連載
つい口に出る「微妙」な日本語:
第12回 「オファーが入りまして……」――日本語でしゃべってくれ!
何でもかんでも、不必要に横文字を使う人が増殖中です(とりわけIT、コンサル業界などに多い?)しゃべってる本人は気持ちよさそうですが、聞かされる側はちんぷんかんぷん。また、理解できてもあまり快く思われないケースもあります。
「先生、実は、都内の企業からプレゼンテーション研修のオファーがありまして。7月7日の日程で可能ならばアサインさせていただきます。よろしいですか? では、早めにフィックスいたします。オリエンテーションのあとスタッフにヒアリングしてアジェンダセッティングするというプロセスを先方に伝えたところウエルカムだということです。もちろん私もアテンドします」
出現度……★★★
不快度……★★★★
ここは欧米か! と突っ込みを入れたくなりますね。
最近、私もずいぶん慣れてきましたが、初めのころはよく分からなくて聞き直した ものです。こういう言葉を使うと「ちょっと仕事ができる俺」のような気分が味わえるのかもしれませんが、普通に分かりやすく話してくれたほうがよほど好感をもてます。
「ということで、グロスつまり総額1000万円でコンセンサス、合意が得られたわけです。重要なことはカスタマー・オリエンテッドすなわち顧客志向です」
カタカナ語は許容できても、それを逐一訳すのが許せないという人もいます。
言っているほうは親切丁寧なつもりなのでしょうが、ある人々にとっては、わざわざ言い直されると「お前らには分からないだろうから解説してやるよ」と言われているようで、非常に不愉快なのだそうです。
私なら、意味が分からないままカタカナ語満載の話を続けられるよりは、解説してくれたほうがよほどいいです。もっとも、最初からカタカナなしで話してくれればさらにいいのにと思いますが。
日常にまん延するカタカナ語は増殖の一途をたどっていますが、加えて専門用語が入ってくると部外者にはお手上げです。
「どら焼きの製造販売というビジネスのプラットホームですが、コンペティターが非常に多い状況で、カスタマーとのリレーション構築がキーファクターになると考えられます。幸いどら焼き本舗さまは、究極のこしあんというコアコンピタンスがありますので、そちらを生かしたソリューションを用意してまいりました」
「何を言ってるか、さっぱり分からん。ばあさん、分かるか?」
「分かりますよ。あなたが、プラプラとゴルフコンペばかり行っているから、カスみたいな客ばかりになって、孫がリレーで転ぶって話でしょ。こしあんにココアを入れればソリがあわない客も戻ってくるかもしれないってことよ」
そういうことではないんですが……。
私は、システム業もやっているので、日々こういう言葉の海の中を漂流しております。そのままでは業界以外の方々には分かりにくい言葉が多いですね。そういったことが、システムに対するアレルギーを生んでいる気もします。
平成が始まって間もないころ、二度目に入った会社で新規事業を提案し、了解を得て新しい課を作り、その任に当たることができました。新しい課の名前は私がつけていいことになり「システムソリューション課」と命名しました。ところが、この名前が、なかなか浸透せず、社内でも「システム……何でしたっけ?」と聞かれる始末です。
お客さまからくる郵便の宛名にはこんな風に書かれます。
システムイリュージョン課 濱田様
消えるのか……。
今でこそ、ソリューションという言葉はよく使われますが、少々早過ぎたようです。
経営の世界も新しいカタカナ語がどんどん出てきます。グローバルスタンダードが世の流れですので、これからますますカタカナ経営用語が増えるのでしょうね。使わざるを得ない場面もあるのでしょうが、控えめにしたいものです。
「あなた、太郎が保育園で数人のお友達とケンカになったらしいのよ」
「コンフリクトがあったんだな。ステークホルダーは誰なんだ?」
「何それ? 先生が目を離しているあいだの出来事で事情はよく分からないみたい」
「クラスのガバナンスが機能していないんだな」
「なんだか、あなたの言うことはさっぱり分からないわ。でも、二度とこういうことは起こさないように言って聞かせなきゃ」
「コミットメントが必要ということか」
「もう、結構です。あなたには相談しません」
たとえ会社では立派なビジネスマンでも、家庭でまでこういう言葉を使っていては、家族の信頼を得ることはできそうにありませんね。
肝に銘じよ!
身内だけ 分かってうれしい カタカナ語
筆者:濱田秀彦(はまだ ひでひこ)
ヒューマンテック代表取締役。1960年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業。住宅リフォーム会社に就職し、最年少支店長を経て大手人材開発会社に転職。トップ営業マンとして活躍する一方で社員教育のノウハウを習得する。1999年に独立。現在はコミュニケーション研修講師として、プレゼンテーション、話し方、マネジメントなどの分野で年間100回以上の講演を行っている。また、Webサイトのプロデュース、システム開発も手がける。著書には『ビジネス快話力』(主婦と生活社)、『みんなのパワーポイント企画・構成・話し方』(エクスナレッジ)などがある。
バックナンバー
- 第14回 「正直ベースで」――普段はウソベース?
- 第13回 「いって来い」――隠語はほどほどに
- 第12回 「オファーが入りまして……」――日本語でしゃべってくれ!
- 第11回 「なるはやでやります」――何もかも略さなくても……
- 第10回 「それから……それから……」――いつまで続くの?
- 第9回 「えーっと……えーっと……」――ちゃんと準備してこい!
- 第8回 「オレの若い頃は」――過去はどうでもいいの!
- 第7回 「させていただく」――誰に「させていただいてる」のか?
- 第6回 「バタバタしてまして」――だから何なんだ!
- 第5回 「誰が悪いとは言わんが」――いや、言ってます!
- 第4回 「どっちでもいいけど」――よくないくせに!
- 第3回 「〜と思われます」──誰が思うのか?
- 第2回 「ちょっと……」 ──ちょっと何なのだ!
- 第1回 「一応やりました」――きちんとやってから持って来い!
- バックナンバー(連載が書籍になりました)
[濱田秀彦,ITmedia]
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