「なるべく早く」が「なるはや」、「ダメでもともと」が「だめもと」。略すほど長い言葉でもないのになぜか省略表現を好むのもサラリーマンの不思議。普通にしゃべってくれ!
「では、今日話した内容について、御社で見積書を作ってください」
「わっかりましたぁ。なるはやで」
あけおめ(あけましておめでとう)、ことよろ(今年もよろしく)、メリクリ(メリークリスマス)と、言葉がどんどん短くなる昨今ですが、何でも略せばいいってもんじゃありません。
私が「なるはや」という言葉の存在を知ったのは、あるお客さまから次のような話を聞いてからでした。
「ウチに出入りしている広告営業の人に、できるだけ早くと頼んだら『なるはやでですね』なんて言うのよ。調子くるっちゃうわ。遊びじゃないんだから」
もちろん、その広告営業の人は、本当は、真剣に対応するつもりだったのかもしれません。でも、そういう姿勢を持っているようには見えません。「なるはや」は、「できるだけ早く」「可能な限り早く」あたりが自然な表現です。また、「できるだけ早く」と言われても予定は立ちませんので、本当に急ぐ気があるならぜひ、「○日までに」と言ってほしいものです。
「クリエイト工業の三鷹さんに折TELしてください」
「ダメもとでお願いなんですが、三月発売の新書を発売延期できませんか?」
折り返しの電話が「折TEL」、ダメでもともとが「ダメもと」などはもはや耳慣れた表現です。経常利益が「ケーツネ」(某大新聞社の会長じゃありませんよ)、雑誌広告の前半かつ編集記事対向ページ指定が「前付編対」(まえづけ……ヘンタイ!?)と、会社の中にもさまざまな略語があるものです。
日本人は伝統的に略語が大好きです。船頭の徳兵衛さんが「船徳」、猫好きの定吉さんが「猫定」など、古典落語の演題にも省略表現が多く見られます。公正取引委員会は「公取」、元検事の弁護士は「ヤメ検」、松平健が「マツケン」。「都電」に「留守電」。外来語でもお構いなく、「パソコン」「デジカメ」「リストラ」「メタボ」「マクド」に「ミスド」と、どんどん略して日本語化してしまいます。「セントラルリーグ」と「パシフィックリーグ」を「セ・パ両リーグ」に縮めてしまう卓越した言語感覚は世界でも類を見ないものです。
略語の何もかもが悪いということはありません。でも、通じる者同士での使用に止めておくことが賢明です。仲間内で使っている略語を外でも振りかざすことは、共通認識を持たない人を疎外することにつながります。
「空気が支配する世の中」は、一人ひとりの心得違いに端を発するものと肝に銘じましょう。
「なるはや」が 略せてるのは 「べく」「く」だけ
ヒューマンテック代表取締役。1960年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業。住宅リフォーム会社に就職し、最年少支店長を経て大手人材開発会社に転職。トップ営業マンとして活躍する一方で社員教育のノウハウを習得する。1999年に独立。現在はコミュニケーション研修講師として、プレゼンテーション、話し方、マネジメントなどの分野で年間100回以上の講演を行っている。また、Webサイトのプロデュース、システム開発も手がける。著書には『ビジネス快話力』(主婦と生活社)、『みんなのパワーポイント企画・構成・話し方』(エクスナレッジ)などがある。
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