苛烈なスピードアップ志向へのアンチテーゼ──『快ペース仕事術』 5分で読むビジネス書

あなたはハイペース派とマイペース派のどちら? 一時的に加速できたとしても、そのスピードを維持できなければ“旧式マイペース”のカメに抜き去られてしまう。その対策を伝える一冊。

» 2007年12月11日 12時18分 公開
[大橋悦夫,ITmedia]
表紙

佐々木正悟『快ペース仕事術』(グラフ社刊)

 つまり、ハイペース派とマイペース派とで勝負すれば、結局ハイペース派が勝つに決まっている。『ウサギとカメ』の話は、しょせんは昔話に過ぎないのだ。途中で「昼寝」したりせず、最後まで全力で疾走すれば、ウサギが勝つのは明らかだ。カメはリストラされてしまうだろう。

 しかし、問題は「勝ち残った」ウサギのほうだ。ウサギはカメに勝つだけでは不十分で、他の勝ち残ったウサギたちと、ますます苛烈なレースにチャレンジし、しかも勝ち続ける必要がある。

 特に考えるまでもなく、このレースの勝者はごく少数だ。これはほとんど誰もが負けるレースなのだ。それほど遠くない将来、ほとんどの勝ち残ったウサギのほうもまた、うつ病や慢性疲労症候群といった心の病になって脱落を余儀なくされる。(p.177)


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 著者は『スピードハックス』・『チームハックス』(いずれも筆者と共著)をはじめ、『ライフハックス』『ブレインハックス』など、いわゆる“ハックス系”の著書を多数発表している。特徴的なのは、心理学や脳科学の知見をベースに論を展開している点。

 例えば、本書には次のようなトピックが登場する。

  • 「時間が足りない」と感じる理由
  • 「非現実的な予定」を組んでしまう理由
  • 「ちょっと休もう」と仕事から脱線する心理

 いずれもビジネスパーソンにとっては“あるある”な話題ではないだろうか。これらについて「なぜそうなのか」を掘り下げて解説を付している。

 1つめの「時間が足りない」と感じる理由はこうだ。一般に楽しい時間は早く過ぎるように感じられ、苦しい時間は遅く感じられるものだが、著者は「もっと多くの時間が欲しいという欲求」が根底にあると主張する。楽しいかどうかではなく、より多くの時間を必要としているか否かによって、時間の流れに対する感じ方が変わるというわけだ。

 冒頭の引用部分にある通り、本書では「ハイペース」と「マイペース」という2つの立場を対比させる。さまざまなテクニックや方法論を次から次へと仕事に取り入れ、多少のミスは気にせずとにかくスピードアップを目指すハイペース派(ウサギ)と、1つの方法にこだわって頑なに、しかし確実に仕事を進めるマイペース派(カメ)の二派だ。

 時代はハイペース派を求める傾向が強いが、著者はこれに対して次のように警鐘を鳴らす。

 仮に、合理的な「時間管理術」や役立つ「スピード仕事術」を学んだとして、それを活用し続けられるのか?

 最新の「スピード仕事術」を駆使して一時的に加速できたとしても、そのスピードを長期間にわたってキープできなければ、“旧式マイペース”のカメに抜き去られてしまう。あるいは、そのまま高速ペースを維持できたとしても、そこに無理があればその歪みは心を蝕み、いずれリタイヤを余儀なくされてしまうだろう。

 そこで、著者は「マイペースを高速化する」という秘策を提案する。本書のタイトルにある「快ペース」とは、モチベーションをしっかり保ったまま「時代の要請」にある程度答えられる「マイペース」とされている通り、ここが本書のキモになる。その内容をまとめると次の5項目になる。

  • 失敗を「脳から閉め出す」方法
  • 段階的にマイペースをシフトアップする方法
  • 加速に伴うストレスを減らす方法
  • 朝の時間を最大限に活かすためのヒント
  • 最も効率的な昼寝の取り方

 とはいえ、やむを得ずハイペースで走らなければならない状況もあるだろう。著者はそのようなケースに配慮して、次のようなヒントやアドバイスも併せて紹介している。

  • 緊急事態をはっきりさせる
  • 取りかかる30分〜1時間前にブドウ糖を摂る
  • 「ゴロゴロする」ことの驚くべき作用
  • 不安に対処する方法
BOOK DATA
タイトル: 快ペース仕事術
著者: 佐々木正悟著
出版元: グラフ社刊
価格: 1260円
読書環境: ×書斎でじっくり
△カフェでまったり
◎通勤でさらっと
こんな人にお勧め: 日頃から「時間が足りない」と感じているのに、ふと気づくとダラダラ過ごしてしまっている人。

 1つめの「緊急事態をはっきりさせる」については、次の2つの例を見比べるとよく分かるはずだ。

  1. もう時間がない!
  2. 原稿の締め切りまでは徹夜しても残り5時間しかなくて、その間に原稿用紙200枚を書き上げなくてはならない。

 いうまでもなく、後者の方がリアルに「緊急」であることを実感できるだろう。「もう時間がない!」だけでは、「でもまぁ、何とかなるだろう」という油断の入り込む余地を生んでしまう。残り時間と作業量を数字で把握すれば、「こうしてはおれない!」と即座に仕事に取りかかるというアクションが引き出されるわけだ。

 もし今この記事を読んでいるあなたが、「緊急事態」の真っ直中にいるのなら、それがどのように、またどのくらい「緊急」なのかを具体的に書き出してみるといいだろう。

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