第10回 Tシャツをメディア化する――小規模企業でもできるCSRみんなで作る地球のあした、企業発“巻き込みエコ”最前線(1/2 ページ)

ここ数年、注目されるようになった企業のSCR(社会的責任)。今ではその一環としてエコに関する活動を行っている企業も多い。ここでは地域社会や環境問題と向き合うために「Tシャツ」を通じてさまざまな活動を行っている久米繊維工業のCSR活動の事例を見てみよう。

» 2008年06月30日 11時50分 公開
[SOS総務]
SOS総務

 高知県にある砂浜美術館で1999年から毎年開催されている「砂浜美術館Tシャツアート展」への支援をはじめ、Tシャツを通じてCSR活動を行っている久米繊維工業。その発端は、3代目社長である久米さんが大学時代に学んだ「成長の限界」だったという。地球環境といった大きなテーマは中小企業には関係ないという人も少なくない。しかし、それでは済まされない時代にきている。これから先、事業を核としながらどのような取り組みを行っていけばいいのだろうか――。

地域に密着した中小企業にはCSRの概念がすでにある

 中小企業がCSR活動を行う場合、資金的時間的余裕のないことがネックとなる。たとえ奮起して取り組んだとしても、長期にわたって継続することは困難だ、という人も少なくない。しかし、それでもCSRに真剣に取り組んでいる中小企業がある。本社・社員8人(グループ合計110人)の久米繊維工業である。リーダーは、創業72年の同社を1991年に引き継いだ3代目社長・久米信行さんだ。

 「CSRという言葉が新しいだけで、その概念は、昔からあったことです。特に地域に密着している中小企業は、町のお祭りがあれば寄付をしたり、会社の軒先を提供したり、社員が総出で手伝ったりしてきました。繊維会社ならば手ぬぐいくらいは無償で提供します。そういうことは今でもあると思います。商工会議所や地域振興、防犯、消防への協力など、中小企業が社会貢献していることはすでにいっぱいあるんです。また、コンプライアンスについても、『近所の目』が抑止力になっていたはずです。江戸っ子なら、ずるいことをしてまで、もうけるのを美徳とはしなかった。つまり、自然に実行してきたのです。それをCSRという言葉で表現しているかどうかだけではないでしょうか」と久米さんは語る。

未来の子どもたちに誇れる企業に

 久米さんが子どもの頃、1970年〜1980年代にかけて、水俣病など公害問題が社会の話題になっていた。そうした環境の中、心の中に問題意識が芽生え、大学時代に出会った教授や書物にも感化された。そして、3代目として会社を引き継いだあと、1997年から無農薬有機栽培の綿、いわゆるオーガニックコットンの使用に踏み出したのだ。

 「通常のコットンの栽培には多くの農薬が使われています。もちろん、この農薬が衣類になってまで残っているということはありませんが、それによって土壌が汚染されたり、農薬を洗い流すために河川が汚染されてしまう。そこで『Tシャツの製造工程において地球に害となるものはできるだけ使用しない』ということにこだわったのです」と久米さん。

 無農薬で栽培するということは、大きな手間が掛かり、その分コストも掛かるため、繊維業界では敬遠されるのが一般的。しかし、久米さんはそのこだわりを貫き通した。そして、国内自社工場で使う電力は、長野県おひさま発電所によるグリーン電力を使うという徹底ぶり。もちろん、環境負荷を掛けないための沈殿槽での排水処理なども、工場が始まって以来取り組んでいる。

 久米さんはなぜここまでこだわるのだろうか。

 「それは、こうして作ったTシャツの方が、見ても着ても自然で心地良いからです。着ていただければ分かりますが、優しい気持ちになれます。そしてもっとも重要なことは、未来の子どもたちに誇れるということです」

 自分たちの行っている事業が後世に誇れるものかどうか、自社の商品が子どもたちに自信を持って残せるものかどうか、久米さんはそういう視点でCSRをとらえている。

       1|2 次のページへ

注目のテーマ