疑問8 カーボンオフセット付き商品を買って“貢献”してみたカーボンオフセットのカラクリ

カーボンオフセット付き商品を買うと、寄付したおカネのいくら分が、どこのCO2削減にどれだけ役立てられるのか? 実際にコンビニ商品を購入し、行方を追ってみたが――。

» 2008年07月18日 16時38分 公開
[豊島美幸,ITmedia]

カーボンオフセットとは?

先進国の企業や国が、途上国などで削減したCO2量を権利として買い取り、買い取っただけCO2を減らせたとみなすことで、地球規模でCO2をオフセット(相殺)する国際ルール。疑問1参照。


 身近なカーボンオフセット付き商品を買い、間接的に国に寄付すると、実際にどこにどれだけCO2を削減したことになるのか?

 カーボンオフセット付きキャンペーン商品がコンビニに置いてあるという情報を聞きつけ、職場に最寄のローソンで、「ジョージア グリーンプラネットカフェオレ」というカーボンオフセット付きキャンペーン商品を早速購入してみた。

 ペットボトルの側面には「本製品の売り上げ(収益)の一部を日本のCO2削減に役立てます。1本で1キロ相当分のCO2の排出権を取得し貢献します」という旨が書いてある。どうやら1キロ分、CO2を削減したことになるらしい。

 この飲料商品は500ミリリットル入りで価格は158円。この中のいくら分が、どこのCO2削減プロジェクトに役立てられるのか。商品側面に記載されている、キャンペーンの専用Webサイト「飲んでエコ.jp」を見てみると、2005年からアルゼンチンの風力発電で取り掛かっているCO2削減プロジェクトであることが分かった。だが役立てられた金額がいくらかは載っていない。

「飲んでエコ.jp」の画面

「飲んでエコ.jp」の画面。クリックした拡大画面内で「アルゼンチンの風力発電」に使われた旨の記述が読める

 1本購入したら何円分をCO2削減に役立てたのか。発売元の日本コカ・コーラに問い合わせると、「キャンペーンの目的は、カーボンオフセットという仕組みを知ってもらい、エコ意識を喚起することなので非公表です」という回答が返ってきた。さらに「あくまで利益の一部を役立てる」ものであり、「お客様の負担分はない」という。

 いくらメーカーサイドがそう主張しても、やはり“一部”をあらかじめめ見込んで価格設定をしてキャンペーンを展開した場合、事実上、購入者が負担していることに変わりはない。そもそもキャンペーンの専用サイトを見返してみても、カーボンオフセットの証明書も開示されていないし、アルゼンチンの風力発電でどのように削減されたのか、その経緯も書いていない。

 誰にいつ、どのくらい、どう貢献したのか――。消費者からは“見えない”。筆者にとってほろ苦い「カーボンオフセット付き商品」デビューであった。

仕事中の“わが心のオアシス”、弊社地下のローソンで買ったカーボンオフセット付きカフェオレ。甘く、ほろ苦い味わいだ……

「小さなことからコツコツと」「ITは最大の省エネ」――それぞれのエコ

 最後に、「カーボンオフセットのカラクリ」で8つの疑問にお付き合いいただいた8人に、各々のエコアクションや心構えを聞いてみると――。

所属と名前(五十音順) アクションや心構え
凸版印刷 秋山大氏 「車の運転が好きなので前はよく車を利用していましたが、今は自転車移動を心がけています。また自転車のライトには充電池を使っています」
東北大学 明日香壽川教授 「なるべくエネルギー使用量の少ない生活をするよう心がける」
近畿日本ツーリスト 岡田俊二氏 「もちろん経済的な理由もありますが、電力や食材の無駄を省くようにしています。小さいことからコツコツと、が基本」
リサイクルワン 興津世禄氏 「正しい情報をもとに、常に環境にベターな選択をする」
エコテスト 児玉千洋氏 「個人や企業が環境問題を頑張ればなんとかなる、というのは幻想。どうにもならない。未来のため政治をおろそかに考えないと決めた。個人的には今妊婦なので、赤ちゃんは布おむつで育てます」
中部大学 武田邦彦教授 「大きな固定電話が手のひらサイズの携帯電話になったり、携帯電話の出現で固定電話の配線用の銅資源も使わずに済んだりと、ITは最大の省エネ。私も紙は持たず全部USBメモリに収めてITを活用しています。あとは物を買わず大事に使っています」
カーボンニュートラル ビル・スネイド氏 「公共の交通機関を利用する。リサイクルをする」
環境省 安田將人氏 「電気をマメに消すなど、個人でできる基本的なエコは大概はしていますね」

 6月上旬に開催されたリサイクルワンの「カーボンオフセットセミナー」という勉強会から、カーボンオフセットの“謎解きの旅”はせわしなく始まった。その足跡は全8回に及ぶ記事の通りである。だが1カ月以上経た現在も、モヤモヤが消えることはない。

 それでも「低炭素化技術は日本企業の得意技。これまで通りの探究心で開発していってほしい」(児玉氏)。「将来が暗い暗いと言っていたら、本当に暗くなってしまう。明るいからこそ未来に向かって頑張れる」(武田教授)――などの言葉が胸に残った。

 あなたの会社は、そしてあなた自身はどんなアクションを起こすだろうか。筆者の旅もこれからが本番だ。

疑問を解く8人の回答者(五十音順)
名前(敬称略) 所属等 カーボンオフセットとのかかわり等 関連Webサイト
秋山大(あきやま・だい) 凸版印刷
パッケージ事業本部
ITソリューション部
Web懸賞キャンペーンを展開 カーボンオフセット・Web懸賞キャンペーンサービスのリリース
明日香壽川(あすか・じゅせん) 東北大学
環境科学研究所教授
環境問題等の研究ほか 地球温暖化問題懐疑論へのコメント
岡田俊二(おかだ・しゅんじ) 近畿日本ツーリスト
団体旅行事業本部カンパニー
教育旅行課長
カーボンオフセット教育旅行の提案ほか カーボンオフセット旅行のリリース
興津世禄(おきつ・せいろく) リサイクルワン
環境コンサルティング事業部
マネージャー
カーボンオフセット事業のプロバイダー リサイクルワン
児玉千洋(こだま・ちひろ) エコテスト
代表取締役
環境分析ほか エコテスト
武田邦彦(たけだ・くにひこ) 中部大学
総合工学研究所副所長
工学博士
環境問題等の研究ほか 武田邦彦(公式サイト)
ビル・スネイド カーボンニュートラル
(イギリスの企業)
取締役
世界初のカーボンオフセット事業のプロバイダー カーボンニュートラル
安田將人(やすだ・まさと) 環境省地球環境局
地球温暖化対策課
市場メカニズム室
排出量取引係長
CO2排出の整備ほか 2006年度の温室効果ガス排出量について

豆知識 「CO2排出権取引」と「カーボンオフセット」、どう違う?

 CO2排出権を買い取るところまでは、カーボンオフセットもCO2排出権取引もまったく同じ。その後たどる道が違う。

  • 排出権取引……一般的に、CO2排出権を資産として、金融商品と同じように扱う。そのため転売して儲けたり損したりすることがある。
  • カーボンオフセット……まだ売買できるCO2排出権を、自国のCO2削減分としてカウントするなどし、転売できないようにする。

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