一見ふつうの懐中電灯。よく見ると大きなヘッドには四つ目が鋭く光る、赤外線カメラ付きだ。その名は「紅カラス」(べにからす)。闇にうごめく影をその場で録画できるため、犯人に気づかれず証拠をつかむことができる。
SECURITY SHOW 2008で見つけたこの懐中電灯は、赤外線で暗闇の像をとらえ、動画を録画できるのが最大の特徴だ。6月に発売予定のサクサによる参考出品で、まだ正式名がない。ただ黒光りしたボディがどことなくカラスに似ていること、角度によって紅く見えるというカラスの目が、赤外線をイメージすることにかけ、「紅カラス」と命名。現時点で、社内でこの名が親しまれているという。
「実はこの製品、通称『紅カラス』っていうんですよ」。サクサから通称を聞いたとき、筆者は「カ、カラス?」と、思わず聞き返してしまった。ずる賢く、人間を襲う攻撃的な害鳥。カラスにそんな悪のイメージを抱いていたからだ。だが聞いてみるとこのカラス、悪どころか実に頼もしい存在だった。
最大の特徴は赤外線を放ち、真っ暗闇でも録画が簡単にできるところ。ボタン1つですぐ録画を始めることができるから、事件に遭遇してしまったときなどに、犯人の証拠保全ができる。人間の肉眼では見えなくても、音のする方にレンズを向けて撮っておけば、もしかしたら決定的証拠が映っていた……なんてこともあり得る。
ヘッド部分にある四つの目はそれぞれ、上の目が赤外線照射、下の目がカメラレンズの役割を果たす。そして左右は直線LEDライトと拡散LEDライト。LEDは20メートル先まで照らし出すというから、懐中電灯としての機能面は十分。そして上の赤外線が暴いた闇を、下のレンズから録画する。10メートル先の被写体まで録画可能だ。こうして四つの目が相互に補完しあい、見て撮ることができる。
一方、音声の録音は2〜3メートル先まで。10メートルある録画機能に比べると短い気がする。サクサによると、録音機能はあくまで使い手側の記録用だからだそう。仕事で夜間警備などにあたる人は、地点ごとに紙に書いて1つ1つ記録していくのはわずらわしい。でも映像を録画しながら音声で現場中継をすれば、書く手間が省けて効率も上がるというわけだ。
録画が最大の特徴であるこのカラス。いちばん気になる録画時間はいかほどか。SDカードで最大4Gバイトまで記録でき、この場合、最長時間の7〜8時間まで可能だという。また、カードを抜き取ってPCに取り込むこともできるし、外部端子にAVコードをつないでテレビなどに映し出すこともできる。
赤外線カメラは被写体に気づかれることなく対象物を捉えることができるから、一歩間違えれば盗撮になる。当然だが悪用してはいけない。なにより誰もが簡単に使えるようでは、プライバシー保護の観点からもリスクが高まる。そのあたりについて聞いてみたところ、「パスワード入力しないと、機能しないようになっているんですよ」と、サクサ。さらに販売にあたり顧客リストを作成し、万が一のときに購入者を割り出せるよう徹底管理するという。ここまでやれば、あとは購入者のモラルに問うしかないだろう。
さらに会場を回っていると、他ブースでも同じような懐中電灯を見つけた。キャロットシステムズの「オルタプラス」ブランドから春に発売予定の「LEDライト型デジタルビデオレコーダーAD-1500」だ。卵型のヘッドが目をひく同製品は、紅カラスを一回り小型にした印象。全長は紅カラスより約10センチ短い約32センチで、重さも300〜400グラム軽い450グラム。
紅カラス | デジタルビデオレコーダーAD-1500 | |
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発売元 | サクサ | キャロットシステムズ |
価格 | 15〜20万円予定 | 約8万円予定 |
発売時期 | 6月予定 | 春予定 |
形状寸法 | 40〜85×400〜430 (グリップ外径〜ヘッド外径×全長) |
41〜97×323ミリ (グリップ外経〜ヘッド外径×全長) |
重さ | 800〜900グラム予定 | 450グラム(電池含まず) |
カメラ画素数 | 41万画素 | 30万画素 |
最長録画距離 | 10メートル | 4メートル |
最大録画時間 | 7〜8時間 | 3時間以上 |
対応外部メモリ | 最大4Gバイト | 最大2Gバイト |
無線リモコン | 標準装備 | なし |
暗証番号機能 | 搭載 | 未搭載 |
無線リモコン | 標準装備 | なし |
充電器 | 専用充電器付属 | 専用充電回路内蔵 |
充電池の種類 | リチウムポリマー電池 | ニッケル水素電池 |
キャロットシステムズによると、去年もSECURITY SHOWで試作品を出品しており、この1年間はそのときの声などを取り入れ、改良を重ねてきたという。甲斐あって今春、めでたく市場に出回る準備が完了。こちらは紅カラスより一回り小ぶりなためか、上の表のように内外ともに、紅カラスよりライトな造りになっている。
1点だけ気になるのは、この卵型ヘッドの懐中電灯にはパスワードのセキュリティ機能がないこと。プライバシー保護、また悪用を防ぐ観点からここはぜひ、今後改善してほしい旨を伝えてみた。すると、将来的には独自のファイル形式を導入するなど、対処を検討しているとの返答。今のところ、商品パッケージにモラル喚起の文言が入っているそうだ。
さて、冒頭でカラスは悪のイメージがあると書いたことを覚えているだろうか。実はカラスは、古く「古事記」や「日本書紀」の神話のなかでは神として登場する。Jリーガーたちもわが国の守り神として、ユニホームの左胸にカラスを配している。
サッカーの守り神であるようにこの紅カラス、治安の守り神として汚名返上なるか……。発売は春たけなわの6月。あまり活躍されても犯罪の発生を証明するようで複雑な心境だが、ここは1つ、夜の守護神として羽を広げ、日本の治安維持に一役買うことを期待しようではないか。
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