第14回 「正直ベースで」――普段はウソベース?つい口に出る「微妙」な日本語

「正直ベースで」「技術ドリブン」「顧客オリエンテッド」など、日本語とカタカナ語を中途半端に融合させたようなフレーズも頻繁に耳にします。「正直ベース」って、ビジネスの現場では正直でいてくれなきゃ困るんですが……。

» 2008年04月18日 10時40分 公開
[濱田秀彦,ITmedia]

 「で、最終的にトータルでいくらなの?」

 「合計金額は、こちらに記してありますように100万円で。これはもう、正直ベースの金額でございまして……」



   出現度……★★
   不快度……★★★★

 価格交渉の場面で「正直ベース」という言葉を頻繁に耳にするようになりました。相手を選ばず、うかつに使うと「じゃあ、何ですか? 御社にはウソベースの金額ってものもあるんですか?」などと、言葉尻をとらえられて、ネチネチといじめられることにもなりかねないので、気をつけたいものです。

 日本語とカタカナ語を強引に結びつけた言い回しは、ビジネスの世界ではよくお目に掛かります。「正直ベース」の「ベース」は「基礎、基本」という意味で、正直ベースの金額とはつまり、掛け値抜きで純粋に積み上げていった金額です。でもそれなら、「弊社としてギリギリの金額を出してまいりました。これでご判断をお願いします」のように普通に言ってくれたほうが、よほど分かりやすいのではないでしょうか。

 正直ベースで申しますと、今月の予算は達成できそうにありません


 この程度のことを言うのに「ベース」は不要です。いちいちもったいぶった言い方をしてはいけません。

 同じくベースがつく言葉では「ゼロベース」というものもあります。これは、先入観や過去のしがらみにとらわれず、ゼロから問題解決の方法を検討していくという意味で、「ゼロベース思考」は、閉塞した状況を打開するために欠かせない方法論と言われています。

 「……このため、『財政非常事態』を宣言し、すべての事業、出資法人及び公の施設をゼロベースで見直していきます」


 2008年2月に大阪府知事に就任した橋下徹氏が就任会見で「ゼロベース予算」をぶち上げたのは記憶に新しいところですが、ビジネスの世界では、ほかにもさまざまな「ベース」があるようです。

 「まずはこれが事業として、商業ベースで継続していけるものか、実務者ベースで話し合いを続けていく必要があるね」


 「ベース」のほかにも「マター(営業マター、開発マターなど)「ドリブン(技術ドリブン、消費者ドリブンなど)」と、自称「できるビジネスマン」氏は、こういう分かりにくいものの言い方が大好きです。が、慣れ親しんだ会社や業界を一歩離れたとたんに「君、何言ってんだか全然分かんないんだけど」と、冷ややかに言われる可能性があるということは自覚しておきたいものです。

肝に銘じよ!

ビジネス語 使わなくても 困らない


筆者:濱田秀彦(はまだ ひでひこ)

ヒューマンテック代表取締役。1960年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業。住宅リフォーム会社に就職し、最年少支店長を経て大手人材開発会社に転職。トップ営業マンとして活躍する一方で社員教育のノウハウを習得する。1999年に独立。現在はコミュニケーション研修講師として、プレゼンテーション、話し方、マネジメントなどの分野で年間100回以上の講演を行っている。また、Webサイトのプロデュース、システム開発も手がける。著書には『ビジネス快話力』(主婦と生活社)、『みんなのパワーポイント企画・構成・話し方』(エクスナレッジ)などがある。


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