脳波で念力ゲーム――シリコンバレーの起業アイデア創造する人々(1/2 ページ)

創造する人々の製品やビジネス。そうしたアイデアパーソンの実際に学びたい――。「アイデアの起源」「アイデア具現化の壁」についてフォーカスする新連載「創造する人々」。第1回目は、最先端技術が商業化していく土地、シリコンバレーのベンチャーを取材した。

» 2009年01月09日 21時50分 公開
[石井力重,ITmedia]
NeuroSkyのヘッドセット

 アイデアだけでもダメ、作るだけでもダメ――。ハッとするような製品を作ったり、ビジネスを成功させて入る人たちは、「優れた発想力」と「具現化への努力」をセットで持っていることが多い。そこで今回の連載では、こうした創造のプロセスをグングン駆け上っていく人々――創造する人々の実態に迫る。「アイデアの起源」と「具現化の過程における努力や能力」にフォーカスを当てて行きたい。

 米国カルフォルニア、シリコンバレーベンチャー企業NeuroSkyをご存知だろうか。

 彼らが作ったのは波を読みとるヘッドセット。見た目はほとんどヘッドフォンと変わらない。しかしこのヘッドセットには普通のヘッドフォンにはない端子が1つ付いていた。この端子をおでこに接触させるわけだ。これで、準備はOK。なんの準備かって? これは脳波で動く“念力ゲーム”なのだ――。

念力ゲームがなぜ生まれたのか

 もともと3人の学者がいた。米国、ロシア韓国。「脳波を可視化して、心をコントロールする訓練ができるようになると、子供の成長によいものができるのではないか」という彼らのアイデアが起源。

 そこで、脳波を活用したおもちゃを作ろう、ということになった。当初会社は韓国にあったが、シリコンバレーのベンチャーとして立ち上げようと言うことで、米国へ。ハイテクベンチャーを起業、成功経験のあるCEO最高経営責任者)を迎え、会社として事業を開始。当初は、脳波を使ったラジコンであった。現在の製品「MindSet(マインドセット)」(TVゲームとヘッドセットの組み合わせ)になったのは、2年前から。

 脳波の測定自体は、100年前からも存在する。それを、どこでも、誰でも使えるように、シンプルで使いやすいものにして、チップに搭載した、ということがこうした製品のコアになっている。当初はチップのみの販売を考えていたが、顧客からヘッドセットを、との要望があり、ヘッドセットを作り、冒頭のゲームも作った。なんとゲーム自体は、ゲーム好きな社内の人間が作ったのだという。

 ここからは筆者の私見だが、脳波の可視化を商品化するに当たり、おもちゃじゃなくてもよかったかもしれない。実際、脳波を見るだけなら、可視化するだけなら、医療の世界などではずいぶん前から実用化されている。ベンチャー企業がアイデア勝負しようと、立ち位置を探ったら、おもちゃになったということだろう。

 結果から考えてみると、おもちゃという選択肢はそれほど悪くなさそうだ。そもそも通常見えないものの可視化ができるようになると、人間はいろいろ自由に試したくなるもの。こうしたら、こうなる、というトライ&エラーをしていくわけだ。そういう意味では、子供達が自由に遊べるおもちゃ、というのが意外と適しているのかもしれない。

脳波おもちゃ、具現化の壁は――

 おもちゃにするための技術的課題はいくつかあった。当初筆者はこのように考えていた。例えば、センサーの安定的な接触とシグナルの品質を確保することだったり、集中状態やリラックス状態への変化を即時に演算し続けるための小型チップや高度なアルゴリズムを開発することだったり。

 もちろん彼らも具体的な技術開発には苦労したはず。だが彼らが課題と考えていたことは意外と単純だった。まず、シンプルでなければならないこと。それに、安価でなくてはならないことだ。この「おもちゃにする技術」に最も苦労したという。

 「おもちゃにする技術」は、実はすごく重要な概念を含んでいる。最大の難関は、脳波のノイズをどう処理するかである。脳波は非常に微弱な電気信号で、様々なものがノイズになる。このノイズ処理技術は、NeuroSkyが最も強みとするところだという。

 一方、ユーザーがシンプルに使えるようにするためのテクノロジーは、非常に複雑だ。ユーザーインタフェースは、子供向けなので、特に子供の生活環境を考慮し、安全な形状、予期せぬ使い方への配慮などを含まないといけない。ラボベースあるいは医療機関で専門家が使う使い方はメーカーサイドのコントロールがきくが、子供のおもちゃにするならそうはいかない。無茶な使い方もするし、センサーには付きものの正しく計測するための調整、いわゆるキャリブレーションだって子供はしてくれない。

 それから、価格。専門器具は市場が狭く価格は高い。子供向けおもちゃは、その逆である。それは単純な設計の見直しだけを意味するのではない。大幅な価格低減には「あれもこれもできる装置」から、「機能をそぎ落として、これだけができる」ということが必要になる。

 ものづくりをする人にとって、機能そぎ落としは、かなり苦しい行為である。特に技術が好きな人であればあるほど。そういう「おもちゃにする技術」という課題や、さまざまな課題をクリアして、彼らの製品の今がある。

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