連載
目的を達成する説得法:
第1回 「他人のため」は「自分のため」 (2/2)
自分と相手と――コミュニケーションは2つある
ここまでは他人とのコミュニケーションについてお話しましたが、実はコミュニケーションにはもう1つ、自分とのコミュニケーションがあります。コミュニケーションは、自分とのコミュニケーションと、他人とのコミュニケーションの2つからなります。私は、「人生の質は、コミュニケーションの質」だと考えます。これは私の考え方の根幹を成すところです。

「どうせダメ」より「こうしたい」
他人とのコミュニケーションは得意だけど、自分とのコミュニケーションがうまくできない人がいます。例えば、ものすごく売り上げを上げる優秀な営業マンで、同僚やお客さんから愛されて、家族サービスもちゃんとしているのに、「自分はどうせダメだ」と思っている人が実際にいるのです。
一生懸命やって、みんなに喜ばれているのに、「ああ、こんなんじゃダメだ。もっとがんばらなきゃ。もっとみんなのためにやらなきゃ」と思う。他人とのコミュニケーションはできていますが、自分とのコミュニケーションがうまく取れないのです。
マリリン・モンローは、映画の中で自分をうまく見せることはできました。つまり、他人とのコミュニケーションはうまかった人です。しかし、自分とうまくコミュニケーションできずに睡眠薬におぼれてしまいました。
逆に、自分とのコミュニケーションはよくできるけれど、他人とのコミュニケーションがうまくできない人もいます。自分の世界にこもっていて、気に入らない状況になったら、いつでもリセットして逃げられるようにしている人は、他人とのコミュニケーションがうまくできない人です
自分とのコミュニケーションには大きく2つの要素があります。1つは「自分軸」です。何度か紹介してきた「価値観」と「ビジョン」が自分軸です。未来にこうなりたいというビジョンを持っている人もいれば、日々の生活でこれを生かしたいという価値観の人もいて、このどちらか、もしくは両方が軸になります。要するに、「私はこうしたい」というものですね。
「こうしたい」を実行するには、「ポジティブな気持ち」も要る
もう1つは「リソースフルな意識状態」です。別の言い方で表現すると、「元気」とか「やる気」「勇気」など、気持ちや心構えといったものです。
ここでいう「リソースフル」と「リソース」は違うものです。リソースとは、外にあるものです。ノートやパソコン、ライターさんやネット、雑誌など、人やモノ、お金という目に見えるもの、加えて能力や才能もリソースです。英語が話せる、文章が書ける、雑誌の編集経験がある、などはリソースです。
一方、リソースフルというのは、モノやお金、才能や能力、経験、知識、スキルといったものではありません。心の状態です。例えば、いきなり会社のサイトを立ち上げなくてはいけなくなったというような場合に、編集経験がなく、文章を書いたこともないけれど、自分の心に余裕があって、やる気、勇気、元気があると、どうできるだろうと考える気持ちになりますね。
私は分からないけれど、あの人は分かるはずだから呼んでこようとか、ここを調べてみようとか、ICレコーダーがなかったらテープレコーダーで間に合わせようとか、3人で担当を分けてメモしていこうとか、何かしらアイデアが出てくるわけです。こんな良い心の状態を、リソースフルな状態といいます。
自分とのコミュニケーションでは、この自分軸とリソースフルな意識状態の両方が、とても大事です。「これがやりたい」「ウチの会社でこういうことがやってみたい」「こういうことを大事にしたい」という自分軸が明確にあっても、元気がなく、ため息をつくような状態では、できずに終わってしまいます。
逆に、自分軸はなくてリソースフルな意識状態というのは、やたら元気で「やるぞー!」という気持ちにはなっても、自分が何をしたいのか分からない、という状態です。元気があることは悪くはないのですが、「どうしたいの?」と聞かれて、「分からないです」じゃ困るんですね。「これをやりたい」という自分軸と、元気・やる気の両方がそろっていることが必要なのです。別に大声じゃなくてもいいのです。「絶対、僕はやりますよ。いける感じがするんですよ」という気持ちを、相手に感じさせることが大事です。
下手に自己啓発をかじった人が陥りがちなのが、自分軸とリソースフルな意識状態のどちらか片方だけになってしまうことです。自分にとって何が大事かが分かっていないと、笑って、声を出して、元気一杯でやっているけれど、1週間くらいすると、「自分はなんで、こんなことやってるんだろう」と、ふと気が付く。「キミはどこに行きたいの?」の答えがないんですね。
逆に、やりたいことは明確になったけれど、「ウチの会社は無理だよ」とか「どうせできっこないしさ」とあきらめ気分になってくると、これもダメです。自分軸とリソースフルな意識状態の両方がそろわないといけません。
初回はコミュニケーションの基本について見てきました。次回からは仕事やプライベートでの具体的な説得方法を解説していきます。

ピークパフォーマンス 代表取締役
平本相武(ひらもと あきお)
1965年神戸生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了(専門は臨床心理)。アドラースクール・オブ・プロフェッショナルサイコロジー(シカゴ/米国)カウンセリング心理学修士課程修了。人の中に眠っている潜在能力を短時間で最大限に引き出す独自の方法論を平本メソッドとして体系化。人生を大きく変えるインパクトを持つとして、アスリート、アーチスト、エグゼクティブ、ビジネスパーソン、学生など幅広い層から圧倒的な支持を集めている。最新著書は「成功するのに目標はいらない!」。コミュニケーションやピークパフォーマンスに関するセミナーはこちらから。
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[平本相武(構成:房野麻子),ITmedia]
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