きのパイプに2220型で使用した丸パイプではなく角パイプを採用。より重厚な印象を与えるようになった。
「このころのひじ置きはどちらかというとステータスでした」(岡村製作所シーティング研究室の浅田晴之主任研究員)。タイピスト用の2204型はおろか、現場の作業机のほとんどにひじ置きは付いておらず、上司が机で考えごとをするぐらいにしか使われていなかったのかもしれない。
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