「今までにないアイデアを出さなきゃ」をかなえる「エクストリーム・ゴール」アイデア創発の素振り(2/3 ページ)

» 2008年06月24日 11時27分 公開
[石井力重,ITmedia]

今回のアイデア出しのお題「ケーキの売り上げを20%伸ばすアイデア」

 例えば、ケーキの売り上げを20%伸ばすアイデアを考える。頑張って20個くらいアイデアは出た。しかし「イマイチ、これだという感触が得られない……」と感じている。

 え〜っと、じゃあ、「暇な時間に、近所にポスティングをする」「お店のマスコットキャラクターを作って、子供の喜ぶシールにして配る」「折り込みチラシを入れる」「ひと回り大きくして値段の高い“メガ・ショートケーキ”でも作るか」「ポイントカードを発行する」「特売日を」「新商品を」「ケーキウイークを作り」……。

 リーダーの感じる「イマイチ感」は、長い経験の中で似たようなことを試したことがあるからなのだ。もちろん詳細は違うし、ある程度の成果は出せそうだが、メンバーにはもうひと頑張りして、既存の延長線上にないアイデアを出してほしいと思っている。こういう時、「エクストリーム・ゴール」という手法を使うと、斬新なアイデアが出る。

エクストリーム・ゴール
1 目標を「極端に高い設定」に変える(数値設定ができるものは、妥当な数値の10倍を目安に) 「じゃあ、売り上げを20%増じゃなくて、200%増に。つまり売り上げ3倍化、これをテーマにしてみよう」
2 「その設定が実現した状態」を考え、列挙する 「お客さんが3倍くる」
「1人あたりの購買量が3倍になる」
「商品の単価が3倍になる」
「営業時間を3倍に長くする」
「世の中のケーキ系イベントが3倍になる」

 この辺は、アバウトに考えて列挙すること。「単価を3倍に上げたらお客さんは激減して売り上げは減ってしまうじゃないか」といった関係は、ひとまず無視してよい。自分だけでは達成できない状態(「世の中のケーキ系イベントが3倍になる」)といったことでも思いつく限り列挙する。
3 その状態から「連想」を広げて、アイデアを見つける。  「お客さん、3倍か……」。この店にお客さん3倍いたら、ちょっと騒がしいなあ。でも人気店ならではの活気につながりそう。活気……そうだ、お店ににぎわい感を醸そう。じゃあ写真館がやるように、写真をお店の前面に飾ろう。まず、子供さんとケーキの写る「記念写真コンテスト」をして、全応募作品を年間展示する。子供の笑顔は、飾っても絵になるし、お客さんも無意識に肯定的な心理状態になってくれるかもしれない。未来に明るいものがあると想起させることは、きっと繁盛に有効なはずだ。

 それから、小さい子供を持つ30代くらいの男性(サラリーマン層)が立ち寄り、売り上げが伸びるかもしれない。ケーキをめったに買わない男性は、高い・安いがあまり気にならないだろうから、価格設定にも工夫はできそうだ。そうだ、男性が購買者なら、あっさりしたミルフィーユ系商品を多めに作ってもいいかもしれない。

→「笑顔写真コンテスト&全作品の展示」
→「30代男性向けラインアップ(少し高額)」

 「購買量、3倍か……」。ケーキを家族分買うなら大抵4個くらいだ。その3倍だと12個か。1ダースだな。かなり大きな箱になるなあ。1ダース分のケーキを買う人がいたとしたら、選ぶのも大変だな。帰って12個のケーキをテーブルに並べた状況って、まるで……パーティーだな。そうだ、パーティー・セットを作ろう。名前は少しひねって「ケーキバイキングセット:1ダースのケーキ&紅茶」。ケーキバイキングを自宅にテイクアウトするコンセプトの商品として出したい。イベント感を盛り上げるには……じゃあ、紅茶はパックにして12種類付けよう。すこし珍しい茶葉も取り入れる。ケーキサイズは小さめ、糖分を抑えめにして食べ飽きないようにしよう。お客さんが自分に言い訳できるように、「○○町のウォーキング・マップ」を作って付けよう。マップを持っている人にはうちのアイスティーを1杯サービスくらいは付けてもいいかな。

→「ケーキバイキングセット:1ダースのケーキ&12種類の紅茶」
付録:ウォーキング・マップ、アイスティー1杯サービス券付き

 「単価、3倍か……」。うちのケーキ、平均単価400円だから、3倍だと1200円か。相当高いな。自分にごほうびな感じの頑張っている女性がターゲットかな。いや、あるいは記念日に男性が女性に贈る特別なケーキかな。プロポーズ専用ケーキってどうだろう。このケーキ、予約しちゃったらもう後には引けない。艶やかな感じで指輪をモチーフにした砂糖菓子を乗せよう。値段はむしろもっと高い方がありがたみ、あるかも。じゃあ、値段は給料の3カ月分を100で割る。ケーキ2個で6000円。これは高すぎる……。そうだ、入籍後にお祝いのホールケーキ(3000円相当)を1つプレゼントしよう。奥さんになる人に楽しみを作ろう。

→「艶やかスイーツ(プロポーズ専用ケーキ)」
(給料の3カ月分を100で割った値段。入籍後のホールケーキチケット付き)

 「営業時間、3倍か……」。うちの営業時間は11時〜19時だから、3倍にすると24時間営業か。そうすると夜12時に終電で帰って、ケーキが買える店。飲み会の帰りに奥さんに買って帰れる店。そんな需要があるかも。でも、さすがに朝方に買いに来る人は少なそうだな。深夜まで営業しなくても、遅いお客さんに渡せる方法がないかな……。そうだ、営業時間は伸ばさないで、ケーキ用の保冷ロッカーをお店の前に設置しようか。代金先払いの予約購入者には、保冷ロッカーの解錠番号を教えておいて、お店の営業中に取りに来られない場合は、購入したケーキをロッカーに入れておく。衛生と品質維持の面で、さらに考慮はいるけれど、できるかどうか調べてみるか。

→「深夜受け取り保冷ロッカー・サービス」

 「世の中のケーキ系イベント、3倍か……」。クリスマス級のケーキ必須イベントが、ほかの時期にあと2回あったとしたらどうなるかな。1年間を3で均等に割ると、クリスマス(12月25日)の後は4月下旬と8月下旬か。

 4月下旬というと、ゴールデンウイーク。だいぶ暖かくなっているはずだから、外で遊ぶにはいい時期だな。じゃあ、ピクニックケーキってどうだろう。ゆすられて、暖かい環境にさらされるので、普通のケーキは持って行けない。車の中で楽しむとしたら、手軽に食べられて汚れないものがいいな。コンビニにあるようなサンドイッチスタイルのものなら、何とかなるかな。手が汚れないスタイルができれば、小さい子供さんのいる家庭からの需要も生まれそうだな。

 次は8月末。子供は、夏休みが終わりを迎えて宿題に追われるつらい時期。そこをうまくハッピーにしてあげられるケーキってないかな。例えば宿題マラソンケーキ。糖分を控えめにした小ぶりのホールケーキ。8本の旗が立っていて、そこには「作文」「算数」「自由研究」「漢字書き取り」「歴史ドリル」といった小学校で出される主要な宿題が書かれている。その宿題が終わったら、その分は食べられる。だらだらやっていると生クリームがとけてしまうので、早く集中してやらないといけないので「宿題マラソンケーキ」。お子さんの集中力と効果的な糖分補給をといったコンセプトにしたい。

→ピクニックケーキ(手が汚れませんケーキ)
→宿題マラソンケーキ(宿題旗8本付き)

 コツは2つ。

  1. 発案するアイデアが本当に「極端な目標」を実現できるかは、あまり厳密に考えず発想すること。本当は「本来の目標」さえ達成できれば、いいのだから。
  2. 本当に難しそうな極端な目標はパスしてもいい。そのためネタとなる「2」の部分をたくさん出すこと。どんなに考えても無理なものもあるからだ。

 アイデアはそれなりにたくさん出たが、どうも「これだ!」と思うアイデアが出ていない時、あなたが会議の司会者なら、この手法を10分だけ試してみてほしい。また、あなたが「1人ブレスト」をしているならば、ノートに向かって、この手法をしてアイデアを出してみてほしい。従来の延長線上にはないアイデアを、きっと見つけられるはずだ。

3行でまとめ

  1. 目標を極端に高い設定に変える(数値設定ができるものは、妥当な数値の10倍)
  2. 「その目標が達成できた状態」を考え、列挙する
  3. その状態から「連想」を広げて、アイデアを見つける。

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