柔道金メダルの石井慧選手が実践――「女々しい自分」を克服した4つの技【前編】「気弱な自分」をプラスに変える(1/2 ページ)

「女々しい自分」「飼い犬みたいな自分」をなくしたい――北京オリンピックの約7カ月前、柔道の石井慧選手がそう相談してきました。今回は彼とのセッションを3回にわたりお話ししましょう。がんばりたいのに、うまくいかない――そんな時は試してみてください。

» 2008年10月28日 08時00分 公開
[平本あきお(構成:房野麻子),ITmedia]

 2006年の5月くらいから2年半にわたって、私は北京オリンピックの柔道100キロ超級で優勝した石井慧(いしい・さとし)選手のメンタルコーチングを続け、対面および電話でのセッションを行ってきました。

 特に北京オリンピック開催中は、私も現地に10日ほど滞在し、ほぼ毎日のように対面セッションを行いました。今回は、その約30セッションの中の1セッションを誌上で再現します。どんなケースにも使えるので、ぜひ試してみてください。

「女々しく、飼い犬みたいな自分」をなくしたい――石井選手の切望

 2008年1月のことです。石井選手から「自分らしい柔道ができる時はいいのだが、たまに自分らしくなくなってしまって、練習がうまくいかない」という相談を受けました。詳しく聞いていくと、「女々しい自分」や「飼い犬みたいな自分」が出てくると、うまくいかないということが分かりました。

 石井選手の言う「女々しい自分」とは、相手を研究しすぎたり、「あのトレーニングをしなくちゃ、この練習をしなくちゃ」と考えすぎたりして、がんじがらめになってしまう状態ことです。「飼い犬みたいな自分」とは人間関係や人の目を気にしすぎて、伸び伸びできない状態のこと。柔道は個人競技とはいえ、集団で動いているので、周囲に自分を合わせなくちゃと考えると伸び伸びできない。

 そういう女々しい自分や飼い犬みたいな自分が出てくるとうまくいかないので、これらをなくしてほしいと依頼されました。

ステップ1:「伸び伸びやろう」「筋トレしなきゃ」――対立する自分に気づく

 セッションでは次のようなことをしました。まず、紙に1枚ずつ「自分らしい自分」「女々しい自分」「飼い犬みたいな自分」と書き、その紙を道場に三角形に置きます。そして、真ん中に自分がいると想定して、その自分に向かって、それぞれの紙の方向から声をかけてもらいます。

 自分らしい自分は、「もっと自由に伸び伸びやろうよ」「ほかのことは気にせず、お前がやりたいようにやればいい」というような内容の発言をしました。

 次に、女々しい自分のところに場所を変えて、同じように声をかけてもらうと、「そうはいっても、相手は強いんだから、しっかり研究して負けないようにしないと」「だけど、あの筋トレをやらなきゃ」「これもやらなきゃ、あれもやらなきゃ」というように、やらなくてはいけないなことが、どんどん出されました。

 そして今度は飼い犬みたいな自分のところに行って、同様にします。「だけど、そもそも自分がオリンピックの代表に選ばれなかったら、世界一になれないし」「そうはいっても、集団で動いているんだから、周りの人に合わせなくてはいけないし」「でも、やっぱり、どんな練習でも言われた通りやらないと」というような発言が出ました。

 さらにもう一度、自分らしい自分に行き、「だけど、そんなの気にせず伸び伸びやろうよ」。そしてまた女々しい自分のところに行って……というように、本人が納得するまで、それぞれの立場に入って、それぞれの言い分を主張し合いました

 この状態は3者が分裂し、対立している状態です。

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