パーソナルな海外進出 会社を活用して海外で仕事する編樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」

個人で海外進出するには経済的なハードルも高い。そこで今回は会社の力を活用する方法を考えてみよう。ポイントはアピール力と語学力と行動力だ。

» 2009年01月15日 14時30分 公開
[樋口健夫,ITmedia]

 ここ数回、個人で行なう海外進出を考えてきた。ところが実際、個人で海外進出するには経済的なハードルも高い。そこで今回は会社の力を活用する方法を考えてみよう。そもそも筆者が三井物産に入社したのは、海外に行きたいからだった――。

「会社としては、そんな簡単に海外に送り出せない。しかし……」

 入社後、すぐに営業部に配属された。1971年、団塊世代で物産全体で460人前後が入社している。配属先には筆者を含めて10名の新人がいた。配属直後に、部長と新人たちの初めての話し合いの場で筆者は、「早く海外に出たいです。場所は選びません。どこでもいいのです」と希望を述べた。部長は困ったように「君なあ、海外に出るためには、何年も実務の経験を積まないとだめだぞ」と答えた。しかしこうも続けた。「会社としてそんな簡単に海外に送り出すことはできないんだ。だけど私も入社した時には、そう思ったよ。その志はいいことだ」。入社2年目に結婚したが、相手には「いずれ海外勤務になるが、どこに決まっても一緒に行くこと」を約束させた。

 それから2年後、筆者は夢にまで見ていた初の海外勤務に就くことになる。場所はアフリカ、ナイジェリアの大都市ラゴスに駐在することになった。実はこの駐在、場所がアフリカということもあり、ラゴスの所長から駐在員の募集はすでにあったのだが、本社では筆者の前に4人ほどがなんとかかんとか理由を付けて断っていた。そして、とうとう筆者のところにお鉢が回って来た――というわけだ。もちろん即決。世界中どこに行っても、東京本社ほどストレスが高いところはあるまいと思っていたし、行ってみたらその通りだった。

 ラゴスの事務所には所長、所長代理、そして下っ端の筆者が仕事していた。赴任の後、しばらくしてヨメサンと生まれたばかりの長男がやって来てからは、3家族が和気藹々(わきあいあい)と生活していたのである。どこの会社でも同じだろうと思うが、一番大切なことは人間関係なのだ。海外の事務所や事業所のような狭いところでも人間関係が素晴らしかったら、生活は充実する。どんなに熱くても、マラリアがまん延していても、毎日停電していても、仕事が難しいところでも、だ。結局ラゴスでは3年半生活した。その後、日本に帰るのが嫌で、筆者はサウジアラビアのリヤドに転勤した。

海外ビジネスを自ら創り出すのもあり

 ここで言いたいのは、会社として海外に送り出したいのは、自分から行きたいと希望する社員であることだ。自ら希望して海外に出ていく社員と、嫌々海外に赴任させられる社員では、数年滞在していると明らかに違いが出てくる。サンフランシスコ、シドニー、シンガポールなど3Sと言われるようなところなら、駐在を希望する社員も多いが、アフリカ、中近東、南西アジアなどの国での勤務を希望する者は少ない。嫌々赴任させられた者は、帰国までの日数を数え、カレンダーに×を付けて涙に明け暮れる毎日となるが、筆者のように希望して着任したものは、今日はどこに行こうか、何をしようかと仕事を楽しむことになる。駐在している間の結果では大きな差になる。

 もしあなたが海外の事業を持っている会社に勤めていて、海外勤務を希望するのなら、その希望を機会のあるごとに明確にすることはもちろん、その国の言葉を自分で懸命に勉強することが大事だ。特に英語以外の言語で、実用的なレベルまで言葉を使えれば、その国に赴任する可能性は非常に高くなる。中国語などの場合は現地で語学研修を受けることを会社が認めてくれる可能性がある。語学修業生制度だ。制度がなければ、制度を作ることの企画も自ら出してみてはどうだろうか。一般的に、欧米の言語を学ぶ駐在員は多いのだが、それ以外の言語の場合、学ばないで英語で通してしまうケースが多い。従って、その国の言語を使える社員というのは、非常に貴重になる。また、すぐに行けるような近場であれば、観光として事前に現地に行ってみるのもいいだろう。

 仮に海外事業を行っていない会社で働いている場合、高等戦術としては、海外ビジネスを自ら創り出すこともある。商社と相談することも考えられる。そのためにも、少なくとも英語の能力は確立しなければならない。

 というわけで、今回のポイントは以下の通りである。

  1. 現在の会社の海外事業で仕事ができないかを考える。
  2. 会社の中で、海外での仕事の機会があるなら、できる限り主張すること。海外出張も実績になる。
  3. 世界中どこの国に赴任するにも英語は基本。英語の能力検定は自ら励むこと。
  4. 英語以外の言葉を現地で使う必要があるなら積極的に学ぶこと。
  5. 語学は学んだら、とにかく使ってみることが大切。
  6. 自ら海外事業を担当することも海外に赴任する要因となる。

今回の教訓

海外勤務以外にも使える>希望を機会のあるごとに明確に――。


著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

 1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「できる人のノート術」(PHP文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう〜」(技術評論社)も監修した。「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちらアイデアマラソン研究所はこちら


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