第1回 「一応やりました」――きちんとやってから持って来い!つい口に出る「微妙」な日本語

【一応】……「ひと通りやった」を意味する言い回し。「完全は保障しないけど」というエクスキューズのニュアンスが濃厚。

» 2008年03月04日 15時27分 公開
[濱田秀彦,ITmedia]

 日常会話で頻繁に使われ、自分でもよく使うのに、自分に向けられると何だか癇にさわる……、そんな言い回しに、コミュニケーション研修のプロが「言われた側の立場」からするどく突っ込みを入れます。第1回のお題は【一応】。ひと通りやった(けど完全は保障しない)というエクスキューズのニュアンスが濃厚な言い回し、あなたも使っていませんか?


Aくん:「千葉さんって大学はどちら?」

千葉:「一応、ハーバード大学です」



   出現度……★★★★
   不快度……★★★★

 一応って何なんだ! 「一応」の定義を辞書で引くと「〔完全とは言えないが〕ひと通り。ひとわたり」とあります。おおかたここでは「こんな会社にいるけどさ、ぼくは難しい試験をパスして海外の優秀な大学を卒業できるくらい頭がいいんだよ、君らと違って」というような意味になるのでしょう。

 こういうイヤミな人物は論外としても、「一応」の多用はあまりいい印象をもたれることがありません。

「ホームページ改訂の見積もりは持ってきてくれたの?」

「はい、一応できておりますので、ご説明させていただきます」


 実際には見せても恥ずかしくない仕上がりなのに、謙遜して「一応」と言っているだけだとしても、言われた側は「一応できている」を、「着手はしたが未完成」あるいは「やっつけ仕事でクオリティーが不十分」ととらえ、「一応ではなく、きちんとしたものが完成してから出直してくるように」と、あなたを追い返そうとするかもしれません。

 「まず、こちらのデザイン料ですが、ページ単価は通常通りで、プログラム費用についてはトータルで50万円になります。初回見積もりなので念のため、一応可能性のある機能をすべて含めてマックスで盛り込んでおります

 「高いねえ」


 「一応すべて」の機能を盛り込めば、そりゃ高くなります。仕様があいまいな部分は金額が見えませんから、提出期日を優先して、少し高めにエイヤッと出すしかなく、暫定的な話にならざるを得ないでしょう。そこは仕方ないのですが、やはりここでも「一応」は問題ありです。

 「一応」をつけることは、自ら「未完成で不確かである」と公言するようなものですから、特に交渉の場では要注意です。海千山千の相手に「一応」を連発すると、「これは、どうにでもできるな」と舌なめずりして攻めてきます。例文のやりとりで言えば「ほほぉ、一応マックスにしてみたと。じゃあ、ミニマムだとどうなるのかな?」と主導権を握られてしまうでしょう。

 「一応」によって相手の感情(かんじょう)を逆なでする一方で、勘定(かんじょう)に響く事態にもなりかねないのです。今のはシャレのつもりです、一応。

肝に銘じよ!

「一応」が とれないうちは 未完成


筆者:濱田秀彦(はまだ ひでひこ)

ヒューマンテック代表取締役。1960年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業。住宅リフォーム会社に就職し、最年少支店長を経て大手人材開発会社に転職。トップ営業マンとして活躍する一方で社員教育のノウハウを習得する。1999年に独立。現在はコミュニケーション研修講師として、プレゼンテーション、話し方、マネジメントなどの分野で年間100回以上の講演を行っている。また、Webサイトのプロデュース、システム開発も手がける。著書には『ビジネス快話力』(主婦と生活社)、『みんなのパワーポイント企画・構成・話し方』(エクスナレッジ)などがある。


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