これがもし順番を変えて「設問の後に状況文を読み上げる」という順序だったらどうでしょう? その場合は最初から「何件目」を意識して話を聞くことになるので、誰でも簡単にわかりますね。ところが、「設問」を後ろにするだけでとたんに難しくなるのがこの種の問題です。
結局、この事例で大事なのは、
ということです。人間は、一点に意識を集中すると、その情報をよく理解し記憶することができるものです。その「意識の集中」をコントロールする手段として最も有効なのが「設問」なわけです。したがって、教えたいテーマに応じて、どのタイミングでどんな設問を出すかは注意深く設計しなければなりません。
もうひとつ注意したいのは、
ということです。「前提知識」は「説明」するものですが、「設問」は「問いかける」ものであって「説明」するものではありません。そのため、「説明」に熱中すると「設問」不足、問いかけ不足になりやすいので注意しておきましょう。
次に、「問いかけ」られたら人は「考える時間」が欲しくなります。それが「考慮時間」です。
この「考慮時間」にもいろいろなバリエーションがあり、短いほうでは1〜5秒程度の短時間から、長いほうでは20分以上まで、何段階かの長さがあってそれぞれ効果が違います。私は大まかに4種類を使い分けていますが、今回その詳細は省略します。ただ、先月のセミナー参加者からは、「考慮時間がこんなに重要なものとは思わなかった。驚きました」という声が複数上がっていたことはご紹介しておきましょう。それぐらい、単純ですが意外に知られていないのが「考慮時間」の使い方です。
そして考慮時間が終わると次は「アウトプット」の時間になります。要するに「考慮時間で考えたことを自分の言葉で発表する」のがアウトプットです。これがどうしても必要で非常に大事な活動であり、言ってしまえば「設問を入れるのも要するにアウトプットが欲しいから」なのです。必ずしも他の受講生の前で発表するという形態に限らず、何らかの形でアウトプットのワークを行う必要があります。「設問」も「考慮時間」もこのためにあるのです。
受講生の立場としては、そうして一生懸命考えて「アウトプット」をしたら、いいとか悪いとか言ってほしいですよね。それが「フィードバック」です。
「フィードバック」は、内容的に的確で鋭い視点が入っていればもちろんそれに越したことはないですが、それほどこだわる必要はなく、大事なのは、「返信を与えること」それ自体です。
以上、もう一度振り返りますと、前提知識→設問→考慮時間→アウトプット→フィードバック の5項目が基本的な学習モデルです。人に何かを教えるときにはこの5項目をきっちりと組み立てておかなければなりません。そのことを、意識しておいてください。
次回は「前提知識」について詳しく考える予定です。これも実際セミナーをやってみて分かったことで、「トーク術」というとどうしても「しゃべりの技術」という印象を与えてしまいますが、実際にはそれ以前に「トーク」を組み立てるための非常に大事な準備作業があります。それを私は「概念分析」と呼んでいますが、その作業が「前提知識」の中に含まれます。そこで次回は「概念分析」を中心に「前提知識」の部分について詳しく書きますので、ご期待ください。
IT技術者の業務経験を通して「読解力・図解力」スキルの再教育の必要性を認識し、2003年からその著述・教育業務を開始。2008年は、「専門知識を教える技術」をメインテーマにして研修・コンサルティングを実施中。近著に『ITの専門知識を素人に教える技』、
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