銀行からベンチャーへ 楽天の魅力は「価値観が固まらないこと」──田中さん田口元の「楽天でつくるネットサービス」探訪 Special

畑違いの銀行から楽天へ転職した田中カオルさん。一歩ずつ、自分のいるべき場所、するべき仕事を見つけて、自分のポジションを作ってきた。さまざまなバックグラウンドを持った人が次々と入ってくる楽天の魅力とは。

» 2007年12月10日 10時00分 公開
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 楽天でつくるネットサービス、今回は楽天市場で6年間の経験を積み、現在楽天トラベルのプロデュースを手がけている田中カオルさんにお話を伺った。前職では銀行でSEを勤めていたという田中さん。大企業から入社番号256番のベンチャーへ。銀行とは全くカルチャーの違う職場で自分の立ち位置を見つけてきた田中さんの仕事術とは。

自分で見つけたエンジニアの中でのポジション

 「コードも書かないやつが何でここにいるんだよ」。銀行から“システムプロデューサー”という役割として転職した田中さんへの風当たりは強かった。田中さんが入社した2001年当時の社員数は200名程度。いまでこそ1300名を超える社員を抱える楽天だが、当時はまだ開発と営業の距離も近かった。前職でのSEの経験を活かしてバリバリ仕事をしよう、と思っていた田中さんだが、詳細仕様を詰めたり、細かいスケジュール管理をしたりといったSEの仕事は必要とされていなかったのだ。

 「私にできることは何かないですか、と聞くと、いいから黙ってそこに座っていて、とよく言われましたね」。転職当時の苦々しい思い出を田中さんはそう語る。しかし、田中さんはめげなかった。前職の銀行にはなかった勢いがこの会社にはあった。自分でやれることを見つけてみよう、初めて自由な環境に身を置いてそう思った。

 銀行には5年勤めた。「就職氷河期だったのでSEしか募集がなくて」と語る田中さん。大学では教育学部だったが、まったく畑違いのSEとしてキャリアを始めることになった。「C言語の研修から始まって、金融商品の評価システムを作るようになりました」。がむしゃらに仕事をしてきたが、将来に対する漠然とした不安を感じていた。

 「銀行はやはり確立された仕事なので、〜すべき、〜あるべき、といった銀行的な価値観が染み付いてきました。ほかの会社の人と会うと自分の価値観が偏ってきているな、と感じていたのです」。もっといろいろなバックグラウンドを持った人たちと接してみたい。そう思い、ベンチャーである楽天に飛び込んだ。

 転職当初は自分の立ち位置を見つけられずに苦労したが、銀行とは違う、ダイナミックな職場環境には満足していた。何をしたらいいか分からない──ということでさえも新鮮だった。分からないながらも自分ができることを見つけようと努力しているうちに、「あれ、これはおかしいな」というところが目についてきた。

 トラブルが起きたときなど、全員が必死で対処していたが、実は隣に座っているエンジニアも同じことをしていたりと、ほかの人が何をやっているか把握していない職場の現状に気がついた。全体を見渡して、常に状況を説明できる人が誰もいなかったのだ。

 「ミーティングに出て進捗の報告をするのですが、あまりに大雑把でした。スケジュール表を見せてもらっても『コーディング3週間』とだけ書いてあったり」

 そこで前職でよく使っていたスケジュール表を自分で作り、誰が何をやっているのかをヒアリングしてまとめることにした。作業の邪魔と煙たがられながらも、何とかまとめたスケジュール表からはいろいろなものが見えてきた。「同じような作業をしている人がいたり、あきらかに仕事を抱え過ぎている人がいたりすることが分かってきたのです。そこから少しずつ業務の改善を提案していきました」

「1日800通の苦情メールが来てしまって……」 ショップ向けシステムの難しさ

 一歩ずつ、自分のいるべき場所、するべき仕事を見つけていった田中さん。その後数年間は一貫して、楽天市場のショップ向けシステムを改善してきた。ただ、そのすべてがスムーズにいったか──というと、もちろんそうではない。

 「1日800通の苦情メールが来てしまって……」。田中さんは初めての大きな失敗についてそう教えてくれた。田中さんが手がけていたのはショップ側の受注管理システム。実際のショップさんにヒアリングに行き、必要な案件を洗い出した後に実装したはずだった。

 当時の受注システムは注文の一覧が出てくるだけ、といった実に簡単なものだった。しかしこれではきめ細かい顧客対応ができない。決済方法ごとに絞り込んだり、入金待ちの顧客一覧を表示したり、といった機能もなかったのだ。このシステムが使いにくかったため、売れているショップさんでは受注処理が追いつかなくて売ることができない、といった本末転倒な事態も起きていた。

 新しいシステムはデータの絞込みや並び替えといった機能をはじめ、データから伝票をそのまま印刷することもできた。ショップ側の業務もずいぶんと軽くなって喜んでもらえるに違いない……そう思っていた矢先の出来事だった。

 「分かりにくいし、使いにくい!」「すぐに元の画面に戻してくれ!」「なんでこんな風になったんだ、説明してくれ!」──。そうした苦情が山のように寄せられた。事前準備をしてきたはずだったが、ショップ側からは突然の変更に見えてしまったのだ。しばらくは、毎朝改善のリリースを行い、また営業の方を通じて、1つ1つ丁寧に根気よく説明してもらえるよう走り回った。

 なんとか分かってもらえたが、「あの受注システムがなかったら今頃やってられないよ」という声が聞こえてきたのはその半年後ぐらいだった。システム変更の難しさを身にしみて学ぶことができた田中さんは、その経験を活かし、その後も次々にショップ側のシステムを改善していった。

「我々はネット販売をしてそれでおしまい」ではダメ

 6年間、楽天市場でショップ側のシステム改善をした後、2007年からは楽天トラベルのプロデュースを任されている。「楽天市場にしろ、楽天トラベルにしろ、我々はネット販売をしてそれでおしまい、ではダメだと思っています」

 楽天市場では、お客様がネットで商品を購入してからが重要だと考えている。きちんと商品が届いて、それに満足してもらえること。そこまでをサポートしないと意味がない。楽天トラベルも同じだ。ネットでホテルを予約して、その施設に満足してもらえて初めて楽天の価値が上がってくる。

 「そのために力を入れているのがやはりクチコミです。楽天トラベルには施設ごとに『お客様の声』を集めています。いまでこそ普通に使われていますが、当初は業界でも挑戦的な試みでした」。従来までの旅行予約サイトでは当然のことながら施設の悪い面を伝えることはしていなかった。しかしこうした声も含め、積極的に公開することこそが顧客満足につながっていく、と田中さんは考えている。

 「うまくいっている施設だと、この『お客様の声』を毎朝印刷して、朝会で社員全員が回覧しています。そうすることで現場のサービス改善に努めているのです」。クチコミ情報を掲載することで、現場の意識が高まり、それが巡り巡ってお客様の満足につながっていく。そしてそうした「うまくいっている事例」は楽天トラベルに協力してくれる施設の間で共有していく。その結果、楽天トラベルの価値が高まっていく、という仕組みになっている。

 もちろん改善すべき課題は山積みだ。田中さんが今、力を入れているのは既存システムのAPI化。「旅行サイトで重要なのは顧客の細かい要望に応えていくこと。そのためには提供しているサービスを自由に組み合わせることができて、営業から要望が上がってきたときにすぐにシステムを提供できるようにしておかなくてはいけません」。また、API化を進めることにより、外部サイトとの連携も密にしていくことができる。

 ネット販売であっても、対面販売の良さを失わせてはいけない……。田中さんはそう考えている。旅行を楽しみにしているお客様が窓口で要望を聞いてもらえるように、楽天トラベルも自由に楽しい旅を組み立てられるようにしたい、と強く願っている。

常に変化。「価値観が固まっていく」感覚がない楽天

 「人を観察するのが好きですね」と田中さん。学生のころは電車で通学していて、車内の人を見回してだれが次の駅で降りるのかを観察するのが日課だった。「もちろん自分が座りたかったからですけど(笑)。でもそのころから人を観察する能力を磨いてきたような気がします」

 大学時代はヨットに熱中した。2人乗りのヨットでは常に相手の観察をしていた。「相手がいかに気持ちよく力を出せるか、を常に考えていました。人によってはリラックスすることが力につながる場合もあるし、ある人は怒りが力につながる場合もありました。ヨットではそれを見極めてレースをしていました」

 その観察の癖は仕事でも大いに役立っている。楽天市場を手がけていたときは、ショップさんの現場によくお邪魔させてもらっていた。「印刷する伝票1つとっても、商品を詰めて発送作業をしている人の気持ちにならないとダメです。ここに送るべき商品があって、ここに伝票があったとしたら、どこにどういった情報が印刷されているべきか、突き詰めて考え抜くことで使いやすいシステムができてくると思います」

 銀行から楽天に転職、6年間走り続けてきた。楽天の良さは「常に新しい力が入ってくること」。上司であっても、部下であっても、同僚であっても、さまざまなバックグラウンドを持った人が次々と入ってくる。田中さんが銀行で感じていた「価値観が固まっていく」感覚がここにはない。

 入社したときに衝撃を受けた言葉は、「役割でなく、存在であれ」。当時の本部長の言葉だった。組織や役割は後でついて来るもの、前に進むためには、遠慮はいらないということを楽天で仕事をしていく中で実感した。入社当時は「お前、なんでここにいるの?」と言われてきた田中さん。自分の力を思う存分発揮できる居場所を楽天で見つけることができたようだ。

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提供:楽天株式会社
アイティメディア営業企画/制作:誠 Biz.ID編集部/掲載内容有効期限:2008年2月29日