第9回 胃痛の原因はそう単純じゃありません──内臓は複雑に絡まっているのだ!ドクトル・ピノコのプチ元気の薬

仕事で追い込まれて、胃が痛くなるのはビジネスマンによくあること。でも、胃痛とひと口に言っても、それが引き起こされる理由はいろいろとあります。今回は胃の痛みから見えてくる人体についてお話します。

» 2008年07月02日 16時22分 公開
[ドクトル・ピノコ(企画:ソフトバンク クリエイティブ),ITmedia]
イラスト:本橋ゆうこ

 人それぞれ持病のようなものはあると思いますが、私の場合小さいころから何かにつけて胃の痛みに悩まされてきました。

 えっ? このノーテンキな文体からして胃痛なんてありえない人だろうって? こう見えて、けっこう繊細なんですわ。まだランドセルを背負っていた時代から、中学受験戦争の真っただ中だったためかストレスによる急性胃炎を繰り返し、ランドセルに胃薬を常備しているというなんとも不健康な子供だったのです。その後も定期テストや失恋、大学受験、国家試験とことあるごとにいつもの胃炎に悩まされてきました。あー、今までの人生でどんだけ某製薬会社の胃薬に貢いできたことやら。

 当然、医者になってからも日々の過酷な労働で精神的ストレスがかからないわけはなく、仕事中に突然の胃の激痛で動けなくなったことも数回あったなあ。幸か不幸か、病院で倒れれば必ず周りに医者はいるわけで、とりあえず誰かが何かはしてくれるもんね(ただし、オペ中に倒れたときは、みんなオペに集中していてそれどころではなく、自力で復活するまでオペ室の床で放置されたなんてこともありましたが……)。

 ところで、一般的に「胃が痛い」とはよく言いますが、医学的には「胃が痛い」という表現は間違っていて、「心窩部痛」(つまりミゾオチの痛み)などと表現されます。だってその痛みが本当に胃から来ているのか分からんもんね。心窩部痛を起こす病気としては、代表的なものとしては胃炎や胃かいよう、胃がん、十二指腸潰瘍(かいよう)などがよく知られていますが、これらはまさに心窩部にある内臓からくる痛みですよね。

 レアなものとしてはアニサキス(寄生虫の一種)なんてことも。お刺身を食べた後なら要注意。わりとレアなわりには、むかし同期の女医が飲み会でイカ刺し食べた後に心窩部痛でのた打ち回っていて、胃カメラをやったら本当にアニサキスがいたという事件がありました。小さくて白いミミズみたいなやつ、初めて生で見たわー。それ以来、どうもイカ刺しに手が伸びないのであります。

人体の中身は複雑に絡み合っています

 そのほかに、肝臓や膵臓(すいぞう)、胆のう、心臓などほかの臓器の刺激が心窩部の痛みとして感じられる関連痛という痛みもあります。心筋梗塞(こうそく)でも本人は「胃が痛い」といって病院に来ることもあるんです。虫垂炎(俗にいう盲腸のことね)でも心窩部痛で発症することがあり、「原因がよく分からないけど胃が痛い」と思っていたら盲腸だった、なんてこともあります。

 人間の体は実にさまざまな器官が複雑に絡み合っているから、症状だけで原因部位を特定するのは困難なんですね。自分で「胃が痛い」と思い込んでいても、実際は胃ではなくほかの病気だったということがあるので、やはり心配なときは病院で受診したほうがいいかもしれませんね。病院で症状を医者やナースに伝えるとき、「どこが痛いか、何をしたとき痛いか(食事との関連なども)、どのような痛みか(刺すような痛みとか、圧迫されるような痛みとか、痛い部位が移動するとか……)」なんかを話してもらえると有り難いところです。

胃カメラも今じゃ随分と進歩して……

 まあ、心窩部痛を起こす病気はさまざまだとしても、やはり働き盛りでストレスの多いビジネスパーソンにとって、わりと頻度が高い病気は胃や十二指腸の炎症ではないでしょうか。特に頑張り屋のまじめな方ほど要注意。精神的なものが原因となっている場合には、いくら胃薬を飲んだって、根本的な原因をやっつけないとなかなか治らないことも。まずは意地悪な上司をどうにかしなきゃ。

 そういえば研修医のころ胃痛でダウンしたとき、鬼のように怖くて有名な消化器外科のボスに、「そんなら今からおれが胃カメラしてやるよ」と強制連行され、まな板の上のコイになって胃カメラをしてもらったことがあったなあ。

 私は反射が強いので(のどがゲッとなるあれです)いつもは少しボーとさせる薬(鎮静剤)を使ってもらうのですが、「お前、もちろんこの後仕事すんだよな。なら薬使わないから、気合で耐えろ」と言われ、拷問のようなカメラをやっていただきました。あー、思い出しても涙が出てくる。私の胃粘膜には数々の炎症のあとがあり、診断は急性胃炎。

 もちろんその検査の後、フラフラしながら仕事をさせられたもんね。「アンタがいるから胃が痛いんだよー」と心の中で声を大にして叫んだのでした。どんな胃薬を飲んでも治らなかったけど、そのボスが転勤になったら3日で治りました。なーんだ、薬いらなかったじゃん。それ以来、あれほどの激痛はごぶさたで平和な今日このごろです。ちなみに最近では鼻から入れる胃カメラなんてものが普及しつつあるので、のどが「ゲッ」となるつらさは比較的改善されるようです。次のチャンスには鼻からトライしてみよーっと。

 全10回の「プチ元気の薬」も次回でいよいよ最終回。ラストはさまざまなところに影響を及ぼすストレスなどを含め、メンタル的な話にしようと思っています。ぜひ読んでねー。あー終わっちゃうのは寂しいなあ……。

ポイント

  • 「胃のところが痛い」のは医学的にいうと「心窩部痛」。ちょうどミゾオチのところの痛みのことです。
  • 「心窩部痛」を起こす病気は実にさまざま。胃や十二指腸だけでなく、ほかの臓器が原因なことも。
  • どんな病気にもいえることですが、やっぱりストレスマネジメントは重要。胃や十二指腸はとりわけストレスに弱い臓器です。
  • 受診の際には「どこが痛いか・何をしたとき痛いか・どのような痛みか」などが大切です。
  • のどが「ゲッ」となってつらい方、ぜひ鼻からの胃カメラにトライ!

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