海外出張で活躍した“タンデム腕時計”樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」

香港国際空港に着陸する時、筆者は腕時計を見つめていた。実は、時計に付いた電子コンパスで、刻々と変化する機体の方角を確認していたのだ。こうした多機能時計を2つ合体させたのが、“タンデム時計”である。

» 2008年06月19日 21時52分 公開
[樋口健夫,ITmedia]

 昔、香港国際空港(1998年まで使われた啓徳空港)への着陸はアクロバットのようだった。着陸直前に大きく右に旋回し、ビルの隙間を縫うように着陸していく。着陸直前の機内で、筆者はカシオ計算機の多機能腕時計「PROTREK」を見つめていた。正確に言うと、時計に付いた電子コンパスを見つめていたのだが、刻々と変化する機体の方角を確認していたのだ。

 着陸の方角に入ると、「おっ南南東に変わった。いよいよ香港着陸だ」とはしゃいだものだ。同じように成田国際空港は西南西、ベトナムのハノイにあるノイバイ国際空港は東南東からの着陸だった。

 一度、香港からハノイ(南西)に向かうはずの直行便が、離陸後どんどん東南東に向かい出したのは驚いた。離陸後ずいぶん東南東に進み続けたので、たまらずパーサーに、「すみません、この飛行機はどうして、東南東に向かっているのですか。このままだとフィリピンに着いちゃいますよ」と指摘した。「ハノイは香港からだと南西ですが……」と怪訝な顔のパーサー。「いや、確かに東南東に飛んでいます。機長に尋ねてください」と頼んだら、しばらくして「機長が、今日は途中の海南島領域が中国軍の軍事演習で飛行制限され、東側に迂回しているとのことです」と回答があった。「なるほど、軍事演習か……」と1人納得してしまった。

 飛行機の中では、どちらの方向に向かっているか、上昇中か、下降中か――などをよく確認する。表示される高度は、機内の気圧は加圧されているため、2000メートル以下の山と同じ程度の高度を示すが、機体の上昇と下降に合わせて、機内の気圧もゆっくり変化するから、「おおっ、そろそろ降り始めた。早くトイレに行っておこう」などと着陸に向けて先んじて準備もできるわけだ。

ランドマスター+PROTREK=?

 昔からPROTREKを愛用していた。時間だけでなく、方位や高度、体感温度、天候などが分かる。しかし、以前のPROTREKは電池交換が必要で、海外で勝手に電池交換をすると、メーカー保証外になってしまう。実際、海外滞在中に電池が切れて使えなくなってしまった。

 そこで、セイコーウオッチの「プロスペックス ランドマスター」に切り替えたのだった。ランドマスターは腕の動きで発電するので、電池交換が一切不要。長い海外生活でも最適だった。10年以上使っているが、堅牢でビジネスマンには最適の腕時計である。ランドマスターに不満はなかったが、PROTREKの多機能性には未練があった。

 そんな時に、PROTREKにも電池交換不要モデルが登場した。太陽光線を受け止める小型ソーラーパネルと充電池を組み合わせた太陽光発電システムを搭載している。2008年に新モデルを手に入れた筆者は、この新型PROTREKとランドマスターの2つの腕時計を“合体”させようと考えた。いくつかの有楽町の量販店で問い合わせたが、ピンのサイズが合わないと断られたが、筆者はあきらめなかった。頼みに行ったのはアイデアマラソン研究所がある東京・三田の「かめがや時計店」(電話:03-3441-8713)だった。

 相談を聞いた店主は一瞬考え込んだが、「やってみましょう」と預かってくれた。何と合体用のピンを特別に作ってくれたのだ。腕時計2つと接続ピンの合計で15万円ほどの費用で、世界に1つの腕時計が完成した。これでネパールのヒマラヤでも、タイの空港やホテルでも、正しい方角に進んでいるかどうかが分かる。

ランドマスター+スウォッチ=?

 こうした合体腕時計、実は筆者には以前も経験があった。ネパールに駐在していた時のことだ。スウォッチを2つ合わせて、ランドマスターにはネパール時間、スウォッチ(その1)には日本時間、スウォッチ(その2)にはタイ時間を表示させていたのである。

2つのスウォッチを“合体”

 なぜこんなモノを作ったのかと言えば、ネパールの日本との時差が3時間15分という微妙な時差を計るのに苦労したからだが、実際に日本やタイの時間を計るには最適だった。当時は、セイコーのランドマスターを左手に、スウォッチ2台を右腕に着けていた。

 「両腕に腕時計」は思わぬ効果があった。客先や空港で「どうして両手に時計を付けているのですか」と頻繁に尋ねられた。空港のパスポートコントロールでも時計の話題になり、「この時計がネパールで、これが日本で、これがタイの時間です」と言えば、係官も「なるほど」と感心し、パスポートに入国スタンプをポポーンと押してくれたものだ。

こういう感じで両腕に着ける

 2つの腕時計をつなぐだけで、営業先の人との話題を10倍にできた。もちろん笑顔付きだ。

腕時計に組み合わせてほしい機能
ほしい機能 コメント
脈拍・血圧 測定に時間がかかったり、再度測定しなくてはならないような精度ではダメ
GPS これも測定に時間がかかると面倒になってしまう。
TV ワンセグの腕時計テレビがあってもおかしくない。画面が小さいと、見るのは苦しい。充電は無線充電式となるだろう
ストレス ユナイテッド航空の機内誌にストレス測定腕時計が出ていた。これもおもしろそうだ
睡眠 睡眠時、目覚めやすいタイミングで目覚ましを鳴らしてくれるもの
デジカメ 以前、見たことがあったが現在は製造されていないようだ

今回の教訓

世の中、与えられたものだけで満足してはいけないのである。


著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

 1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「できる人のノート術」(PHP文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう〜」(技術評論社)も監修した。「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちら


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