書いて書いて、また書いて――矛盾する自分を出し切る【中編】「気弱な自分」をプラスに変える(1/3 ページ)

がんばりたいのに、がんばれない。うまくいかない――。そんな気弱な時でもプラス変換はできます。柔道の石井選手はこの方法を実践し、「女々しい自分」を克服しました。克服過程の続きと一緒に、ビジネスパーソンの場合どうしたらいいかを解説していきます。

» 2008年10月29日 14時40分 公開
[平本あきお(構成:房野麻子),ITmedia]

 北京オリンピックの柔道100キロ超級で優勝した石井慧(いしい・さとし)選手のメンタルコーチングを2年半、続けてきました。【前編】で見てきた、北京オリンピック開催中に行った1セッションの続きと、ビジネスパーソンの場合の具体的実践法を解説していきます。

 【前編】では次のステップ4まで進んできました。

石井選手が行った4つのステップ

ステップ1 「伸び伸びやろう」「筋トレしなきゃ」――対立する自分に気づく

ステップ2 気持ちを完全に出し切る

ステップ3 「結構笑えますね」――滑稽さに気づく

ステップ4 「女々しい自分」は「したたかな自分」――対立する自分も味方にする


 今回はステップ4の続きから見ていきます。

「けれど」ではなく「そして」

 最初にやったのと同じように、3枚の紙を三角形に置き、それぞれの立場から、真ん中にいると想定した自分に声をかけます。まず「したたかな自分」のところに立って、目の前にいる自分に向って、「とにかく勝ちにこだわれ」「相手のよさを出させないようにして、どんなことがあっても必ず勝て」と声をかけます。

 次に「辛抱強い自分」に立って、「どんなことがあっても辛抱強く、どんなことがあっても耐え抜いて、最後まで貫き通せ」と。そして「なりふり構わない自分」に立って、「自分の柔道をしろ」「他のことは気にしなくていい」。再び「したたかな自分」に行って、「勝つためだったらどんなことでもやれ」。「辛抱強い自分」に行って、「どんなことでも耐え抜いて、最後まで貫き通せ」。

 また「なりふり構わない自分」に立って……というように進めます。この時のポイントは、発言を「そして」でつないでいくことです。最初の声かけでは「でも」や「そうはいっても」という言葉でつないでいました。Yes butで今まではつないでいましが、今度はYes andでつなぎます。

 「アドラー心理学」的処世術でもお話しましたが、自分の中に矛盾があって、その片方をやっつけるとか、切り捨てるという発想は、基本的に私はしません。

 そうではなくて、一度、矛盾する自分をはっきり分けて、気持ちを出し切って、吟味し切った後に、「これらが味方だとしたら、どんな風に統合できるか」という方向でメンタルコーチングしていきます。石井選手の場合も、今までは彼の中で足を引っ張っていたと思える自分が、むしろ本当は支えてくれていたんだ、というように、見方が変わってきました。

「自由にやれ」「勝ちにこだわれ」「辛抱強く」――言葉のシャワーを浴びせる

 セッションでは、最後に石井選手に三角形の真ん中に立ってもらって、なりふり構わない自分、したたかな自分、辛抱強い自分が、自分に向って言葉をかけてくるのを聞いてもらうようにしました。

 実際には、私とアシスタントがそれぞれの場所に立って、したたかな自分の場合は「勝ちにこだわれ!」、辛抱強い自分の場所に立った時は「辛抱強くがんばれ!」、なりふり構わない自分の場所では「自由にやれ!」と、3点を移動しながら石井選手に向かって言い、最終的には3方向から言葉のシャワーを浴びせかけるようにしました。その時は私とアシスタントの2人でやりましたが、3人で3方向から声をかけるのが理想です。大きな声で同時に声をかけると、かなり迫力のある言葉のシャワーになります。

 これまでは、「自分らしい自分」の言うことを聞いている時はよかったけれど、残りの「女々しい自分」と「飼い犬みたいな自分」は足を引っ張っていました。2者は邪魔者で、「自分らしい自分」だけがいい自分だったのです。

 でもこのセッションを経ると、「なりふり構わない自分」の言うことを聞くと、ガーッと前に進めるし、「したたかな自分」の言うことを聞くと戦略を練って勝ちにこだわるし、「辛抱強い自分」の言うことを聞くと我慢強く練習できる。どこに転んでもいいということになったのです。

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