社内報の底力を思い知る──『もっと! 冒険する社内報』5分で読むビジネス書

多くの会社で作られている社内報。その社内報は、有効に活用されているのだろうか? 社内報のプロが経験から語る社内報の役割とは?

» 2007年09月28日 15時26分 公開
[伊藤緑,ITmedia]
表紙

福西七重 『もっと!冒険する社内報』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)

 社内報は、会社のトップの考えや各部の動きを伝える場であるとともに、社員の自由な発言の場でもある。社員はここで、仕事への意見や提言、自分の考え、信条などを自由に発言できる。

 社内報で、全社的に情報共有することは、社内活性化というメリットを生む。

 社員は自分の意見が周囲に理解され、共感されたとき、なんとも言えない解放感を味わう。元気になるし、ヤル気も起きて、仕事に対する気持ちがリフレッシュされる。

 一方、経営者は、社内報を通して、社員の会社に対する意見、問題意識を知ることができる。それを材料にして、会社の舵取りのヒントを得る。(p.26)


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 社内報を意識して読んだことはありますか? 社内報の役割を考えたことがありますか?

 こんな質問をすると、おそらく「毎月なんとなく読んでいる」と答える人が多いのではないだろうか。本書は、社内報が企業内で果たす役割と社内報に対する考え方を書いたビジネス書である。

 ある朝、社長から「コミュニケーションを中心にした社内報を月刊で作りたい。やってみないか」と言われた著者・福西七重氏が、26年間に渡り、編集長を務めたリクルートの社内報『かもめ』。編集や制作のプロが多くいるリクルート内で、編集の経験がほとんどない著者が社内報担当者に選ばれた理由は2つある。

  • 会社の組織のことを知っていること。
  • 社員のことをよく知っていること。

 編集について詳しくないのに、なぜ? と思う気持ちも、本書を読み終える頃には、この理由をなるほど、と思うはずだ。リクルートの社内報『かもめ』は、著者の在籍期間に、全国社内報コンクールで、24年連続入賞、総合優秀賞受賞10回を記録していることからも、その言葉には説得力がある。

 良い社内報とは、担当者に編集知識があるとか、文章がうまいということでできるものではない。「編集技術は3号もやれば後からついてくるよ」と言われた著者が、エネルギーの7割を割くのが企画だという。具体的には、どんなことかというと、

 「いま、会社にどんな課題があり、どういうテーマを展開すれば社内コミュニケーションが活発になり、働く場としての会社が良くなるか、また社員の持つ問題に議論の場を与えられるかを考えることにエネルギーを割くのだ。」

 会社のことを知り、社員のことを知り、今、何を伝えることが会社にとって、社員にとって必要なのかを考える企画力が必要なのだ。

 そして、冒頭に引用したのは、社内報が経営トップからの一方的な考えの押しつけではなく、経営トップからの経営に関するメッセージと、社員からの意見や問題提起が双方向に働くことで活性化が起こり、社内報がいかに有効なメディアとなるかが、記された部分である。

 多くの経営者が、このことを忘れていないだろうか。この事実を認識すれば、社内報で経営について語ることの必要性を感じ、社内報で語られる社員の言葉を軽視できなくなるはずである。社内報は、会社の健康状態を示すメディアであり、経営者と社員の思いが出会う場なのである。

BOOK DATA
タイトル: もっと! 冒険する社内報
著者: 福西 七重著
出版元: ナナ・コーポレート・コミュニケーション
価格: 1575円
読書環境: △書斎でじっくり
◎カフェでまったり
×通勤でさらっと
こんな人にお勧め: 経営者、社内報担当者。社内報に興味のある人。

 とはいうものの、社内報担当者にとって、経営トップへの取材依頼は、難しかったり、時間をとってもらえなかったりするもの。また、社員に原稿を依頼してもなかなか書いてもらえないことも多いだろう。このような、社内報担当者の悩みにも、本書は充分に答えてくれる。どのようにして、トップへの取材を行うか、社員との信頼関係をどのようにして結んだか、実践できるヒントがある。

 そして、社内報の役割の1つとして、企業が危機的状況のときに、力を発揮することが明記されている。何か問題が発生したときに口をつぐむ経営者も多いが、リクルートでは、1988年のリクルート事件の際に、辞任を決めた会長へのインタビューを行い、社内報の臨時特別号を制作している。社員が不安になるときだからこそ、経営者が語る必要があり、それを伝えるメディアとして社内報はとても有効なのである。

 本書を読めば、経営者は、社内報担当者からの取材を時間がないと断っている場合ではないことに気づき、社内報担当者は、机に座って悩んでいる場合ではないと気づくだろう。そして、社内報の底力を認識するに違いない。

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