コクヨが選んだ「融通のきくもの」――1枚1200円の「紙キレ」

コクヨデザインアワード2007、グランプリは方眼状にミシン目を入れた「紙キレ」。一見、普通の方眼紙に見えるが……。

» 2007年10月23日 13時56分 公開
[鷹木創,ITmedia]

 コクヨは10月22日、「コクヨデザインアワード2007」の受賞作品を発表した。グランプリの「紙キレ」を含む合計11作品が優秀賞などを受賞。審査員長は工業デザイナーの山中俊治氏が務めたほか、佐藤オオキ氏、柴田文江氏、水野学氏に加え、コクヨの黒田章裕社長が審査した。

グランプリは「紙キレ」

 コクヨデザインアワードは、顧客視線でのモノづくりを強化することを目的に2002年に始まった。過去の受賞作品の中からは「カドケシ」や「パラクルノ」などが製品化されている。6回目となるコクヨデザインアワード2007のテーマは「融通のきくもの」。「いろいろな人に使える」「時を選ばない」「これ1つで足りる」など、柔軟で許容範囲の広いアイデアを募集し、4月1日から6月30日にかけて国内外から合計1723点(国内1579点、海外144点)の応募があった。

アワードのロゴ。審査員も務めたアートディレクター水野氏によるもの。立方体にも見えるし、六角形にも見えるデザインを意識したという
作品名 概要 受賞者・グループ名
紙キレ グランプリ 方眼の目に合わせてミシン目が入った用紙。自分の工夫次第で好きなところを折ったり好きなサイズに切り取れる。 三人一組
yajirushi 優秀賞 矢印のペン先を立体的にデザイン。指示棒やマグネット、ペーパーウェイトとしても使える。 大木陽平氏
tuck 安全ピンとゼムグリップとを融合した作品。 山口智宏氏
Beetle head ペン先の形状がカブト虫の角のように2マタに別れているペン。それぞれ断面の大きさが異なるため、用途によって使い分けできる。 Park_misaki氏
number clip
Numbers Gem
0から9までの数字をかたどったゼムクリップ。書類を留める機能の他、日付や番号として目印にできる。 乙部博則氏
金子久秀氏
cashier tray 山中俊治賞 電卓が組み込まれたトレイ。支払いの時などその場で計算・集金が可能。 斉藤ダイスケ氏
Silhouette 佐藤オオキ賞 筆先と同じ形状を柄にもデザインした絵筆。水にひたした状態でも筆の種類を見分けることが可能。 DeMo
wagomu 柴田文江賞 輪ゴムを筒状に束ねた作品。バラバラになりがちな輪ゴムを、整理整頓できる。好きな厚みに切り取れる設計にもなっている。 宮脇将志氏
コトハリ 水野学賞 原稿用紙のデザインを取り込んだロール型の付せん。ます目に合わせて書くことで文字数や内容が分かりやすい。 志喜屋徹氏
Double Faces コクヨ賞 漢数字の偶数が左右対称であることに着目してデザインした定規。裏から見ても使えるリバーシブル仕様。 Xu Han Rui氏
各賞のトロフィー。こちらも水野氏がデザイン。左が各審査員賞(重さ4キロ)、中央がグランプリ(14キロ)、右が優秀賞(8キロ)と相当重い

「紙キレ」1枚1200円也――

紙キレ

 グランプリの「紙キレ」は、その名のとおり“紙”である。一見、普通の方眼紙に見えないこともないが、方眼状に入っているミシン目に工夫があった。機械に通してギアなどで穴を開けていく通常のミシン目を入れる作業では、穴に段差ができてしまい、ペンを滑らかに走らせることができない。紙キレでは通常のノートなどと同じようにペンで書けることも重要視。レーザー加工によって穴を開けたという。

 制作したのは「三人一組」。「同じ会社の同僚で同じ価値観を共有している」という相原和弘氏、吉田智哉氏、齋藤美帆氏による男性2人女性1人のグループだ。相原氏によると、折り曲げた時の美しさにもこだわったという。正方形に見える方眼も、実は縦横の長さを微調整。「紙キレをミシン目に沿って半分に折ったときに、端がキレイにそろうようにした」(相原氏)

こんな感じで切り取って使える

 制作費はA4用紙1枚で1200円。コクヨのA4キャンパスノート(40枚)1冊336円と比べると、単純に紙キレ1枚で4冊分に相当する。もし紙キレで同じキャンパスノートを作るとすると単純計算で9万8000円也――というわけだ。

 ノートにするには相当な金額。だが、山中審査員長は「(紙キレを作るために)紙を加工するのは費用がかかりそうだが、紙そのものを作る時に工夫をしておけば費用を抑えられるのではないか」と製品化を希望。コクヨでも今後、量産化できるかどうかを検討したいという。

“融通のきく”ゼムクリップ、付せん

 審査員の1人、佐藤氏によると「去年の応募作品には付せんと消しゴムが多かったが、今年は付せんとゼムクリップが多かった」という。特にクリップは受賞11作品のうち優秀賞に3作品と“健闘”した。

 安全ピンとゼムグリップを融合した「tuck」を制作した山口智宏氏によれば、「机の引き出しに安全ピンとゼムグリップをくっつけられないか」と発想したことがきっかけ。「ありそうでなかったし、デザインも美しい」(柴田審査員)などと審査員からも評判だった。

 「書類を留めるクリップに、目印の番号を付けたら」というアイデアが偶然一致したのは「number clip(乙部博則氏)/Numbers Gem(金子久秀氏)」。両作品ともゼムクリップの楕円の中に0〜9までの数字をデザインした。「針金を少しずつ折り曲げながら調整した」という乙部氏は、「折り数が少ないほうが製品化した際に費用を抑えられる」と数字のデザインをシンプルにした。一方、金子氏は数字のタイポグラフィにこだわり、袋文字の数字をデザインした。

安全ピンとゼムグリップを融合した「tuck」
「number clip」(左)と「Numbers Gem」(右)

 プロダクトデザインから乙部氏が、グラフィカルデザインから金子氏が、それぞれの手法で同じようなデザインの作品に行き着いたのは興味深い。費用面は乙部氏のnumber clipが低く抑えられそうだが、書類を押さえる力は袋文字のNumbers Gemが高いという“個性の違い”も面白い。

 付せんを素材にした作品では「コトハリ」が水野学賞を受賞した。ロール型の付せんで、付せん自体に原稿用紙のます目をデザインした。ます目を描くことで、書きやすさや読みやすさを向上したという。

「コトハリ」

ペン先が“カブトムシ”

 このほか、ペン先がカブトムシの角のように二股に別れているペン「Beetle head」(Park_misaki氏)や、漢数字の偶数が左右対称であることに着目したリバーシブル定規「Double Faces」(Xu Han Rui氏)なども目を引いた。コクヨではいずれも製品化に向けて検討したいとしている。

「Beetle head」。特殊な形状のペン先にあわせてキャップの入り口も楕円状にした
リバーシブル定規「Double Faces」。中国からの応募作品だ

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