「どうしたらできる?」の前に「本当はどうなればいい?」を問いかけてみる「心のスイッチ」で心の状態を変える(1/2 ページ)

「どうしたら楽しくできる?」「不景気だからこそ何ができる?」と問うことは大事ですが、答えが出るとはかぎりません。でも先に「本当はどうなればいい?」から始めると、答えが出やすくなって行動まで変えることができます。

» 2009年02月02日 13時00分 公開
[平本あきお(構成:房野麻子),ITmedia]

 心の状態は体、言葉、意識の3つを使えば変えられます。

 体では「掛け声を出す」「笑ってみる」方法を、言葉では「問いかけを変える」方法を見てきました。今回は、どう問いかけを変えていくかを実践していきます。


 問いかけでは、たとえ答えは出なくても、問いかけを変えること自体が大事だとお話ししました。問いかけを変えると、思い込みだけでなく心の状態が変わり、時には答えまで変わるからです。

 実践に移る前に、答えが変わった具体例を紹介しましょう。

「どうしたらここを抜け出せるか」――ひどい事実を嘆くより生かす

 アウシュビッツに収容されていた、あるポーランド人ジャーナリストの話です。子供も妻も殺されて、失意に沈んで収容所の中を歩いていると、死体が山積みされているのが見えます。貴金属など取れるものは全部取り除かれて、あとは死体の山だけです。

 その時に問いかけが流れてきます。「なんてひどいことをするんだろう」「どうしてこんな目に合わされるんだ」「なんで神は我々を見捨てたんだ」「人間はなんであんなひどいことをできるんだ」と。こんな問いかけをしていたら、どんな心の状態になるでしょうか。怒りに燃えたぎる、悲しみに打ちひしがれる、無力感で何もできなくなる……そうなるしかありません。

 しかし、このポーランド人ジャーナリストは、違う問いかけをしました。

 「どうしたら、今日中にここを抜け出せるだろうか」。そう問いかけたのです。彼に明日はなかった。妻も子供も殺された。何カ月もトンネルを掘って待っていられない。今日抜け出せなければ、明日、自分は生きていないと思ったのですね。

 「そんなことを言っても、できないに決まっているじゃないか。あんなに看守が立っていて、どう考えても今日中なんて無理だ」と全否定されても、「どうしたら今日、抜け出せるだろうか」と問い続けました。

 目の前に死体の山があります。あまりにも死体が多いので、ショベルでトラックに積んで、外の死体置場に捨てています。ほとんどの人はそれを見て、「なんてひどいことをするんだろう」と問いかけます。ところが彼は「どうしたら、この事実を生かして、ここから抜けだせるだろう」と問いかけた。そしてひらめきました。

 誰もいないのを見計らい、裸になってその死体の山に忍び込みました。ウジがわいたり白骨化したりしている死体の山の中にです。数時間後、ショベルで死体ごとトラックに乗せられて、収容所から出て何キロか離れた場所に捨てられました。再び誰もいないのを見計らって、そこから這い出てきて、約60キロ走って最寄の村に生きてたどり着きました。こうして問いかけの答えが出ました。

「おかんやったら何て言う?」――他人の立場から問いかける

 もう1つ、私自身の話です。

 1995年1月17日、阪神淡路大震災で実家が全壊しました。4日後にやっと大阪に着いて、そこから瓦礫の中、なんとか神戸にたどり着きましたが、着いたちょうどその時に、母親の遺体が見つかりました。叔父が「お母さんが上がったから会ってみなさい」というので、見たら、拾ってきた襖(ふすま)の上に、拾ってきた毛布を被された母親の遺体がありました。

 私はそこにひれ伏して、天と地がひっくり返るくらい泣いて、泣いて、わけが分からなくなるほど泣いて、その挙句に、ちょっと待てよと思いました。「私は心のことを勉強してきたのに、結局、自分の親が死んだら逃げる気か。この今起こっていることに、絶対、正面から向き合ってやる」と決意して、しっかりと目を見開いて母を見ました。

 2階の床に押しつぶされて、血管が浮き出て黒くなっている母の顔、天然パーマの髪、正月に着ていたのと同じチョッキ、スカート、タイツ、触ったら冷たいけれど母の感触があって、耳を澄ますと周りには野次馬の声、パトカーや救急車のサイレンの音が聞こえました。埃の臭いや鉄をかんだような味……今日、自分がここで体験した。そう心を決めた瞬間、ある問いかけが流れてきました。「もし、おかんがここにおったら、なんて言うやろ」

 すると、たぶん、こんなことを言っただろうという母の声が聞こえてきたんです。「お前、何メソメソ泣いとんじゃ。さっさと立ち上がって後片付けせんかいや!」と怒鳴っている。(せやけど、おかんが死んだから)「おかんが死んだから、お前がやらにゃ誰がやるんじゃ! 泣いてもうれしないで。さっさと泣きやんで、後片付けせい!」と。泣けば泣くほど母が怒るから、泣いていられない。そうして、私は後片付けをしました。

 その問いかけがなかったら、「自分はなんてかわいそうなみなしごちゃんやろ」という言葉がぐるぐる回っていました。でも「おかんが何て言うやろ」という問いかけが出てきた瞬間、母からの視点が見えた。母は絶対、泣いてメソメソしている自分を喜ばないだろうなと。その瞬間、心の状態が変わりました。

 目の前で、全くの不慮の災害で、予期せず母が死んだ。その30分後ですら、実は自分の心のスイッチを入れられるのです。自分に意識を向けるのではなくて、「自分が大事に思う母親の目から見たら、自分はどう見えるだろう」「母は自分に何を求めるだろう」と、問いかけが変わるだけで心の状態は変わります。そして行動まで変えたのです。

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