「はてなタクシー」に学ぶ――新事業アイデアを見つける方法アイデア創発の素振り(2/2 ページ)

» 2008年06月30日 14時50分 公開
[石井力重,ITmedia]
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「はてなタクシー」のポイントは?

 この「はてなタクシー」という発想方法を要約し、この連載スタイルで表現するなら、3つのステップになる。

  1. 既存事業の基本的条件をリストアップする。
  2. どれか1つをなくす。その状態を端的に表現する(例:道を知らないタクシー運転手モデル)
  3. その事業が意味をなすとしたら、どんなものだろうか。アイデアを出す。

 あなたに、ブレインストーミングのメンバーがいるのであれば、この3ステップを踏まえて、ブレストしてほしい。もしあなたが一人でアイデア出しをしているのであれば、ノートに向かって、この3ステップを行ってほしい。

 コツは、

  • どうしても意味をなさないモデルもある。それはパスする。
  • “基本的条件”のリストアップが難しい場合には、以下のようにする。
  • (A)“さまつな条件”でもいいので、思いつく限り、事業を構成している条件を書き出す。
  • (B)そのうち、特に重要だと思うものを3〜5個を選び、「基本的条件」として採用する。
  • (C)たとえ“基本的条件”が漏れなく挙げられたか自信がなくても気にしない。あとから気づいたら、その時点で加えればいい。

「新聞社の新事業アイデア」を素振りしてみる

 それでは今回は「新聞社の新事業アイデア」をお題として、素振りしてみよう。

ステップ1:新聞事業の基本的条件を列挙

 早速だが、筆者には新聞事業の基本的条件が分からない。まず、さまつな条件でもいいのでリストアップしてみる。

  • 記者がたくさんいる、そして日々取材し情報を得ている。
  • 毎日新聞紙を刷って、各家庭に届けている
  • 一般市民からの購読料が、大きな収入になっている。
  • 企業から新聞広告をたくさんとってきて、広告費収入を得ている(かなり大きい)
  • 折り込みチラシを一緒に配る。
  • 一定の編集方針によって、情報の取捨選択がされている。
  • 読者は、全国紙数紙と地方紙の中から、選択して読める。
  • 良いことで新聞に取り上げられると、取り上げられた会社や人はその信用度がぐっと増す

 もはや、基本的条件なのか、さまつなのか、はては“それは条件なのか?”というものまで、とにかく挙げてみた。この中から、特に「基本的条件」といえそうなものを、表現を整理しつつ、ピックアップする。

  • A:記事を毎日仕入れる(独自の取材、記事の購入)
  • B:新聞を毎日刷る
  • C:すべての購読者に毎日“紙”を届ける
  • D:広告枠にクライアント(広告主)を獲得する

ステップ2:どれか1つをなくす。その状態を端的に表現する

  • Aをなくす→“記事なし新聞”
  • Bをなくす→“日刊じゃない新聞”
  • Cをなくす→“配達なし新聞”
  • Dをなくす→“広告なし新聞”

ステップ3:その事業に意味があるとしたら、どんなものだろうか。アイデアを出す。

 アイデアA:「記事なし新聞」。これは、かなりとっぴな……。しかし、無理だという前に、少し柔軟に考えてみよう。普通、新聞にはチラシが入ってくる。いろんな家庭を考えてみると、チラシだけ目を通したい人々がいる。

 ならば販売店は、毎朝の配達ついで「チラシだけ配達サービス」をしたらどうだろう。チラシだけなので購読料は不要。配達コストの費用だけはほしいところだが、完全無料にする。チラシの配達部数が上がれば、広告価値が上がる。折り込みチラシの価格アップで稼ごう。このサービス、賛否両論ありそうだが、ニーズは意外とあるかも。ということで「チラシだけ配達サービス」

 アイデアB:「日刊じゃない新聞」。例えば週末だけ来る新聞とか月刊新聞かなあ。忙しすぎると、ネットニュースだけチェックして、新聞は週末に読む、というスタイルの人も今は結構いそうだな。そういう層には土曜日の朝に1部だけ、届けばいい。まとめて読む人には、事件経過が1週間分並んでいる紙面の方がいいな。コンセプトは「記事のつながり」が見える新聞。

 ある事件の日曜日〜土曜日の記事が、1つの紙面内に時系列に並べてある。推測的な記事と確定的な記事では、字の大きさを変えて認知上の工夫をしておく。読者は、注目した事件について効率的に1週間のニュースの流れが分かる。この新聞の場合、紙面の枚数はかなり増えるし、記事量も多いので割安にはしない。その代わり、編集された読み応えのある情報セットを提供することを売りにしたい。このスタイルだと、記事の盛り上がりや沈静化がみえるので、トレンドウオッチャーのためのソースとしてもいいかもしれない。保存資料としての価値もあがりそうかな。ということで「つながり新聞」

 アイデアC:「配達なし新聞」。刷った新聞が配達されないとしたら、購読者が取りに行くスタイルか。どんなモデルだろう。例えば、早朝にウオーキングをする人も結構多いけれど、そのついでに取っていく、という感じだろうか。でも、運動の邪魔になるから、ちょっと考えにくいな。

 それ以外に「朝、どこかにいく」といえば……。そうだ、朝ごはんをカフェで取る人が増えているな。じゃあ、いっそ新聞販売所の新事業に「朝ごはん&新聞」事業を作ったらどうだろう。新聞を受け取りに来て、朝ごはんも食べる。う〜ん、でもこれだけでは、ちょっとひねりが足りなくて、苦しいかな……。一応、アイデアとして挙げておこう。「朝ごはん&新聞」事業

 アイデアD:「広告なし新聞」。この場合、すべての収入は「購読料」になるな。広告を出すクライアント(企業、業界団体)がいないということは、調整なしの記事、真実を追求する新聞になるだろう。こういう時代なのでそういう骨太な記事が紙面を埋める新聞は意外と広く支持されるかも。さらに、紙面の何割ものスペースをしめる広告スペースがないので新聞面積はかなり小さくできる。そうなると、新聞の電子配信事業が視野に入り始めるかな。新聞サイズがコンパクトなら、家庭用プリンタでの出力や小型のモバイルビュワ―での購読も選択肢になるだろうから。最後は「骨太&小型新聞」



 今ある事業の周辺には、新事業アイデアがたくさん潜んでいるが、誰でもそれを引き出す(ための発想をする)ことはできる。今度、新事業を発想する機会があれば、ぜひ一度この方法を試してみてほしい。

著者紹介 石井力重(いしい・りきえ)

著者近影

 事業のアイデア創造支援や技術開発をサポートする事業化コーディネーター。仙台のベンチャー企業デュナミスが事務局を務める創造性育成ツール開発プロジェクトでは、プロジェクトリーダーを務めた。このプロジェクトで誕生した新商品が「ブレスター」である。みやぎものづくり大賞(2007)で優秀賞を受賞。社会人院生として、東北大の博士課程にも在籍、新事業創造マネジメントや創造工学を研究。Webサイトは「石井力重の活動報告」


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